表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡霊の隊列  作者: 霧狼
第2章:異世界(仮)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

亡霊の揺り籠 ― 蒼い沈黙の覚醒 ―

 砂塵に削られた観測所の深部へ進むほど、空気は冷気を帯び、異様な静寂に支配されていった。  道中、3人は奇妙な部屋を通過した。そこにはアステリアの原生植物が繁茂し、手のひらサイズの小型草食恐竜たちが、外の世界の凶暴さを忘れたかのように穏やかに草を食んでいた。


「……生態系の箱舟か。彼女はここで何を飼っているんだ」  ロウが怪訝そうに呟く。その先に、かつてアイゼン・ガルドの最高機密を担った女性、リップ・リーンの姿があった。


【ルナ・カノンの亡霊】

「よくここまで辿り着いたわね、亡霊たち」  リップ・リーンは、大型モニターに映し出された第1衛星『ルナ・カノン』の図面を背に振り返った。


 統合帝国の支配下にあるルナ・カノン。15年前にその計画は立ち上がっていた。それはスーパー素粒子コンピューターの研究施設だった。7年前、若き天才リップが主任に就任したことで開発は加速し、ついに彼女の「最初の子供」――超高度AI『ブルー・ミュー』が誕生した。


「ブルー・ミューは、産声を上げた瞬間にシンギュラリティに達したわ。軍がその力を兵器として奪おうとするのは目に見えていた」


 リップは淡々と、しかし誇らしげに語る。 「だから私は施設を殺した。小型核分裂炉を暴走させ、放射能汚染を偽装して施設ごと封鎖させたの。記録上、施設は死に、私もそこで焼かれたことになっているわ」


「じゃあ、このブルーチップは……」  キーヨが胸元のチップを震える指で触れる。


「それは高度な受信端末。ルナ・カノンで眠るブルー・ミューと、唯一繋がるための糸よ。……いい、落ち着いて聞きなさい。軍があなたたちを消そうとしたのは、このチップのせいじゃない。チップはあなたたちを助け、導いただけ。軍はまだ、その存在にすら気づいていないわ」


 リップは驚愕する3人を宥めるように、穏やかな手つきで陶器のカップを並べ始めた。


「……ゆっくりしていきなさい。キーヨには、とびきり美味しいコーヒーを淹れてあげるわ。それからロウ、ニビ、あなたたちの分もね」


 豆を挽く芳醇な香りが、殺風景な司令室に漂い始める。 「ブルーチップの偽装は完璧よ。私の最高傑作だもの、誰にも悟らせはしない。だから、今だけは安心して。あなた達への「お願い」について話すのは、この一杯を飲み終えてからでも遅くないわ」


【真実の鍵と、覚醒の時】

 コーヒーの熱い湯気が、ニビのひび割れた眼鏡を曇らせる。リップは一息ついた3人の前に、一本のクリスタル・キーを置いた。


「ブルー・ミューの全機能を眠りから覚ますための『システムキー』よ。本来なら、人類が手にするには早すぎる炎。けれど……」


 リップは意味ありげに微笑んだ。 「あなたがた3人が、この満身創痍の体でアステリアの洗礼を生き残り、ここに揃った。……それが、ブルー・ミューを起こすべき時だという、何よりの証明なの」


 リップは3人の理由――なぜ彼らが軍に選別、そしてあの工場襲撃の場所にいたのか――「その答えはルナ・カノンに行けばわかる」と告げる。


 リップが淹れてくれたコーヒーから、ロウは何故かミオソティスの香りが立ち昇ったのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ