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亡霊の隊列  作者: 霧狼
第2章:異世界(仮)

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紅砂の断頭台 ― 亡霊たちの蹂躙 ―

 強襲艇『アステリア1型』は、ボレアリス大陸中央部に広がる赤砂の砂漠へと不時着した。激しい衝撃と共に砂煙が舞い上がり、重苦しい静寂が訪れる。


「……砂漠? 北の大陸は森じゃなかったのか」  ハッチを蹴り開けたロウが、乾燥した熱気に顔をしかめる。


「ここは大陸中央、湿った大気が周囲の峻険な山脈に遮られ、この一帯だけが極端に乾燥した砂漠になっている」  ニビが端末を確認しながら降り立つ。その視線の先、陽炎の向こうに、砂に半分埋もれた巨大なパラボラアンテナの残骸が見えた。 「あれだ。リップ・リーンの信号源――極地観測所跡だ」


 だが、彼らが歩き出そうとした瞬間、空が急速に陰った。見上げれば、太陽を覆い隠すほどの巨大な翼。ボレアリスの支配者、**『スカイ・キラー(翼竜)』**が、獲物の存在を確信して旋回していた。


【限界を超えた暴走】

 ボレアリスの赤砂を蹴立て、ロウのLC『リード・コンダクター』が咆哮する。だが、対峙するスカイ・キラーは想像を絶する怪物だった。ネオ・シオンの第2衛星『セレーネ・データム』を脱出した時のように、ブルーチップによる戦闘支援を望むには距離が遠すぎる。


 この星の巨大生物は、独自の進化を遂げていた。血液を作るための最小限の組織を除き、骨格の大部分が「天然のカーボンナノチューブ」と化しているのだ。炭素化した骨格は鋼鉄以上の強度と柔軟性を備え、機械の予測を裏切る挙動でLCを追い詰める。


 翼竜が羽ばたくたび、濃密な大気は不可視の凶器となり、LCの装甲を叩きつける。 「クソッ……速すぎる! センサーが追いつかねえ!」


 翼竜の嘴が、LCの左肩装甲を紙細工のように引き裂いた。火花が散り、油圧系統のオイルが鮮血のように砂漠へ吹き出す。地上で端末を叩くニビもまた、満身創痍だった。墜落時の負傷で額から血を流し、愛用の眼鏡はひび割れている。彼が展開するバリア・ビットも、翼竜の執拗な体当たりによって、既に半分以上が砕け散っていた。


「ロウ、回避だ! 奴は気流の『目』を読んでいる!」


 だが、翼竜の急降下攻撃が、LCの脚部を直撃した。金属のひしゃげる嫌な音が響き、LCは砂丘を転がり落ちる。追い打ちをかけるように舞い戻った翼竜の巨大な鉤爪が、LCのコクピット・ハッチを無残にえぐり取った。


「ロウッ!!」  キーヨの悲鳴が無線を裂く。


「……ハッ、死ぬときは一人だって決めてたが、こうもボロボロにされちゃな……」  剥き出しになったコクピットで、ロウは血に染まった歯を見せて笑った。 「ニビ! 出力をさらに倍にしろ! エンジンが溶けても構わねえ、このトカゲに一太刀入れさせろ!」


「……正気か。今の酸素濃度でそれをやれば、機体ごと爆散するぞ」  ニビは冷酷に、しかし指先を震わせながら、禁断のオーバーライド・コードを打ち込んだ。 「……だが、計算上、それ以外に生き残る術はない。死ぬなよ、ロウ!」


【刺し違えの爆ぜる空】

 LCの背部スラスターが、かつてないほど巨大な青白い火柱を噴き上げた。異常燃焼を起こしたエンジンが断末魔のような悲鳴を上げ、機体各所のボルトが弾け飛ぶ。ボロボロの鉄塊と化したLCは、もはや制御不能の弾丸となって翼竜へ突っ込んだ。


 ガキィィィィィィィン!!


 LCの右腕が、翼竜の首を強引に掴み取る。同時に、翼竜の鉤爪がLCの腹部を貫通した。 「捕まえたぜ……王様」


 ロウが零距離で重機関銃のトリガーを引き抜く。高濃度酸素によって限界を超えた爆圧が、翼竜の頭部を内側から粉砕した。もつれ合うようにして、鉄の亡霊と空の支配者が砂漠へと墜落する。


【亡霊の足跡】

 砂煙が収まったとき、そこには無残な光景が広がっていた。翼をもがれ、物言わぬ肉塊となった翼竜。そしてその傍らには、四肢を失い、黒煙を上げるLCの残骸。


「……ゲホッ、おい……生きてるか、科学者」  コクピットから這い出したロウは、右腕を力なく引きずっていた。ニビもまた、動かなくなった機体の足元で膝をついていた。彼の端末は過負荷で焼け焦げ、二人の機体(期待)は、もはや戦力としては死に体だった。


「……最悪の効率だ。移動手段を失い、武器も底を突いた」  ニビはひび割れた眼鏡を投げ捨て、霞む目で砂漠の先を見つめた。 「……だが、あそこにある。リップ・リーンの『揺り籠』が」


 二人の亡霊は、お互いの肩を貸し、ボロボロの体を引きずりながら歩き出した。その背後で、観測所跡の古びたライトが、まるで手招きするように不気味な点滅を繰り返しており、宙に浮かぶ衛星ミオソティスは三人を見守っていた。


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