月影の追撃者 ― セレーネのアスラ ―
本日4話目です
ニビのLCと10機のPTが展開した完璧な防御陣により、アイゼン・ガルドの包囲網は塵へと消えた。 だが、安堵の息をつく暇さえ、戦場は許さない。
「……ニビ、空を見ろ。嫌な予感がする」 ロウが漆黒のLCの破損したメインカメラを上空へ向けた。
ルナ・カノンの衛星軌道、蒼く輝く『セレーネ・データム』の影から、紅い流星が一条、地表へと突き刺さるような速度で落下してくる。
『――熱源接近。このシグナル、アイゼン・ガルドの量産機じゃない。……ネオ・シオンの、アスラだ!』
ニビの警告が響くと同時に、荒野に凄まじい衝撃波が巻き起こった。 爆煙の中から現れたのは、かつてロウたちがアステリアで破壊したはずの機体。しかし、その姿は禍々しく変貌していた。全身に銀色の追加装甲を纏い、背部には衛星軌道からの大気圏突入を可能にする巨大なブースター・ユニットを背負っている。
「……阿修羅。地獄から舞い戻ってきたってわけか」
アスラの頭部センサーが、獲物を定めた猛禽類のようにロウの機体をロックした。 直後、アスラの四本腕がそれぞれ異なる重火器を構える。上段の腕には高出力のプラズマ・カノン、下段には大型の超振動ブレード。
『ロウ、下がれ! そいつの出力は以前の1.5倍……セレーネの直系データで強化された、連邦軍の「完成形」だ!』
ズドォォォォォン!
アスラから放たれたプラズマ弾が、ニビの展開していたPTの2機を一瞬で蒸発させた。 アスラは機体から不気味な排気音を漏らしながら、重力に従わないような高速スライドでロウの懐へと肉薄する。
「ニビ、PTの指揮に専念しろ! こいつの相手は、同じ地獄を見てきた俺がやる!」
ロウは片腕を失った漆黒のLCを強引に跳躍させた。 頭上から降り注ぐアスラの四本腕による連撃。大気を切り裂く振動波が、ボロボロの装甲をさらに削り取っていく。
「(……来るなら来い。セレーネの化け物だろうが何だろうが、俺たちの歩みを止めることはできねえ!)」
背後に施設を守るキーヨ、隣には運命を共にするニビ。 ルナ・カノンの赤い砂塵が舞う中、再び「亡霊」と「修羅」の、命を削り合う死闘が幕を開けた。




