― 双影の進撃 ―
「……こいつだ。結局、俺にはこれが一番馴染む」
「……帰ってきたな。俺たちの『居場所』に」
非常灯の下、鈍い光を放っていたのは、無数の傷に覆われた**量産型LC**だった。軍の最新鋭機アスラから見れば時代遅れの鉄屑に過ぎない。だが、彼らにとっては自身の肉体の延長とも言える「馴染んだ手足」そのものだった。
「キーヨ、全システムの同期を急げ! 5分で地上に叩き出るぞ!」
「言われなくてもやってるわよ! ブルーチップを全機体に直結……バイパスを通して、量産機の安全リミッターを全部焼き切ってやるわ!」
キーヨは自分の作業用ビークルを捨て、ニビの重装型LCの背後にたたずむ量産LCへと飛び乗った。
「キーヨ、リンクを。ニビ、LCに乗るのはいつ以来だ?」
「……第2工場が焼かれる日以来だな」
「ちょっと! 私、LCなんて乗ったことないんですけど!?」
悲鳴を上げるキーヨに、ロウが短く応える。
「安心しろ。機動はニビがLC同士をリンクさせて制御する。お前は演算データの処理だけに専念してろ!」
ニビが重装型LCのハッチを閉じ、操縦桿を握りしめる。 「……規律は不要だ。今はただ、この重みが心地よい。キーヨ、私の後ろから離れるな」
キーヨのチップから流し込まれる濁流のような演算データが、3台の量産機のOSを強引に書き換えていく。リミッターを解除された駆動系が、断末魔のような高周波を上げ、鉄の塊に異常なまでの反応速度を与えていく。
「……あいつ(アスラ)を、ここで終わらせる」
ロウの機体がエンジンの咆哮を上げ、3台の亡霊は火花を散らしながら、地上の戦場へと一気に駆け上がった。
「……なんだ、これは。ただのスクラップの山じゃないか!」
地上へと駆け上がった二台の量産機を、燃え盛る基地の火柱と、鼓膜を震わせる怪物の咆哮が迎えた。アスラは既に基地のPT(無人機)を殲滅し、無数の鉄屑を足元に積み上げ、文字通り「死の王」として広場の中心に君臨していた。
「――排除。不純物、排除――」
アスラの四本の隠し腕が、一斉に重機関銃の銃口をこちらへ向けた。
「来るわよ! 二人とも、私の計算を信じなさいッ!」
キーヨの叫びとともに、ロウとニビの網膜にアスラの無慈悲な射線が青く投影される。
「ニビ、左だ!」 「承知した!」
ニビの重装型LCが巨大な盾を構え、背後にキーヨを庇いながらアスラの正面に立ち塞がった。 ガガガガガガッ!! 凄まじい衝撃が量産機の装甲を叩き、火花が吹雪のように舞う。だが、ニビは一歩も引かない。盾の裏では、キーヨがブルーチップを介して機体の制御を限界まで最適化していた。
その盾の影から、ロウの量産型LCが火花を散らして飛び出した。脚部のグライディングホイールが悲鳴を上げ、左腕のパイルバンカーが不気味に沈黙をしている。
「最新鋭だか何だか知らねえが……鉄の動かし方を教えてやる!」
ロウの機体は、アスラの放つ弾幕を紙一重の回避で潜り抜けていく。それは洗練された機動ではない。量産機の癖を知り尽くした「亡霊」だけが可能にする、フレームが軋むほどに荒々しい限界機動だ。
「ロウ、前だけを見ろ! 背後は私が預かる!」
二台の量産型LCは、一歩間違えばスクラップへと還る薄氷の連携で、怪物の懐へと肉薄していく。




