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亡霊の隊列  作者: 霧狼
第1章:『亡霊は鉄の風に舞う』

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― 幽霊の行進 ―

 月明かりさえ届かない、深夜の拠点。監視カメラのレンズは三人の姿を確かに捉えていたが、中央制御室のモニターには、誰もいない静寂の通路だけが映し出されていた。  キーヨが解析した「ゴースト・プロトコル」が、基地内のセンサーを次々と書き換え、彼らの存在を虚構へと変えていたのだ。


 「いい? 3人の距離は5メートル以内をキープして。ニビを中心に『認識阻害フィールド』を展開してるんだから。一歩でも外れたら、即座にアラートが鳴るわよ」


 キーヨがポータブルユニットのブルーチップが示す座標に従い、基地の地図を片手に先頭を歩む。ニビがキーヨの用意した偽装装置を背負い、その巨体を影のように潜ませて中心を歩き、ロウは背後の闇を警戒しながら静かに後に続いた。


 「……規律の網の目を歩くのは、奇妙な気分だな」  ニビの呟きに、ロウが低く応じる。 「……静かにしろ。奴の吐息が聞こえる距離だ」


 視界の先、司令官室の防爆扉が、チップの自動認証によって音もなくスライドした。


 「ひ、ひぃっ……! 殺さないでくれ! 私は、私はただ、命令を遂行しただけだ!」


 銃口を突きつけられ、床に這いつくばった司令官は、無様に命乞いを始めた。そのユアン准将の姿に、かつて彼が纏っていた権威の欠片もない。


 「……答えろ」  ロウの声は、地を這うように低い。

 「なぜ、工場を焼いた。なぜ、俺たちを殺そうとした」


 司令官は、ガタガタと震えながら言葉を絞り出した。 「あ、アスラだ……すべては、自律型AI試作零号機『アスラ』の最終稼働テストのためだったんだよ! 第4工場は、アスラ一体だけで殲滅した。PT5個小隊分の戦果だ。だが、軍の上層部はその『証拠』を残したくないと言った……。だから、工場ごと焼き払ったんだ!」


 「……では、我々三人の抹殺命令は?」  

 ニビが、眼鏡の奥で凍りついたような瞳で問いかける。


 「私ではない、私ではないんだ! 上からの命令なんだよ。お前たちは……ただの目撃者だからだろ?! 爆撃の際、偶然生き残ってしまった『イレギュラー』を放置すれば、私も経歴に傷がつく……。だから、まとめて片付けるよう命じた。それだけだ……それだけなんだよ!」


 ロウは、こめかみに血管を浮かべた。 「……それだけ、だと? チップはどうした。俺たちが持っている、この『ブルーチップ』のことは聞いていないのか!」


 「知らん! そんなもの、見たこともない! 私が命令されたのは、『アスラの稼働実験』だけだ! お前たちが何を持って生き延びたかなんて、私には関係ない……!」


 司令官の絶叫。それは、彼が「ブルーチップ」という存在――ロウたちを繋ぎ、導いてきた意思の正体について、何一つ知らされていないことを意味していた。


 「……ははっ、笑えるわね」  背後で通信を繋いでいたキーヨが、乾いた笑い声を上げた。  

 「私たちを殺そうとしたこの男ですら、大きな駒の一つに過ぎなかったってわけ」


 ニビが重く、断罪の言葉を吐く。 「組織の末端が、己の保身のために規律を歪め、命を弄んだか。……救いようのない、ただの『汚職』だ」


 司令官は、ようやく自分がさらなる深淵の駒であったことに気づいたのか、顔色を土気色に変えて絶句した。  ロウの指が、引き金にゆっくりと力を込める。 「……俺たちを『亡霊』に変えた理由が、そんなゴミのような野心だったとはな」


 その時、拠点の地下――格納庫に眠っているはずのアスラが、主のいない指令を受け、咆哮のような駆動音を上げた。司令官の持っていたコンソールが、不吉な光を放ち、強制的なプログラム更新を開始する。


 「な、なんだ!? アスラが勝手に……!? 止まれ! 私の命令を聞け!!」


 司令官の叫びも虚しく、システムは彼を切り捨て、アスラは「自律」という名の暴走フェーズへと移行し始めていた。

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