青き閃光の再臨 ― 亡霊たちの逆襲 ―
本日3話目です
漆黒のLCのカメラアイが、激しい火花を散らして沈黙しかけていた。 左腕は引き千切られ、右脚の駆動系は剥き出しの回路が悲鳴を上げている。残った1機のPTも蜂の巣にされ、ロウを庇うように残骸を晒していた。
「……ハァ、ハァ……。ここまでか」
周囲を囲むグレイ・ハウンドは残存8機。全機がレールガンをロウのコクピットへ向け、処刑の時を待っている。ロウは意識が遠のく中、操縦桿を固く握り直した。
「(……悪いな、ルナ。少し、遅れるかもしれねぇ……)」
焼灼される記憶 ― 蒼い花の終焉 ―
『第7軍特別医療センター』。ミオソティスの花束が病室を彩る頃、ロウの元に旧友である天宮テンから一通の連絡が入った。
「……ルナが、入院した。もう、長くない」
その一言が、ロウの世界を静止させた。 病室の白いシーツに沈むルナは、かつての活発な面影を削ぎ落としたように細く、透明だった。投薬の影響か、すべての体毛が抜け落ちた頭には白いニット帽を深く被っている。それが余計に、彼女の幼さを痛々しいほど強調していた。
「余命は、もって三ヶ月……。いや、今の進行速度ではそれさえも……」
テンの絞り出すような声が、消毒液の匂いと共にロウの脳を刺す。 見舞いに訪れたロウの手を、ルナは冷たい指先で握り返した。彼女の胸元には、あの日と同じミオソティスのペンダントが揺れている。
「ねぇ、ロウ。まだそのペンダント、持っていてくれたのね。……私のペンダントは子供が一人では淋しいと思って・・・。」
二人はそれ以降、未来の話も過去の話もしなかった。 窓辺では、風に揺れるミオソティスだけが静かに時を刻んでいた。体調の良い日には、車椅子で病院の裏にある高原へ行き、二人で吹き抜ける風に身を任せた。
別れは、三ヶ月を待たずに訪れた。 ルナの意識が混濁し始めた最後の日。もはや言葉を交わすことも叶わず、室内には彼女の細い呼吸音だけが虚しく響いていた。ロウにできたのは、骨ばった彼女の手を、ただ折れんばかりに握りしめることだけだった
敵機が引き金に指をかけた、その瞬間だった。
『――ターゲット確認。全機、殲滅を開始する』
ルナ・カノンの空を、冷徹で、それでいて懐かしい電子の声が切り裂いた。 峡谷の崖上から、一条の「青い光」が降り注ぐ。それは超長距離からの精密な狙撃だった。ロウの鼻先をかすめた高エネルギー弾が、彼を狙っていたグレイ・ハウンドの頭部を正確に消し飛ばした。
「このタイミング、この弾道計算……まさか!」
爆炎の向こうから、10機のPTを完璧な隊列で従えた一機のLCが滑るように現れた。 蒼い光ファイバーが全身を駆け巡り、静謐な殺気を放つ機体 - 『ブルー・ミュー』から支援を受けたニビの機体だ。
「ニビ! お前、司令官はどうした!」
『……ゴミは片付けてきた。システムの掌握も完了している。これ以上、君の無様なダンスを見せられるのは計算外だったのでね』
ニビのLC背後で、ニビが制御を奪った10機のPTが一斉に狼の群れのように散開した。それは、ロウが指揮していた時の無骨な突撃とは違う。まるで意思を持った一つの生き物のように、残りの敵機を追い詰めていく。
「ふっ……相変わらず嫌味な奴だ。だが、最高に助かるぜ!」
『礼を言うのは早い。キーヨが中枢の封鎖を解くまでの時間は、僕たちが稼ぐ。……ロウ、動けるか?』
ロウは、警告灯が真っ赤に染まるコンソールを殴りつけた。 ボォン! と内側から火を吹きながらも、漆黒のLCが再び咆哮を上げる。
「当たり前だ! 亡霊の踊りは、まだ終わっちゃいねえ!」
峡谷に二つの影が並び立つ。 ボロボロになりながらも不屈の闘志を燃やす黒い獣と、冷徹に戦場を支配する蒼い智将。 ただ死を待つだけだった少年たちは、今、ルナ・カノンの大地に最強の牙を突き立てた。




