― 錆びた残響 ―
LCのハッチを抉じ開けると、肺が焼けるような熱気が流れ込んできた。 10機のPTが作り出した鉄の繭は、跡形もなく崩れ去っている。自らの盾となって死んだ無機質な亡霊たちの残骸をかき分け、主人公は泥まみれの地面に降り立った。
視界を遮る黒煙の向こうに、それはいた。
「……あ……」
瓦礫に半ば埋もれたその個体は、彼が失った彼女とは似ても似似つかない姿をしていた。 記憶の中の彼女よりも少しだけ大人びた顔立ち。軍の高級士官を思わせるような、冷徹で美しい造作のアンドロイドだ。 しかし、その機体は爆撃の直撃を受けたのか、腰から下を完全に失い、引きちぎられたコードから 火花とオイルを垂れ流していた。
それでも、そのアンドロイドは、何かを庇うようにLCの残骸へと手を伸ばしている。
「……よかった……。怪我は、ありませんか」
瞬間、主人公の背筋に氷の楔が打ち込まれた。 その声だ。 大人びた外見とは裏腹に、その唇からこぼれ 落ちたのは、あの白一色の病室で、自分の傷を案じてくれた彼女の声そのものだった。
「お前……なぜ、その声で喋る」
主人公は、這いずり回るアンドロイドに歩み寄り、その胸ぐらを掴み上げた。 彼女はもう死んだ。病室で、自分の腕の中で。機械の人形がその声を出していいはずがない。
「システム……エラー……。私の、名前は……」
アンドロイドの瞳から光が消えかかる。 激しい怒りと、それ以上に深い混乱が主人公を突き動かした。彼は抗うような衝動に駆られ、彼女の後頭部、人工皮膚の隙間に隠されたメンテナンス・ポートを指で探り当てた。
そこには、淡い青色に明滅するひとつのシステムチップがあった。 なぜか、そのチップが自分を呼んでいるような、抜き取らなければならないという確信めいた強迫観念が彼を支配する。
「黙れ。その声で喋るな……!」
呪詛のように吐き捨てると、彼は強引にそのチップを抜き取った。 刹那、アンドロイドは沈黙し、ただの「重い鉄の塊」へと戻った。
掌に残る、熱を持った小さなチップ。 その中には、彼女の最期の声が・・・。「何か」が、電子の海に閉じ込められている。
頭上では、殲滅を確認しに来るであろう軍の哨戒機の音が近づいていた。 主人公は、チップを握りしめたまま、沈黙した10機の亡霊たちと、下半身を失った人形を見つめ、静かに笑った。
忘れたかったはずの声が、最悪の形でに具現化した瞬間、彼の新しい戦いが始まった。
(忘れることなど、最初から許されていなかったんだな)




