第1章 12 現実からー。そして仮想世界へ
侍は着物をなびかせ、
静かに歩き出す。
前線の隙間から、
飛行ユニットを装備したプレイヤーが飛び出した。
「ボス倒せば終わりだろ!」
「俺がもらう!」
槍を構え、突撃。
侍は、刀に手を合わせ——
抜刀。
一閃。
すれ違いざま、
槍を躱し、斬る。
空に浮かぶ三日月のような刃が、
飛行ユニットの接続部を正確に断つ。
推進力を失い、
プレイヤーは地面へ激突。
そこへ、甲冑兵士の追撃。
槍と刀が、無惨に突き立てられる。
「……なんだ、あいつ……」
「全然、見えなかった……」
誰も、動けない。
タイマーだけが、
無情に減っていく。
——残り、30分。
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プレイヤーの一人が呟いた。
「……あいつ、もしかしてギャラクシーヒーローズの**紫炎**じゃねぇか……?」
その声は波紋のように伝播し、周囲がざわつく。
美咲たちの耳にも、はっきり届いた。
「どういうこと……? なんで他のゲームのキャラが、敵なの……?」
紗良は混乱したまま、侍を見つめる。
美咲も一瞬だけ動きを止め、思案に沈んだ。
前作のキャラ。
bsのイベントルール。
両者の共通点。
頭の中でピースが噛み合っていく。
——ギャラクシーヒーローズは、bsの“土台”だった?
——最初から、移植される前提で作られていた?
「おい、美咲!どうした!」
迅は甲冑兵士をいなしながら、様子のおかしい美咲を気にかける。
「……っ、何でもない!考えるのは後!」
美咲は思考を振り払うように首を振った。
「迅!道を切り開いて!このままじゃ間に合わなくなる!」
迅はその言葉の意味を噛み締める。
前線は確かに優勢だ。
このままいけば甲冑兵士は押し切れる。
……だが。
タイマーを見る。
残り時間が、胃の奥を冷やした。
このペースでは、侍に辿り着くまで15分はかかる。
つまり——残り15分で、あいつを倒さなければならない。
脳裏に浮かぶのは失敗の文字。
焦りを鎮め、拳に力を溜める。
迅は進むべきルートを探した。
巨兵が通った、一直線の道。
薙ぎ払いながら前線へ進んだせいで、そこだけ甲冑兵士が薄い。
さっき飛行ユニット使っていたプレイヤーも、あの上空を抜けていた。
「美咲!巨兵が来た道を辿るぞ!!」
提案すると、美咲が笑う。
「良い考え!乗った!」
美咲は手裏剣を生成し、進撃の準備を整える。
——追い風が吹いた。
後方で息を吹き返した射撃プレイヤーたちが、支援射撃を再開する。
射撃の雨に、甲冑兵士の動きが鈍る。
「渡りに船とはこの事ね!」
美咲が叫ぶ。
「迅!紗良!一気に行こう!」
「ああ!」
「うん!」
迅と紗良は、巨兵が崩れた地点を足場にして駆ける。
戦場を切り裂く雷光と焔。
割り込みを許さない凍てつく刃——氷の茨のように道を作る。
恐るべき速さで、三人は侍の前へ辿り着いた。
侍は静かに佇んでいる。
強者が、相手を正面から受け止める——そんな余裕すら漂っていた。
残り20分。
侍——紫炎と、3人のアバターが相対する。
先に仕掛けたのは美咲だ。
手裏剣を高速で作成。
当たれば確実に動きを止められる一撃。
だが紫炎は、揺らぐように体勢を変えた。
抜刀——下方を切り裂き、空気の層を作る。
風が舞い上がり、手裏剣が上へ逸れる。
(迅のジャブみたい……)
防御の型。
受け流しの技術。
紫炎はそのまま刀を納める。
突撃の構え。
着物が、わずかに鳴る。
次の刹那——三日月が現れた。
吹雪三式の首元へ伸びる刃。
「速い……!」
いつの間にか紫炎は、吹雪三式の目の前に立っていた。
美咲は咄嗟に掌から冷気を噴き出し、その反動で後方へ退く。
刃が首元をかすめる。
——紙一重。
体勢が崩れたところへ、紫炎はさらに納刀。
抜刀の構えに入る。
「させない!」
龍焔の蹴りが、紫炎の背へ飛ぶ。
紫炎は鞘で受け止めた。
そこへ紫電のフック。
龍焔の横から叩き込むが——紫炎は横へ離脱。
甲冑兵士の群れへ身を投じる。
「逃げられた……!」
「いや、来るぞ!」
迅は紗良の追撃を止め、龍焔を掴んで後方へ退く。
直後、紫炎の抜刀が甲冑兵士ごと薙ぎ、さっき2人がいた場所を切裂いた。
「……危ない」
迅は紫炎の追撃を警戒し、踏み込ませない構えを作る。
間合いが生まれた。
「迅、上手くなってる……」
美咲は思わず感心する。
迅は甲冑兵士の隙間から紫炎を見失わず、反応していた。
紫炎と紫電が同時に踏み込む。
刀の鍔と拳が交わる。
目まぐるしく交差する攻撃。
紫電のフック、紫炎の切り払い。
互いの攻撃をいなし、隙を探る。
紫電の四連撃。
高速ジャブが弾丸のように飛ぶ。
紫炎は反応する。
だが最後の一発が、肩に当たった。
体勢が、わずかに揺れる。
紫電は追撃。右フック。
脇腹へ叩き込む——
だが紫炎は、フックの隙間へ鞘を差し込んだ。
追撃を許さない。
そして、紫炎の眼光。
いつの間にか刀は納められている。
横薙ぎの抜刀——首を刈る角度。
(このままじゃ……切られる)
死を予感した瞬間、迅の身体が“別の答え”を拾った。
——脱力。
——そして、噴き出す。
吹雪三式が使った、出力開放の噴射。
それを紫電でやる。
加速ゲージを開放。
溜めた力を、逆噴射する。
身体が裏返るように回転し——裏拳。
予期せぬ角度からの一撃が、紫炎の顔面を打ち抜いた。
「……すごい……!」
紗良が叫び、美咲は目を見開く。
紫炎が崩れる。
抜刀の構えは中断された。
だが紫炎は止まらない。立て直そうとする。
——その前に。
紫電はすでに、回転した右半身に力を溜め、右ストレートを携えていた。
そして——紫炎の心臓を打ち抜く。
雷鳴のような一撃。
戦場の音が、止んだ。
静寂。
甲冑兵士たちの動きが止まる。
紫炎の面具が外れ——その言葉は、迅だけに届いた。
「……武道の覇者よ……見事なり……!」
紫炎は最後に刀を落とし、消滅していく。
紫電のコアが静まった。
転送ゲートのウインドウに、表示が浮かぶ。
《MISSION CLEAR》
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