― 旋回の残響 ―
頭上の哨戒機が放つサーチライトが、爆撃のクレーターを舐めるように掃引していく。 主人公は、もはや再起動すらままならないLCのコックピットにいた。
「……よくやってくれた。」
彼は愛機のコントロールパネルを乱暴に叩き、自爆装置のタイマーをセットした。内部機構が焼き付いたLCは、もはやただの鉄クズだ。軍に足がつかないよう、思い出もろとも灰にするしかない。 彼は下半身を失ったアンドロイドから抜き取った青いシステムチップを、防水布に包んで胸ポケットの奥深くに押し込んだ。
背後でLCが爆発し、紅蓮の炎が夜空を焦がす。その爆炎を背に、主人公は工場地下の資材庫に眠っていた「それ」のエンジンを叩き起こした。
高機動連絡機:機番GT-03。
一見すれば無骨な大型オフロードバイクだが、そのリアホイールにはPTの技術を転用した複雑なスライド機構が組み込まれている。
「……行くぞ」
スロットルを回すと、内燃機関が咆哮を上げ、黒煙とともに猛然とダッシュを開始した。 排水路の狭いトンネルを抜け、彼は第7下層市街地の迷路のような路地へと躍り出る。
「いたぞ、脱走兵だ! 止まれッ!」
街の検問所にいた警備部隊のATが、巨体を揺らしながら銃口を向ける。だが、二輪の機動力は重厚なPTを遥かに凌駕していた。
「……今だ」
直角に近い急カーブ。通常なら転倒するか、大幅な減速を余儀なくされる速度。 主人公がペダルを踏み込むと、**「ガキィィン!」**という硬質な機械音とともに、一本だった後輪が左右に割れ、ハの字型の三輪へと変形した。
旋回特化形態。
外側のタイヤが路面を噛み、内側のタイヤがジャイロ効果で車体を強引に直立させる。バイクは遠心力を無視したような不自然な軌道を描き、火花を散らしながら路地裏を「横滑り」で駆け抜けた。
「なっ、なんだあの動きは!?」
背後でATの放つ銃弾が石畳を弾くが、三輪状態で驚異的な安定を得た車体は、そのままローラーダッシュにも似た加速で闇へと消えていく。
ヘルメット越しに叩きつける風の中、胸ポケットの青いチップが心臓の鼓動に合わせて熱を持っているように感じられた。
(彼女の声……あのチップの中にあるのが本当にお前なら・・・。)
市街地の喧騒、ネオンの光、そして追っ手のサイレン。 すべてをミラーの彼方に置き去りにし、彼は「声」の正体を求めて、迷宮のようなスラムの深淵へと突き進んでいった。




