静止する月光
本日5話目です
アスラの四本腕が、無慈悲な処刑機械のようにロウとニビを追い詰めていた。 『ブルー・ミュー』の支援をうけたニビの精密射撃さえも、セレーネのバックアップを受けたアスラの電子防壁(EMフィールド)に弾かれる。ロウの漆黒のLCは、もはや装甲の半分を失い、地面に片膝を突いていた。
「……ここまで、か……」 ロウが血の混じった唾を吐き、最後の一撃を覚悟したその時。
荒野の北、封鎖されていた研究施設の天辺から、天を突くような「純白の光柱」が立ち昇った。
――カチリ。 世界が、歯車を止める音が響いた。
キーヨが最深部のコンソールに『クリスタルキー』を差し込み、眠っていたメイン核融合炉を起動させたのだ。
『……全システム、オーバーライド。ルナ・カノン、及びセレーネ・データムの全権限を……掌握』
記憶の中の声が、無線ではなくルナ・カノン全体のスピーカー、そして兵士たちの脳内に直接響き渡った。 直後、空を覆っていた赤い砂塵が静まり、ルナ・カノンの全防衛施設、全照明が、意志を持ったように一斉に「蒼い光」へと塗り替えられた。
【静止する世界】
信じられない光景が広がっていた。 ロウの眉間を貫こうとしていたアスラの振動ブレードが、突如として輝きを失い、完全に停止した。アスラの AIが、強制的に遮断されたのだ。
「……なんだと!? 動かない……アスラだけじゃない、全ての機体が……!」 敵のパイロットの絶叫が通信に混じるが、それもすぐにノイズの中に消えた。
アイゼン・ガルドの残存機も、ネオ・シオンの最新鋭機も、まるで時間の檻に閉じ込められたかのように、その場で石像と化した。ただ、ロウとニビの機体だけが、キーヨの意志によって動力を維持され、静寂の中に立ち尽くしている。
「キーヨ間に合ったな……『ブルーミュー』がルナ・カノンのシステム全てを……乗っ取ったのか?」 ロウが呆然と呟く。
『……間に合った。『ブルーミュー』の「記憶」を呼び覚ました。……もう、誰も戦わなくていいの。もう、誰も壊れなくていいのよ』
施設の中枢、青い光に包まれたキーヨの瞳には、かつて病室でルナが見せたのと同じ、深く静かな慈愛が宿っていた。 月の要塞そのものがミューの身体となり、無機質な鉄の塊が、平和を望む彼女の心に同調しているようだ。
戦場から「闘争」という熱が奪われ、月面にはただ、優しく冷たい蒼い月光だけが降り注いでいた。




