― 終幕:鋼鉄の雨 ―
「仕留める……ッ!」
剥き出しの殺意を乗せ、ロウの量産型LCが火花を散らして突撃する。だが、最新鋭の怪物はその狂気さえも演算の内に収めていた。 アスラの残された隠し腕が、予測不能なタイミングで機体を反転させ、ロウの懐へカウンターの打撃を叩き込む。
「が……はっ……!?」
凄まじい衝撃。パイルバンカーを打ち込む直前、ロウの機体はアスラの剛腕によって木の葉のように弾き飛ばされた。装甲が路面を削り、火花とオイルを撒き散らしながら、ロウの意識は暗転の淵を彷徨う。
その時だった。
空を裂くような高周波の音が、戦場のすべてを支配した。 一瞬の静寂の後、夜の帳を強引に引き裂くような、白熱の閃光が頭上から降り注ぐ。
「――照明弾!? 軍の増援部隊よ!」
キーヨの悲鳴が響く。深夜の拠点は、まるで真昼のような白一色の世界へと変貌した。見上げれば、逆光の中に無数の影が浮び上がる。
それは、雲を突き抜けて降下してくる**軍のPT**の集団だった。十、二十――いや、数えることさえ無意味なほどの鋼鉄の兵士たちが、パラシュートも持たず、ブースターの轟音とともに雨のように戦場へ降り注ぐ。
かつてロウが率いた『亡霊の隊列』を、遥かに凌駕する圧倒的な物量。軍は最初から、アスラもろともすべてを「塗りつぶす」つもりだったのだ。
「ロウ! ロウ、目を開けろ!!」
ニビの重装型LCが、着地衝撃による砂塵を切り裂いて駆け寄った。彼は動かなくなったロウの機体を、残された片腕で強引に抱え上げる。
「キーヨ、スモークを展開しろ! 奴らの着地に紛れてここを脱出するぞ!」 「やってるわよ! でも、あのアスラがまだ……!」
光り輝く地獄の真ん中で、主を失ったアスラが、空から降り注ぐ同胞たちを迎え撃つように咆哮を上げていた。軍にとってアスラもまた、もはや回収すべき遺産ではなく、消し去るべきイレギュラーに過ぎない。
「……規律の犬どもめ。共食いでもしてろ」
ニビは、ロウを抱えたまま脚部のホイールを限界まで回転させた。背後では、着地した軍のPT軍団と、狂乱のアスラが激突する金属音が鳴り響いている。
白光の向こう側、再び訪れる夜の闇へと、三人の「亡霊」たちは滑り込んでいく。 ボロボロになった量産機。失われた誇り。そして、果たせなかった約束。
彼らが再び鉄の咆哮を上げるまで、戦場にはただ、鋼鉄の雨の音だけが響き渡っていた。




