第2章 4 日本都市奪還戦
その日の午後。
動画サイトに、一本の動画が投稿された。
タイトルは――
**《天下分け目の大合戦
bs日本奪還 大坂城・冬の陣》**
「……なんだなんだ?」
「これ、今やってる奪還戦のやつじゃね?」
転送エリアのプレイヤーたちが、一斉にざわつく。
動画を再生すると、
禍々しく加工された大阪城の映像が映し出された。
「やーやー、皆の衆!」
画面の中で、
八雲が大仰に見栄を切って現れる。
「大阪城が奪われ、決闘できず、商いもできず!」
「さぞ、お困りであろう!」
「……わざとらしい」
「でも、ちょっと面白いかも」
コメント欄がざわめく。
「今夜、我らは大阪城を奪還する!」
八雲の声が響く。
「ここにおるは――」
「伝説の侍を討ち倒した者!」
「**紫電殿**でござる!!」
「あっ!」
「動画で見たやつだ!」
「紫炎討伐者じゃん!」
「かっけー!」
画面が切り替わり、
紫電が陣幕の奥へと進み、
大将席に腰を下ろす。
その両脇には、
龍焔、吹雪3式、
そしてキャットちゃんを筆頭とした面々が、
家臣のように並び座っていた。
「おー……凝ってんなぁ」
「これ、広告?」
「すげぇじゃん!」
コメントが、波のように流れていく。
紫電が、ゆっくりと手を振り上げた。
「集え!」
「今夜、戦場にて――」
「**反撃の狼煙を上げる!!**」
——カット!
「素晴らしかったですよ!」
「いやー、見事な演技!」
八雲が盛大な拍手をしながら、
陣幕の中へ入ってくる。
「……死にたい」
迅は、恥ずかしさのあまり身をよじっていた。
「いやいや!」
「こういうのは、ガチでやらないと!」
美咲は口元を押さえつつ、
再生数を迅に見せる。
すでに**8000再生**を超え、
なおも伸び続けている。
「はー……」
「人が集まると、こんなことまで出来るんだね」
「それよりさ!」
「キャットちゃんの舞台セット、すごくない!?」
紗良が、
陣幕の布をひらひらさせながら辺りを見回す。
「えへへ……」
「詳しくは言えないけど、私、ドラマの裏方やってて」
「時代劇も、わりと……」
「厳しい監督に、めちゃくちゃ仕込まれました……」
「……死にたい……」
「アカンアカン!」
「キャットちゃん、闇出とるで!」
八雲が、
キャットちゃんの背中をさすりながら励ます。
「辛かったんやなぁ……」
その様子に、
メンバーたちの笑い声が広がる。
「よーし!」
「忙しくなるよ!」
美咲が声を張る。
「夜まで、時間ないからねー!!」
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「はー……こら、あかんわ」
八雲は愚痴をこぼしながらも、
工房から流れてくる物資を資材置き場へ必死に運び込んでいた。
「ゲームのレイドで、こんな準備したん初めてやわぁ……」
隣では迅も、無言で物資を運んでいる。
「なあ、八雲」
「なんで、そこまで必死なんだ?」
「八雲商会って言うくらいだ」
「攻略ギルドじゃないんだろ?」
八雲は一瞬だけ手を止め、
それから、少し照れたように笑った。
「……紫電さんには、言ってませんでしたね」
「僕には、目標があるんです」
「でっかい商船を手に入れて」
「儲けて、儲けて」
「八雲商会を、もっとでっかくする」
「それが夢なんですわ」
八雲の声が、少しだけ強くなる。
「それやのに、自分のホームで防衛戦失敗して」
「商い止められて……」
「ほんま、腹立ちますよ」
一度、言葉を切る。
「正直な話……」
「海外にギルド移転するか、って話も出てました」
八雲は、そこで言い淀んだ。
「でも……」
「紫電さんや、他のプレイヤーの活躍を見て」
「……ほんま、痺れたんですよ」
「逃げようとしてた自分が、情けなくて」
「情けなくて……」
八雲は、拳を握る。
「もう、僕らは戦うしかないんですわ」
迅は、何も言わずに頷いた。
「アタシたちも、いるからね!」
ネコニャンギルドのキャットちゃんたちが、
八雲の横で次々と物資を運び込んでいく。
「……キャットちゃん……」
「おいおい!」
「俺らも忘れんなよ、リーダー!」
「商船買うまでは、諦めねぇからな!」
八雲商会のメンバーも集まってくる。
八雲は一度、天を仰ぎ、
それから大きく笑った。
「……っは!」
「揃いも揃って、大馬鹿者やな!」
「約束するぞ!」
「お前ら全員、この世界で一番でっかい船に乗せたる!」
「月まで貿易させたるからな!!」
「おおおお!!」
歓声が、公園に響き渡る。
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**《大阪城・冬の陣》開催まで、まもなく——。**
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陣の前に設えられた台に、
迅、八雲、美咲が並び立つ。
「……壮観だな」
迅が呟く。
「この数、何人いるんだ?」
「さあな……」
「千人は、いるんちゃうか?」
公園を埋め尽くすほどのアバター。
「……1179人」
美咲が淡々と告げた。
「感知アイテムで確認した」
「なんだよ、その便利すぎる道具……」
迅は、もはや驚きもしない。
「タツローに作ってもらったの」
「いいでしょ?」
美咲は誇らしく鼻を鳴らす。
「ほな、リーダー!」
「始めちゃってください!」
八雲がバンと紫電の背中を叩く。
「ここが一番、士気上げるとこやで!」
迅は、ゆっくりと深呼吸した。
「今日で……大阪城を攻略する!」
「反撃の狼煙を、上げろ!!」
迅が手を掲げる。
陣の後方に据えられた筒へ、
龍焔が走る。
導火線に火が走る。
——ドンッ!!
爆発音とともに、
夜空へ鮮やかな花火が咲いた。
それに応えるように、
集まったアバターたちの雄叫びが、
幾重にも重なってこだました。




