第5章 3 分かたれた仮想世界。
混沌に、刺し込まれる殺意。
割り込んだ中国ギルド 九尾の晩餐が戦場で牙を剥く。
後ろから刃を突き立て、プレイヤーと敵の区別なく――討ち取っていく。
「なっ……!」
迅は絶句。
そこに感情はない。
悪意すら、存在しない。
あるのは、**計算され尽くした暴力**だけ。
血飛沫が、花のように咲く。
有利な者から先に斬る。
倒れている者には、確実にとどめを刺す。
組み合っている者がいれば、両側から二人がかりで刈り取る。
仲間の倒れた身体すら踏み越え、
頭目――沈・夜哭の進路が切り開かれていく。
沈は、腰のロープからナイフを一本外した。
手に吸い付くような、無駄のない握り。
跳躍する人形。
迫るピエロ兵士。
五体が同時に襲いかかる。
――すれ違いざま。
沈の刃が急所を抉り、身体を抜ける。
敵は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
ナイフは、いつの間にか二本、三本と増えている。
ギアが一段上がる。
刃の軌道は研ぎ澄まされ、速度はさらに加速する。
正面に立ちはだかるプレイヤーとピエロ兵士を、同時に斬殺。
縦に割れるように、両者は消滅した。
――加速。
黒い焔の残影が、沈・夜哭の通った軌跡をわずかに描く。
通り道にいたプレイヤー、ピエロ兵士は、
音もなく崩れ落ちていく。
人の業ではない。
恐るべき反射神経と動体視力。
鬼神の進撃。
沈は、瞬く間にマスクの前へと辿り着いた。
マスクは、首の角度を歪める。
互いに、獲物を見定める視線。
――交差する、糸とナイフ。
マスクが指から糸を紡ぎ、蜘蛛のように放射状に伸ばしていく。
そしてそれを閉じる。
張り詰めた糸がピアノ線のように鋭い刃となり、
その軌道上にいたピエロ兵士が巻き込み、バラバラに切り裂かれた。
だが沈は、跳躍しすでにその場から逃れていた。
ナイフと共に、宙を舞う。
マスクは手を上げ、身体を捻りながら振り下ろす。
糸が引かれて
ピエロ兵士が持ち上げられ、沈へと叩きつけられる。
――返り討ち。
沈は両手のナイフを振り抜き、
襲いかかる全てのピエロ兵士を吹き飛ばした。
次の瞬間。
マスクは、ありったけの糸を束ねる。
ピエロ兵士と人形を絡め取り、
異形の化け物を形作り、無数の手が
伸びていく。
だが――
沈・夜哭は止まらない。
糸ごと、構造ごと、存在ごと。
その全てを一息に破壊する。
そして。
糸を失ったマスクの懐へ踏み込み、
首を――はねた。
マスクは、銅像のように硬直する。
首が、転がっていく。
そして消滅。
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**MISSION CLEAR**
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MISSIONCLEARの文字が崩れる。
崩壊した宇宙ー。
無惨に横たわるヒーロー達。
骸となったヒーロー達に影が取り憑いていく。
そして映像が途切れた。
もう、終わりなのか――。
迅は、一歩も動けなかった。
無情にも、リザルトが表示される。
迅 **0ポイント**
美咲 **0ポイント**
紗良 **0ポイント**
そして――
**最優秀者 沈・夜哭 1700000ポイント**
**マスク討伐報酬 《悲哀の仮面》**
東京エリアへ、強制転送。
戻ってきたはずなのに、
迅は何を見ていたのか、理解できずにいた。
脳裏に焼きつく、あの黒い焔。
視界の裏側で、焦がすほどに燃えている。
胸の奥に、熱が溜まっていく。
この感情を――
どこに吐き出せばいい?
戦いを。
闘争を。
勝利の喜びを。
求めて――
半歩、前へ。
だが。
背後から、手を引かれた。
紗良だった。
その手が、震えている。
アバター越しでも、はっきりと伝わる。
恐怖。
怯え。
迅は、何も言わず、そっと手を握り返した。
――。
紗良の震えが、止まる。
役割を終えた沈・夜哭は、戦艦へと姿を消していった。
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### 九尾の晩餐ギルド
### 円卓の間
白澤は、世界地図を見下ろしていた。
各地に配置された“駒”が、静かに光っている。
そこへ、報告が入る。
「総帥。
日本・東京都市エリアにて――
沈・夜哭、マスクを撃破」
白澤は、わずかに視線を動かす。
続けて、別の報告。
「報告いたします。
ケニア・ナイロビ都市エリアにて――
李・酒龍、ガネーシャを撃破」
さらに。
「報告ー。ドイツ・ベルリン。
真羅、葵時雨の2名がギルド《三剣の騎士隊》と交戦。
これを打ち破り、メタルアイを撃破」
報告は、途切れない。
ウインドウから戦闘音と共に声が聞こえてきた。
「総帥ー。全ては順調でございます、直に私の戦場も終わります。…雲仙、右翼の兵を回り込ませろ」
世界が、回っていく。
――九つの尾の中で。
白澤は、静かに口を開いた。
「戦闘を終えた者から、帰還させろ…」
いつもとは違う冷たい声音ー。
一拍、置いて。
「円卓会議を開く」
その表情は――
笑っていなかった。




