第5章 2 分かたれた仮想世界。
文章がおかしな点を修整いたしました。
深夜――。
美咲から、立て続けに通知が届いた。
真っ暗な部屋に、デバイスの淡い光が灯る。
ピロン……ピロン……
止まらない通知音。
やがて、着信音が鳴り響いた。
「……ふぁ……」
寝ぼけ眼を擦りながら、デバイスをタッチする。
「何時だと思って……」
『やっと出た! 早くログインして
防衛戦始まってるよ!』
一気に目が覚めた。
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ログイン。
東京エリアの空に、**巨大な影**が落ちている。
転送ゲートは、沈黙していた。
周囲では、プレイヤーたちのざわめきが広がっている。
「やっぱ事前告知なしだったな……」
「ヤバい、緊張する!!」
「俺、装備ちゃんと整ってねぇよ……」
東京エリアだけあって、プレイヤーの数は桁違いだ。
この人数なら、今回の防衛戦なんとかなりそうだ。
「……てか、今回、乗り物いらなかったな」
ぽつりと呟く迅に、美咲が腰に手を当てる。
「それは言わないでよ!
こういうこともあるでしょ!」
紗良は端末を操作しながら、SNSを流し見ていた。
「何か情報あったか?」
「うん……前回より、明らかに多い」
紗良は顔を上げる。
「色んなエリアで防衛戦が発生してる」
「どれくらいだ?」
「……たくさん!…9
わかんない…」
美咲をあとを追うように情報収集する。
「12ヶ所だね」
一瞬、言葉を失う。
前回の倍以上。
「……どれだけ、防衛失敗するんだろうな」
迅は、転送ゲートを見つめながら、胸の奥に広がる不安を押し込めた。
――開始まで、残り30分。
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中国・上海エリア。
九尾の晩餐――円卓の間。
一人の男が、巨大な世界地図を見下ろしていた。
デバイス越しに、落ち着いた声が響く。
『総帥。準備は整いました』
「ああ……」
男は、静かに駒を地図へ置いていく。
「今宵一夜――
我ら九尾の晩餐が、仮想世界を掌握する」
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再び、東京エリア上空。
「なんだあれ…」
敵戦艦とは**明らかに異なる影**が、都市の上に現れた。
敵戦艦と並ぶ大きさの戦艦。
「新手か!?」
「そんな話、聞いてねぇぞ!!」
突然の出現に、プレイヤーたちの混乱は一気に膨れ上がる。
美咲は即座にSNSを確認する。
他の防衛戦エリアにも、同じ形状の戦艦が出てる映像がSNSでアップされていた。
「どういうことだ……?」
迅が呟く。
「大規模イベントの……追加システム?」
戦艦は、交差点のど真ん中へと降下し、着陸した。
ハッチが開き、乗員が次々と姿を現す。
数え切れないほどのアバター。
所属表示が、一斉に視界に浮かぶ。
――**九尾の晩餐**。
中国最大手ギルド。
「……まさか、防衛戦の全エリアに?」
「いや、全部じゃない」
美咲は冷静にSNSの情報を照合し数える。
「6……7……8機くらいかな」
美咲が首を傾げる。
「一人一人、戦艦に乗ってるなら1機足りない…九尾の晩餐って、幹部は9人って聞いたけど……」
その時。
最後に、**異形**のアバターが現れた。
まるで影が人の形を取ったような、真っ黒なボディ。
黒い焔を纏い、腰にはジャラジャラとナイフを何本も下げている。
圧倒的な存在感。
美咲が、低く告げる。
「九尾の晩餐――
幹部序列6位。
**暗殺の沈・夜哭**」
堂々たる立ち姿。
その黒い焔は、周囲の空気ごと呑み込むかのようだった。
「……なんだか知らないけど、ありがてぇ! 応援か!」
「いや……どう見ても怪しいだろ」
「コエーんだけど。外国のギルドって、あんな感じなのか……?」
周囲のプレイヤーたちも、中国ギルドの突然の出現にざわついている。
「あいつらも美咲の作戦と同じく飛行船乗ってきたね」
紗良が警戒を隠さず言う。
「防衛戦で、大手ギルドが介入してくる前に一気に決める腹かも」
「前回の奪還戦、中国ギルドの介入が一か所だけだったのも変だと思ってたけど……」
美咲は腕を組み、上空の戦艦群を睨む。
「相当、入念に準備してきてるわね」
「……で、今始まってる防衛戦はどうする?」
迅が尋ねる。
「悔しいけど……様子見かな」
美咲は即答しなかった。
「あの人たちが、どう動くか分からないし……少し距離を取ろう」
美咲も、九尾の晩餐が放つ異質な空気を感じ取っているようだった。
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「沈隊長。部隊配置完了しました」
九尾の晩餐の一人が、沈に報告する。
「……転送まで待機と伝えろ」
沈・夜哭は低く応じた。
「報告通りだな……」
視線を巡らせ、日本側のプレイヤーたちを見下ろす。
「日本は、ろくにギルドの編成もできていないらしい」
「……生温いな」
吐き捨てるように言い、沈は手を握りしめる。
アバターの指が、歪むほどの力。
「これから――ここを、地獄に変えてやる」
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転送ゲートが展開する。
転送エリアにいたプレイヤーたちが、次々と敵戦艦へと転送されていく。
甲板に姿を現す、異形の群れ。
ピエロの兵士。
被り物をした人形。
――まるで、狂ったサーカス団。
その奥。
泣き顔の仮面を付けた道化師が、戦艦後方の出っ張りにしゃがみ、こちらを見下ろしていた。
「あいつ……」
「ギャラクシーヒーローズのマスクだ」
「マジかよ……!」
ギャラクシーヒーローズの情報を調べていたプレイヤーたちは、即座にその正体に気づく。
マスクが、演奏するように指を動かした。
すると、ピエロの兵士だけが前進を始める。
操られているかのように、左右に揺れながら走る。
――そして、プレイヤーたちへと衝突した。
ナイフ、斧が振り下ろされ、次々と手傷を負わせていく。
だが。
「……あ?」
「思ったより、弱くね?」
「押し返せ!!」
プレイヤーたちは慣れた様子で、ピエロ兵を倒し始める。
その様子を、九尾の晩餐のメンバーは後方で眺めていた。
一歩も、動かずに。
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反撃の最中。
マスクは、もう片方の手の指をなぞる。
待機していた被り物の人形兵が、一斉に跳躍した。
ピエロ兵に気を取られていたプレイヤーたちへ、背後から組み付く。
――首を、刈る。
悲鳴。
混乱。
そして倒されたはずのピエロ兵士が起き上がり、
プレイヤー達に襲いかかる。
戦場は、一瞬で完全な乱戦状態へと変わった。
その瞬間。
沈・夜哭が、静かに合図を送る。
「――全軍」
一拍。
「突撃」
九尾の晩餐が、ついに動き出した。




