第1章 10 現実からー。そして仮想世界へ
次の瞬間、
転送ゲートの光が弾け、エリアにいたプレイヤー全員が包み込まれた。
昼間に体験した転送と、よく似た感覚。
足元が消え、視界が白く染まる。
やがて、景色が戻る。
空。
どこまでも広がる空と、流れる雲。
——戦艦の、真上だ。
そこには、無数の**甲冑を纏った和装の兵士**がいた。
群れを成し、微動だにせず、宙に立ち尽くしている。
まるで、電源を落とされた機械のように。
その奥。
白を基調とした着物に、水色と桜色の結び布。
浮世絵から抜け出したかのような侍が、静かに立っていた。
「あれが……侵略者のリーダー……?」
次の瞬間。
侍が、ゆっくりと手を掲げる。
——合図。
一斉に、甲冑兵士たちが走り出した。
甲冑の擦れる音。
無数の足音。
それ自体が、攻撃のような圧力を伴って迫ってくる。
突然の移動と襲撃に、プレイヤーたちは完全に混乱した。
波が、陸に叩きつけられるように。
甲冑兵士とプレイヤーが正面衝突する。
刀が、槍が、身体を貫く。
最前線にいたプレイヤーたちは、その勢いのまま押し潰されていった。
「……やば……」
美咲の言葉を思い出し、
紗良は、もし正面に残っていたらと想像して身震いする。
迅は、迫り来る敵の群れを、ただ見つめていた。
甲冑兵士の波が、左翼へと向きを変える。
——こちらに、来る。
---
最前線のプレイヤーたちの隙間から、
3体の甲冑兵士が迅へと飛びかかる。
戦艦のライトを反射し、刃と槍先が迫る。
迅は、深く息を吐いた。
——集中する。
意識を一点に絞ると、世界がわずかに遅くなる。
鼓動の間隔が伸び、相手の動きが輪郭を持つ。
*今なら、再現できる。*
*あの時の動き。*
迅は拳に力を溜め、
甲冑兵士の**武器を持つ手**を狙った。
——ジャブ、三連。
鋭い衝撃が、連続して走る。
攻撃の軌道がわずかに逸れ、
武器を握る手に負荷がかかる。
反撃が、来ない。
(上手い……)
美咲は心の中で息を呑む。
(これなら、反撃されない。紫電の性能を、無駄なく使ってる)
紫電はさらに加速する。
3体の間をすり抜け、
振り向きざま、引き絞るように左フック。
拳が左脇腹から背中へと叩き込まれ、
一体の甲冑兵士が吹き飛ぶ。
その勢いで、残る2体を巻き込み、
甲冑が重なり合って地に倒れた。
その瞬間。
紫電。
龍焔。
吹雪三式。
3体が、同時に踏み込む。
——狙いは、それぞれ最短距離にいる兵士。
「紫電一閃!」
迅の右ストレートが、
甲冑兵士の腹部を撃ち抜く。
甲冑がくの字に歪み、
内部で衝撃が炸裂する。
雷が走ったかのように、ヒビが広がった。
「炎の円!」
龍焔は下から上へ蹴り上げる。
顎を砕きながら、
足先から焔の円が描かれる。
「氷晶の型——氷柱」
美咲の使用するアバター、吹雪三式の掌から
圧縮された冷気と水分が放たれる。
瞬時に形成される氷刃。
跳躍、急降下。
体重を乗せ、
甲冑の隙間——首元から背中へ、
氷の刃が深く突き立てられた。
3人の一撃。
甲冑兵士を停止させるには、十分すぎる威力だった。
「……まだまだ来るよ〜」
美咲の声に、迅と紗良はすぐに構え直す。
勝利の余韻に浸る暇はない。
最前線を突破した甲冑兵士たちが、
次々と押し寄せてくる。
「これが……大規模イベントか」
迅は、拳に残る熱を感じていた。
視界を広げると、
中心部では最前線のプレイヤーが次々と脱落している。
それでも——
総数では、プレイヤーの方がやや多い。
最前線が囮となり、
中腹にいたプレイヤーたちは次第に落ち着きを取り戻していた。
盾や大剣を持つアバターが前列を固め、
後方から射撃型が支援する。
甲冑兵士たちは近接武器のみ。
動きも、決して速くない。
——射撃に、対応できていない。
空気が、変わり始めていた。
このままいけば、
前線の甲冑兵士は押し切れる。
その先にいる侍へ——届く。
感の良いプレイヤーは、
その兆しを、既に肌で感じ取っていた。
美咲は一瞬、攻撃の手を止める。
戦場。
地形。
そして——侍の動き。
2体の甲冑兵士が襲いかかるが、
迅と紗良がすぐにフォローに入る。
紫電の拳と、龍焔の足。
衝突するように反発し、
威力が跳ね上がる。
2体の甲冑兵士が、左右へ弾き飛ばされた。
「どうしたの!? 急に止まって!」
紗良が警戒しながら叫ぶ。
迅も、美咲を見る。
美咲は、戦場を睨みつけたまま——口を開いた。
「迅、紗良!」
「もっと前に行こ。ここ、危ない気がする……」
——何かを、感じ取っている。
この先に、何がある?
戸惑いを抱えながらも、
迅は正面を切って踏み込んだ。
倒すためではない。
いなして、崩す。
体勢を崩した敵は、
他のプレイヤーが仕留めてくれる。
その連携で、最前線へと近づいていく。
やがて、
プレイヤーと甲冑兵士が押し合う“壁”が見えてきた。
——ここを、どう抜ける?
その向こうで、
侍の影が、確実に大きくなっていた。




