第3章 2 そして世界へー。
大坂の陣から、数日が経った。
八雲から、
ボスエネミー撃破は迅たちがいたからこそだ!として
**神珍鉄の譲渡**を提案されたが、迅達はそれを断っていた。
八雲は困ったようにギルドメンバーと相談を重ねる。
そんな中、
八雲商会のメンバーの一人から、ある提案が出た。
——神珍鉄をオークションに出し、
その資金を商会の元手にするのはどうか。
だが、八雲は渋った。
「恩人や、助力してくれたプレイヤーに、
何も返さへんなんて、商人の魂が許しませんわ」
最終的に八雲が出した結論は、
**神珍鉄をオークションに出すこと**。
その資金を元に、
大阪城攻略の祝賀会も兼ねた
**大規模な市場イベント**を大阪都市で開催する。
目的は、日本都市の経済復活。
——奪われた日本都市を、
もう一度“動かす”ために。
一方その頃。
タツローたちは相変わらず、
武器やパーツの製作に追われていた。
美咲にうまく丸め込まれ、
市場の全面協力を約束させられた結果、
工房は地獄の製作スケジュール。
ときおり、
魂の叫びのような悲鳴が工房から響いてくるという。
---
迅たちは、市場を見物しに来ていた。
手元には、
**奪還戦で活躍した上位50名に配られた装備交換券**。
この券は、
八雲商会が出しているどの店でも使用可能だ。
さらに奪還戦参加プレイヤーには、
* 市場への出店権
* 取引の斡旋
* 各種サポート
と、手広い支援が行われていた。
加えて、
八雲とキャットちゃんが**現実で付き合い始めた**という発表もあり、
各ギルド合同の祝杯が上がったとも聞く。
市場は、まさにお祭り騒ぎだった。
海外からのプレイヤーも多く訪れ、
大阪都市はかつてない賑わいを見せている。
奪還戦の早期解決は、
日本都市の発展に一気に拍車をかけた。
経済力は、
ついにトップのアメリカ都市に迫りつつあり、
ランク上位帯にも
日本都市所属のプレイヤーが目立ち始めている。
そんな中、
迅の脳裏をよぎる存在があった。
——**スクリーム**と**暁月**。
奪還戦で突如現れた二人。
名のあるプレイヤーを次々と倒し、
すでにトップ100内の有名ランカーとなっている。
(……どんな人物なんだろう)
そう考えかけた瞬間、
横から声が飛んできた。
「な〜に難しい顔してんの!」
「ほら、早く行こ!」
紗良が、はしゃぎながら駆け出す。
「……そういえばさ」
紗良が振り返り、尋ねる。
「紫電の手、どうするの?」
「それなんだよな……」
ゴクウ戦で破壊された右手。
現在は予備パーツを装着しているが、
どうにも感覚が合わない。
美咲にも相談したが、
前のパーツは品切れで
取り寄せも時間かかるし
いっそ新しいの、自分で探せば?
と、あっけらかんとした返事だった。
その時——
「あら!お二人さん、来てたんですか!」
呼び込みをしていた八雲が、駆け寄ってくる。
店内では、
キャットちゃんがお客の相手をしていた。
「見てくださいよ!」
「ついに八雲商会、第1号店出店ですわ!」
「内装も、めちゃくちゃ凝りましたで!」
「へぇ……すごいですね」
紗良が、にやりと笑って言う。
「そういえばさ、キャットちゃんと付き合ったんだって?」
「あんた、なかなか隅に置けないじゃん」
「あはは……」
「改めて言われると、恥ずかしいですわ」
八雲は頭を掻きながら続ける。
「今、ギルド統合の話も出てましてね」
「ネコニャンのメンバーは大賛成なんですけど」
「個人的には、ネコニャンの名前も残したくて……」
「何かええ案あったら、ぜひ教えてください」
「メッセ飛ばしてくれてもええですし!」
そして、ふと思い出したように笑う。
「……なんなら、二人もどうです?」
「八雲商会、参加!」
その瞬間——
「その話なんだけどさ〜」
いつの間にか、迅の隣に美咲が立っていた。
「私たちもね」
「**新しいギルド、立ち上げようと思って**」
「……え?」
「……は?」
「……何それ!?」
三人分の声が重なる。
美咲だけが、
満足そうに鼻を鳴らし、キメ顔をしていた。
---
「ギルドって何それ!? 聞いてないんだけど!」
紗良は驚いた様子で、美咲を見る。
「俺も、そんな話は聞いてないが」
迅も、じっと美咲を見つめた。
「お二人さんも知らんかったんかい」
「ほんま、とことん規格外というか……破天荒やなぁ」
八雲は感心したように笑う。
「いやー、私なりに分析してみたんだけどさ」
「今のままじゃ、まずいなって思ったのよ」
美咲はウインドウを展開し、
今回の発生からクリアまでに要した時間と、
別の地域のデータを並べる。
表示されたのは、
* アメリカ・ロサンゼルス奪還戦
* エジプト・カイロ奪還戦
の記録だった。
「日本のクリア時間は、**24時間38分**」
「それに対して、ロサンゼルスは**3時間6分**」
「カイロは**4時間49分**」
「……はやっ!」
「ってことは何?」
「もう日を跨ぐ前に終わってたってわけ!?」
紗良は口元を押さえ、愕然とする。
さらに美咲は、
クリア者の分析データを拡張表示した。
「どっちの地域も、SNSを見る限り
**ギルドの介入**があったの」
アメリカ・ロサンゼルス。
ボス撃破により最優秀者となったのは、
**ジェニス・ワトソン**。
アメリカ所属ギルド
**サウスウインド**のリーダーであり、
錬金術師のアバター。
戦闘中に様々な武器を瞬時に生成し、
対ギルドランク戦でトップに立つ存在だ。
次に、エジプト・カイロ。
最優秀者は、中国から遠征してきたギルド
**九尾の晩餐**のメンバー、**李・洒龍**。
幹部序列一位。
巨大な青龍刀を操る圧倒的な戦闘力。
その姿は、
かつての名将・関羽を彷彿とさせる活躍だったという。
九尾の晩餐は、
すでに**三千人以上**のメンバーを擁する巨大ギルドで、
今回の奪還戦をきっかけに、
さらに勢力を拡大し続けている。
「私たちはさ」
美咲はウインドウを閉じ、続ける。
「その場の思いつきで、何とか人を集められたけど」
「もしイベントが日本で同時発生してたら?」
「人も集まらないし、時間もかかる」
「他国のギルドが介入してたら——」
「美味しいところ、全部持ってかれてたよ」
美咲は拳を握りしめる。
「だから!」
「私たちがギルドを立ち上げて」
「じゃんじゃんイベントに参加しようって思ったわけ!」
ガッツポーズを作り、完全に燃えている。
「……賛成だ」
迅は、静かにそう言った。
「俺は今回、ゴクウに勝てなかった」
「悔しいなんてもんじゃない」
「今まで積み上げてきたものが、
一気に崩れた気がした」
自然と、視線が落ちる。
失われた右腕を見る。
「迅……」
紗良は、何も言わずに彼を見つめた。
「ほな、ぜひうちと同盟組みましょう!」
八雲は店の方を示しながら言う。
「ギルドには必要なもん、山ほどありますから」
「ぜひ、うちをご贔屓に!」
「あんた……ほんま大物ね」
紗良は呆れ半分で笑う。
「そういや、美咲さん」
「ギルドネームはどうするんです?」
八雲が尋ねる。
「そーねー……」
美咲は少し考え、言った。
「**紫界行パープル・ボーダー**なんて、どう?」
「……どういう意味?」
紗良はぽかんとして聞き返す。
「パープルは紫」
「紫電から取ったの!」
「……なんて安直な」
迅は思わず呆れる。
「安直じゃないし!」
美咲は即座に反論する。
「私は氷だから青!」
「紗良は炎だから赤!」
「迅は紫電で、紫!」
「私たち、合わさったら紫でしょ!」
必死に説明する美咲に、
その場の全員が思わず笑ってしまう。
「なにがおかしいし!」
「美咲さん、語尾おかしなってますでー」
八雲が茶化す。
だが、彼は少し考えるように言った。
「……でも、考えてみたら」
「紫電は、もともと中心に立つ存在ですからな」
「境界——ボーダーとしての紫」
「よう考えられた名前やと思います」
「僕は、ええギルド名やと思いますよ」
美咲は珍しく、
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
——怒った時の紗良みたいだ。
こうして。
新ギルド
**紫界行パープル・ボーダー**は、結成された。




