― 託されたバトン ―
同時刻、第3廃棄工場・地下資材庫。
「ひぃぃぃっ! 死ぬ死ぬ死ぬ! マジで死ぬってば!!」
身長164センチの整備士、彼女は、頭を抱えて資材の陰に丸まっていた。 外では軍による容赦ない爆撃が続いており、地下にまで届く震動で、天井から錆びた鉄屑が雨のように降り注いでいる。お調子者の彼女も、流石にこの地獄絵図には涙目だ。
「なによこれ! 証拠隠滅なんて聞いてないわよ! 整備士まで纏めてゴミ扱いなわけ!? 最低っ、軍なんて最低よッ!!」
怒鳴り散らして恐怖を紛らわせようとしたその時、ガシャンという激しい金属音とともに、壊れた自動ドアの隙間から何かが滑り込んできた。
一体のアンドロイドだ。 だが、その姿は無惨だった。爆風に煽られたのか、左腕はちぎれ、右側の人工皮膚は焼け爛れて内部のマッスルシリンダーが剥き出しになっている。
「……ひっ! くるな、こっち来るな!」
彼女は手近にあったレンチを振り回して威嚇した。しかし、アンドロイドは彼女を襲うどころか、力尽きたようにその場に膝をついた。
「……お願い……これを……」
アンドロイドが差し出したのは、震える右掌だった。 そこには、周囲の地獄のような赤色とは対照的な、澄んだ青色に輝くシステムチップが握られていた。
「……これ、ブルーチップ……? これって普通の通信チップにしか見えないけど……」
整備士としての本能が、一瞬だけ恐怖を上回った。 アンドロイドの瞳から、光が消えかかっている。それは機械のシャットダウンというより、まるで命の灯火が消える間際の、必死な「願い」のように見えた。
「……隠して……。奴らに……渡さないで……」
「え、ちょっと!? 私にそんな重たいもん預けるわけ!? 無理無理、私ただの整備士よ、逃げるので精一杯なんだから——」
彼女がまくしたてる間にも、天井が轟音を立てて崩れ始めた。 アンドロイドは最期の力を振り絞り、彼女のオイル汚れにまみれた手を握りしめ、そのチップを押し付けた。
「……頼……みます……」
そこで、アンドロイドは完全に沈黙した。 ただの鉄の塊に戻った「それ」を見つめ、彼女はガタガタと震える手でチップを握りしめた。
「……ったく、もう! 私ってば、本当にお人好しなんだから!」
彼女は泣き出しそうな顔で、だがその瞳には「絶対にこれを守り抜く」という頑固な光を宿し、チップをオーバーオールの胸ポケットに深くねじ込んだ。
「見てなさいよ! こんなお宝、軍に返してやるもんですか! 私が、地獄の果てまで持っていってやるんだからね!!」
崩落する工場。 彼女は崩れる瓦礫を跳ね除けるように、小型の作業用ビークルへと飛び乗った。 彼女が手にしたのは、ただのデータではない。機械が命を懸けて守ろうとした、重すぎるほどの「意思」だった。




