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亡霊の隊列  作者: 霧狼
第2章:異世界(仮)

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亡霊の翼 ― ネオ・シオン強襲 ―

 リップ・リーンの淹れたコーヒーの香りが消えぬうちに、アステリアの空は鉄の雨に塗り替えられようとしていた。 「……来たわ。ネオ・シオンの追手。ここはまだ見つかっていないはずだけど、不時着した不審機として総力を挙げて潰す気ね」  リップがモニターを見つめ、冷静に告げる。


「移動手段も武器もない。どうやってあの包囲網を抜けるつもりだ?」  ニビが問いかけると、リップは不敵に微笑み、地下ドックの隔壁を開いた。


「私の『子供』たちが、あなたたちに力を貸したがっているわ」

【新生:リード・コンダクター “フルスペック・カスタム”】

 そこに鎮座していたのは、見慣れた、しかし決定的に異なる輝きを放つ3人の愛機、量産型LC**『リード・コンダクター』**だった。  アステリアの原生素材は一切使われていない。代わりに施されていたのは、リップがルナ・カノンから持ち出した超高純度の軍事グレード・パーツによる、極限のチューンアップだった。


「あなたたちが使い慣れた量産機の、これが『真の設計限界値』よ」  無駄を削ぎ落としたソリッドな装甲。吸気効率を極限まで高めた大容量ブースター。それは機械としての美しさを極めた、対・巨大生物用の超高性能仕様。


「そして、これはおまけよ」  リップが端末を叩くと、背後のラックから20機の無人随伴機**『PT・フェンリル』**が起動した。3人が訓練で使い古した支援機を、リップが「ブルー・ミュー」からの戦闘システムダウンロードを終わらせた。このサブシステムで再定義した精鋭たちだ。

「ロウ、ニビ、この20機の牙は、今この瞬間からあなた達の手足よ」




紅砂の処刑場 ― 緋色と漆黒の交響詩 ―

 空を切り裂いて降り注いだのは、蒼い流星などではなかった。  無機質な鈍色の降下カプセルが、空気を引き裂く重低音とともに砂漠へ突き刺さる。爆砕したハッチの隙間から這い出したのは、50機の深紅のアスラ。それは衛星『セレーネ・データム』の巡航艦から放たれた、ネオ・シオン軍の追撃隊だった。


 その装甲は、まるで乾いた返り血を浴びたような禍々しい**深紅クリムゾン**に染まり、モノアイから放たれる不気味な蒼い燐光が、獲物を探して赤砂の地表をなめるように走った。


「降下機50! ネオ・シオンの『紅い悪魔』どもだ!」


 ニビの鋭い警告を受け、3人は即座に迎撃態勢を取る。  地下ドックから滑り出した二機のLC『リード・コンダクター』は、リップの手で極限まで磨き上げられ、宇宙の深淵を写し取ったような**「漆黒ミッドナイト・ブラック」**をまとっていた。


「ロウ、PT1番から10番を預ける。左翼の『紅』を削り取れ」 「了解だ! 黒い猟犬フェンリルども、飯の時間だぜ!」

【鉄の雨、硝煙の旋律】

 50機の赤いアスラが、一斉に動力を駆動させ、足首のグライディングホイールを唸らせて赤砂を跳ね上げる。


二機のLCから指示をうけた計20機のPT『フェンリル』が、砂漠を縦横無尽に駆け巡り、敵の陣形をかき乱す。

「PT11番から20番、散開! 弾幕を薄くするな、鉄屑をぶち込め!」  ロウが叫ぶと同時に、漆黒のLCの右腕に装備された**30ミリ重機関銃ガトリング**が火を噴いた。


 ドガガガガガッ! という、腹に響く凄まじい発射音。  吐き出される真鍮色の薬莢が滝のように砂漠へ降り注ぎ、マダラ状のオレンジ色の火花がアスラの装甲を激しく叩く。


 対するアスラも、肩部の7連装ミサイルランチャーを一斉に開放。  シュボボボッ! という湿った音と共に、無数の黒煙を引くミサイルがLCを包囲する。


「ニビ! 上だ!」 「分かっている。対空、撃ち落とせ!」  ニビの指揮するPT群が、背負った**ソリッドシューター(重反動砲)**を上空へ向ける。放たれた弾丸が、空中でミサイルと衝突し、どす黒い爆炎と鉄の破片を周囲に撒き散らした。

【零距離の鉄:潰し合う亡霊】

 視界は真っ黒な排気煙と、巻き上げられた赤い砂で最悪だった。  ロウの黒い機体は、グライディングホイールを火花が出るほど空転させ、一機の赤いアスラに肉薄する。


「……野郎、硬えな!」  ロウは重機関銃の弾倉を撃ち切ると、予備のパイルバンカーをゼロ距離で叩き込んだ。  ズドォォォン!  火薬の爆発音が鼓膜を突き破り、白熱した鉄の杭がアスラのコクピットを強引に貫通する。中から溢れ出すのは、どす黒いオイルと、高濃度酸素で引火した赤い炎だ。


 一方のニビは、10機のPTを盾にしながら、徹甲弾(AP弾)を次々と装填させていた。 「1番、装填完了。3番、次弾。……射て」  ガキン、という金属質の装填音。  放たれた鉄の楔が、アスラの頭部を「もぎ取る」ように粉砕していく。レーザーのような美しさはない。そこにあるのは、ただの「破壊」という名の事務作業だった。

【鉄の墓標】

 最後の一機が弾薬庫に引火し、真っ赤な火球となって砂漠に四散した。戦場に残されたのは、油の焦げる臭いと、冷えゆく鉄が鳴らす「キン……キン……」という虚しい音だけだ。


 ロウの漆黒のLCは、装甲のあちこちに**赤いアスラの返りオイル**を浴び、無残にひしゃげていた。


「……ゲホッ、おい……ニビ。弾、残ってるか?」 「……一発もない。予備の弾帯まで、すべて鉄屑に変えたよ」


 二人は、リップの淹れた珈琲の香りなどとうに忘れ、硝煙の臭いだけを肺に詰め込んでハッチを開けた。ボロボロになった漆黒の機体。その姿は、英雄の帰還というよりは、地獄から這い出してきた本物の亡霊そのものだった。


【リップからの通信:新たなる針路】

 静寂を切り裂き、コクピットのノイズ混じりの通信が跳ねる。リップの声だ。


「……派手にやったわね、亡霊さんたち。でも、感傷に浸っている暇はないわ。今すぐそこから西へ20キロ向かって」


 モニターに、砂塵の向こう側に位置する座標が表示される。


「そこには、金持ち連中の道楽のためにアステリアの原生生物を運び出す、**『闇の密輸施設』**があるわ。……通称『異世界アステリア』の家畜運搬船を手配しておいたわ。そのシャトルなら、軍の目を盗んで『ルナ・カノン』へ向かえるよう手はずを整えておく。次に来る時はもっとゆっくりしていきなさい。」


 リップの言葉に、ロウは吐き捨てたオイル混じりの唾を拭い、再び操縦桿を握る。


「……密輸船にヒッチハイクか。亡霊にはお似合いの泥舟だ。行くぜ、ニビ、キーヨ!」


 漆黒のLCは、ひしゃげた足を軋ませながら、西の密輸施設へと向かって、赤い砂漠を再び蹴り出した。


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