第2章 3 日本都市奪還戦
ミーティングの場は、大阪駅前の公園だった。
今回のレイド編成は以下の通り。
八雲のギルド――**八雲商会**、43名。
同盟ギルド――**ネコニャン**、31名。
野良プレイヤー――18名。
合計で、100名弱。
数としては、決して少なくない。
「集まってくれてありがとうございます!」
八雲が場の中央で声を張る。
「先ほどは……まぁ、惨敗でしたな!」
「というわけで、反省会といきましょう!」
「おいおい!」
「急にテンション下げんなよ、リーダー!」
「ははは!」
失敗直後にしては、雰囲気は明るい。
どこか余裕すら感じる。
——良いチームだ、と迅は思った。
「実は今回のレイドに、アドバイザーがおります」
八雲が続ける。
「紫電さんと、龍焔さんでーす!」
「えっ、例の動画の……!」
「ボス討伐した人やん!」
ざわめきが広がるが、
八雲がすぐに手を上げた。
「皆の衆!」
「くれぐれも紫電さん達に、プレッシャーかけんように!」
同盟ギルド《ネコニャン》のリーダー、
**キャットちゃん**が前に出る。
「実際さぁ……」
「猫の手も借りたい状況だから、助かるよぉ」
「八方塞がりだよねぇ〜」
泣くエモートを使い、
肩を落とす。
「昨日の防衛戦とは、違うんですか?」
紗良が尋ねる。
「違うなんてもんじゃないよ!」
「もう、別物!」
キャットちゃんは大きくうなだれた。
そこで、
八雲が先ほどのレイド内容を共有し始める。
「ほな、僕から説明させてもらいます」
「反省点も含めてー、ですね」
八雲は一度区切り、
はっきりと言った。
「今回のボスエネミーは――
《ギャラクシーヒーローズ》の**ゴクウ**で間違いありません」
場が、少しざわつく。
ギャラクシーヒーローズのゴクウ。
猿のヒーロー。
アクロバティックな動きを得意とし、棒術の達人。
集団戦を得意とし、
奥義では分身を展開。
無数の打撃を放つ近距離戦が持ち味だ。
「問題は……ここからですわ」
八雲は続ける。
「奪還戦の戦場に入ると、スタート地点が防衛戦と違うんです」
「やつは大阪城に陣地を構えとりまして」
「敵の数も、倍以上」
「大阪城……陥落ですわ」
ざわめきが大きくなる。
「攻めようにも、城からの攻撃が激しくて」
「とてもボスには近づけません」
「……キャットちゃんの言う通り、万事休すですわ」
「いや、それ……」
「さっき言ってたの八方塞がりやろ……」
「城攻めって、難しいよなぁ」
「俺の爺ちゃん、大阪城のボランティアしとるしなぁ……」
どうやら敵は、すでに堅固な守りを敷いている。
城の攻略は難航しているようだった。
迅は腕を組む。
——正直、自分にアドバイスを求められても困る内容だ。
「……とりあえず、提案なんですが」
迅が口を開いた。
「俺の知り合いに、一度相談したい思います」
「呼んでもいいですか?」
「もちろんですわ!」
八雲は即答する。
「助かります!」
「異議なーし!」
迅は、デバイスの通信で美咲を呼んだ。
「マジ!何それ、めっちゃ面白そうじゃん!」
通信越しに、美咲の弾んだ声。
「ちょっと待ってね〜」
「今、いいところだから」
「すぐ合流する!!」
迅は通信を切り、
公園の空を見上げた。
また騒がしくなるな…きっと…
—
---
「おっすー! お待たせ!」
軽い声とともに、美咲が駆け足で合流した。
「……またえらい完成度のアバターやなぁ」
「紫電さんたち、一体何者なんや……」
八雲は、関西弁のキレすら鈍るほど引いていた。
「あー、まぁ」
「全部、私が設計したからね!」
「なにぃー!?」
一同が揃って声を上げる。
「この軽やかで美しい流線型の《紫電》」
「荒々しくも可憐な《龍焔》」
「そしてクールでビューティフルな白銀の乙女!」
「……《吹雪3式》ね」
八雲の誇張した称賛に、
美咲が冷静にツッコミを入れる。
早速、現在のレイド状況が美咲に共有された。
「んー……これは無理だね!」
「ええ!? いきなり無理ですと〜!?」
「だってさぁ、人数が足りない」
「いやいや、これ以上は俺が分身するしかないですわ!」
「それは流石に困りますって!」
八雲は冗談めかしているが、
どこか引き下がれない様子だった。
「じゃあ、具体的に2つ」
「足りないところを指摘するね」
美咲は指を立てる。
「まず1つ目。人数」
「昔の戦とか、歴史好きなら分かると思うけど」
「城攻めを正攻法でやるなら、攻める側は守る側の3倍が必要」
「つまり……600人」
「……600」
現実味のない数字に、
場が静まり返る。
「2つ目は装備」
「みんな、一対一を想定した装備で来てるでしょ」
「それ、攻城戦に全然向いてないの」
「自分のプレイスタイル優先だから、足並みも揃わない」
「結果、孤立したところを各個撃破される」
「あぁ……」
前回の惨敗が脳裏に蘇り、
参加者たちの表情が沈む。
「でも大丈夫!」
「どっちも、当てはあるよ!」
美咲は、ぱっと笑って手を叩いた。
「ほら!」
アイテムストレージが開き、
無数の素材が地面に展開される。
「今からここで――」
「**大阪城・冬の陣、始めるよ!!**」
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最初に向かったのは、エンジニア街だった。
売買制限の影響で人影はまばら。
人気のない通りに、数人のプレイヤーが点在しているだけだ。
「タツロー! タツロー!」
美咲が手を振る。
アバター売り場のショーケースを眺めていた、
無骨なロボット型アバターが振り返った。
「おー、久しぶりだな」
「相変わらず、なよっちいアバター作ってんなぁ」
「アンタのは、ちょっとガサツすぎじゃない?」
「バカ言え」
「これは芸術だ。素材の良さを活かしてんだよ」
「ふーん。どうでもいいわ」
美咲は意にも介さず、
素材をずらりと並べた。
「……おまっ!」
「どこでこんな素材、集めてきた!?」
タツローの目に、
キラキラとしたエフェクトが灯る。
「海外から、ありったけ持ってきた」
「早く知り合いのエンジニア、全員呼んで」
タツローは即座に通信を飛ばした。
ほどなくして、
日本中からエンジニアが集まってくる。
総勢13名。
全員がロボット型アバターで、
供給不足だった素材に目を輝かせていた。
「で、美咲」
「俺らに何を作らせる気だ?」
「とりあえず……これ全部!」
美咲はタツローへレシピを転送する。
表示されたのは、
凄まじい数と種類のアイテム群だった。
迅は、はっとする。
「……美咲」
「まさか、これを準備してたのか?」
「いや待て」
「なんで今回のボスが、攻城戦になるって知ってた?」
美咲は肩をすくめる。
「私の情報網、バカにしてる?」
「SNSで奪還戦の内容、予習済みよ」
「はぁ……」
「そのせいで、眠くてしょうがないけど」
あくびをしながら話す。
「装備は何とかなりそうだ」
迅が言う。
「……でも、人数は?」
「当てがあるって言ってたよな?」
迅は疑問だった。
長年の付き合いだ。
美咲に600人を動かせるほどのコネがあるとは思えない。
…そのはずだ。
美咲は、にやりと笑う。
「決まってんじゃん」
「……あ、そゆこと」
紗良が反応する。
「は?」
迅の思考が凍りついた。




