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亡霊の隊列  作者: 霧狼
第2章:異世界(仮)

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― スパイの帰還 ―

 ロウとニビをアイゼン・ガルドの宇宙港へと向かわせた後。  キーヨは一人、鏡の前で髪を束ね直していた。


 その瞳には、かつての「潜入整備士」としての鋭い光が戻っている。


「……ごめんね、二人とも。私を助けてくれた、お人好しの亡霊さんたち」


 彼女が取り出したのは、アイゼン・ガルドの軍服ではない。  ネオ・シオン技術連邦の、それも**「特務整備官スパイ」**の階級章だった。


「(私がルナ・カノンへ行ったところで、過去の記録ログに捕まって終わる。……でも、ネオ・シオンなら、私の『死んだはずのID』がまだ生きているはずよ)」


 彼女の目的は、二人を裏切ることではない。  アンドロイド工場襲撃の首謀者――その正体を突き止めるため。


 そして何より、自分を信じてくれたロウとニビを、この泥沼の星系から「異世界」へ逃がすための安全な航路を独力で確保することだった。


「……スパイごっこは、もう終わり。ここからは、私の個人的な『後始末』よ」


 彼女は、かつての母国が管轄する輸送艦『ヘリオス・ライナー』の搭乗ゲートへと歩き出す。  認証機が、冷たく告げた。


『――認証完了。お帰りなさい、カイム特務曹長。……およそ1200日ぶりの復帰です』


― 蒼い月の毒蜂 ―


 ネオ・シオン技術連邦、第2衛星『セレーネ・データム』。  無機質なセラミックの床と、流線型のホログラムが彩るその宇宙港は、泥とオイルにまみれた地上シミュラクラとは別世界の、冷徹な美しさに満ちていた。


 ハッチが開き、減圧の白煙の中から一人の女性が歩み出る。  タイトな制服を纏い、感情を凍りつかせたような無表情。――カイムだ。


「――出迎えは不要と言ったはずよ、軍曹」


 待ち構えていた警備兵に対し、彼女は視線すら向けずに言い放つ。  その声は、ロウたちが聞いたこともないほど低く、鋭い。


「申し訳ありません、カイム特務曹長! 3年間の潜入任務、お疲れ様でした。アイゼン・ガルドのLC開発データ、回収状況は……」


「報告は局長に直接行う。それより、最新の演算端末を用意しなさい」


 彼女は矢継ぎ早に命令を下す。


「それと、アステリア1型高速強襲艇。これを使用する1個小隊の配置状況、および稼働可能な『ヘリオス・ライナー』の貨物目録。30分以内に私の端末へ転送して」


「はっ、直ちに!」


 兵士たちが敬礼し、足早に去っていく。  独りになった瞬間、キーヨは通路の影で、ブルーチップを握り震える右手を左手で強く抑えつけた。



(……これでいい。あいつらは、私が裏切り者のスパイだったなんて、これっぽっちも疑ってない)


 キーヨは唇を噛み切り、かつての同僚たちが忙しなく動く管制室を見下ろした。  その視線の先、最新鋭のハンガーには、調整中の**『量産型アスラ』**の不気味なシルエットが並んでいる。


「……悪いけど、私の好きにさせてもらうわよ」


 彼女は迷わず、ネオ・シオンの軍機密データベースへ――。  「プロジェクト・アスラ」の核心部へと、ブルーチップを接続した。


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