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第1章 2 現実からー。そして仮想世界へ

日本都市、東京エリア。




 迅と美咲は、転送ゲートから降り立った。




 最初に視界へ飛び込んできたのは、行き交う無数のアバターたちだった。




 ――多い。




 機械の身体を持つ者。


 獣の特徴を残した者。


 人の形をしていない存在すらいる。




 話し声。


 足音。


 すれ違う際の、わずかな吐息。




 それらすべてが、現実と同じ密度で存在している。




 視界の端に流れる電子情報が、はっきりと主張してくる。




 ――ここは、現実だ。




「ようこそ、仮想世界へ」




 美咲が不敵な笑みを浮かべ、迅の手を取った。




 触れた瞬間、視界が拡張される。


 マップ情報が共有され、空間が一気に開いた。




 都市が広がる。


 さらにその外側へ。


 際限なく、マップが展開されていく。




「……これは」




 迅は思わず息を呑む。




「この世界、一体どれだけあるんだ?」




「地球一個分!」




 美咲は、迅の反応を待っていたかのように笑った。




「マジやばいでしょ!」




 身振り手振りが大きくなる。




「何百基もの人工衛星で地形をトレースして、


 ガチの仮想地球作っちゃってるの、このゲーム!」




 さらに畳みかける。




「しかもAIがね、


 “地球が一万年後どうなってるか”を演算して、


 ちゃんと生態系まで再現してるんだよ〜!」




 熱弁が止まらない。




「待て待て」




 迅は慌てて制した。




「一度に言われても分からん」




「あはは、ごめん!」




 美咲は頭をかきながら笑う。




「つい熱くなっちゃった」




 そこから、少し噛み砕いた説明が始まった。




---




 バトル・シティ・オブ・スペース――通称、bs。




 現代から一万年後を舞台にした、仮想世界のゲーム。




 人間という種は姿形を変え、


 アンドロイド、獣人、異性体となって生活している。




 美咲の言葉どおり、


 開発会社ボステック社は、最新技術であるトレース技術とAIを用いて


 仮想世界に“第二の地球”を生成した。




 社会発展の実験場として、


 すでに多くの企業が参入しているという。




 リリースから、まだ三か月。




 それにもかかわらず、


 この仮想世界はすでに現実と変わらない規模で、


 社会を形成していた。




---




「……とりあえず」




 美咲が、急に声のトーンを変える。




「仮想世界の観光と行きたいところなんだけど!」




 一拍。




「今!


 私のデバイスに!」




 美咲が叫ぶ。




「バーチャルアイドル《愛ロイド》の


 イベント情報が通知された!!」




「……は?」




「ごめん迅! 私、行く!」




 ものすごい勢いだった。




「仮想世界探索は夜にしよう!適当にマッチングかけてて!」




「ちょ、おい!」




 迅が止める間もなく、


 美咲は彼の両手を掴み、ウィンドウを操作する。




 ――ランダムマッチング、強制起動。




「じゃっ! また会おう!」




「ふざけんなおまっ――」




〈マッチング成功〉


〈転送します〉




 無機質なアナウンス。




 次の瞬間、迅の身体は光に包まれ、


 その場から消えた。




「あいつ……ぜってー覚えてろよ……」




 迅は頭を抱えながら、周囲を見渡した。




 そこは、コロシアムのような闘技場だった。


 どうやら本当に、対戦マッチングをかけられてしまったらしい。




 向かいに立つのは、サイのような獣人のアバター。


 背中には巨大な大剣。


 こちらを無言で見据えている。




 ――でかい。




 体格差は、倍以上。




 コロシアムの電光掲示板に、プレイヤー名が表示される。




 **紫電 VS ホワイトーライノ108**




 どうやら、アバター名がそのままプレイヤー名に反映される仕様らしい。




 相手プレイヤー気にも留めず、大剣を掲げて戦闘態勢に入る。




 迅も、それに応じて構えた。




「それでは――試合開始!」




 司会のコールと同時に、


 相手アバターが地鳴りを上げて突進してくる。




 体当たり。


 あるいは、大剣の一撃。




 どちらを食らっても、無事では済まなそうだ。




 迅は紫電の拳に力を込め、深く腰を落とした。




 ――走る。




 紫電は一直線に、相手アバターの懐へと駆ける。




 それを読んだ相手は、


 進路上を狙い、大剣の突きを繰り出した。




 巨大な破城槌が迫ってくるかのような威圧感。




 紫電のボディは、わざと体勢を左へ傾け、


 すんでのところで回避する。




 その動作は相手の攻撃を誘い、隙を作る動き。




 左足を踏み込み、さらに加速。




 懐へ――一撃。




 だが、踏み込みが甘かった。




 拳はボディをかすめただけで、


 威力は霧散する。




 次の瞬間、


 相手アバターの丸太のような腕が振り下ろされる。




 何度も。


紫電はステップを駆使しギリギリで躱す。




 地面に叩きつけられるたび、


 砂塵と砕けた地面が舞い散る。




 紫電の胸部、コアに埋め込まれた《反逆の坩堝》が、


 わずかに光を灯す。




 最初の一撃が、


 確かにスピードを引き上げていた。




(今なら――)




 焦った相手プレイヤーが、


 さらに大振りの横薙ぎを放つ。




 紫電は地面に身体を擦りつけるほど身を屈め、


 その下を――滑り込む。




 懐。




 ――カウンター。




 アッパーが、


 相手アバターの腹に深く突き刺さった。




 硬直。




 そこから、さらに加速。




 右ストレート。




 流れるように、


 みぞおちを正確に捉え、叩き沈める。




〈KILL〉




 紫電の勝利が、コロシアムに表示された。




「……はや」




「何あの動き……」




 観客席から観戦するプレイヤー達のざわめきが漏れる。




 紫電の紫の光が、


 まるで心臓の鼓動のように、


 コロシアムで点滅していた。




 迅は、自分の鼓動が


 その光と同期していることに気づく。




 ――ドクン、ドクン。




 緊張からの解放。


 そして、高揚。




 高鳴る鼓動が、


 拳を痛いほど熱くさせていた。




---




 勝負を終え、都市へ戻される。




 迅はすぐにウィンドウを開き、


 美咲へ文句のメッセージを送った。




> お前……勝手すぎるだろ!




 間を置かず、返信が来る。




> ごめんごめん!


> で、勝てたの?




> 何とか


> てか今どこにいるんだよ




> イベント会場!


> しばらくしたら戻るよ


> また夜やろー




「……なんて勝手な奴だ」




 迅は諦めたようにウィンドウを閉じる。




 都市のど真ん中に、


 一人で置き去りにされて、どうしろというのか。




 少し考えてから、


 今日はこのままログアウトすることにした。




---


夜。




 美咲からの誘いを断り、布団に入った迅だったが、


 昼間の勝負が何度も瞼の裏でフラッシュバックする。




 拳の熱が、まだ残っている。




 こんな高揚感を覚えたのは、何年ぶりだろう。




 眠る前というのは、どうして余計なことを考えてしまうものだ。


 胸の奥で、感情がぐちゃぐちゃに絡まり合う。




 それから目を背けるように、


 迅は強く瞼を閉じ、そのまま眠りに落ちた。



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