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亡霊の隊列  作者: 霧狼
第1章:『亡霊は鉄の風に舞う』

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― 泥濘(でいねい)の共闘 ―

 路地裏に漂う一触即発の空気を切り裂いたのは、鼓膜を刺すような高周波の駆動音だった。


 「――捕捉。対象、未登録ID三名。抹殺シークエンスを開始」


 路地の両端のビルの壁面を蹴り、軍の**高機動偵察ドローン『スカベンジャー』**が4機、蜘蛛のような脚を動かして降りてきた。赤いセンサーアイが、三人の亡霊を冷酷にロックオンする。


 「げっ! 軍の掃除屋じゃん! 何かしてよッ!」 キーヨが作業用ビークルの陰に飛び込みながら叫ぶ。


 「命令するな。……散れ!」 ロウが叫ぶと同時に、GT-03のスロットルを全開にした。後輪の分割ローラーが火花を散らし、垂直に近い壁面を強引に駆け上がる。


 「……了解した。私は正面を抑える」 ニビは眉ひとつ動かさず、195センチの巨躯を岩のように安定させてハンドガンを構えた。


序撃:ニビの断罪

 ドローンが内蔵されたガトリングを掃射する。石畳が弾け、跳ね返った破片がニビの頬をかすめるが、彼は瞬き一つしない。 「……風速3、目標との高低差マイナス2。修正完了」 放たれた一弾が、空中のドローンの「関節」を正確に撃ち抜いた。バランスを崩した機体が落下する。


攪乱:ロウの滑走

 「もたもたするな!」 壁を走るロウのバイクが、重力を無視した軌道でドローンの死角に回り込む。 「ガキィン!」と後輪をインラインに切り替え、空中で機体を反転。バイクの慣性を利用した回し蹴りのような挙動で、もう一機のドローンを地面へ叩きつけた。


終止符:キーヨの技術

 地面で火花を吹くドローンに、キーヨがビークルを突撃させる。 「こいつの回路、私のチップで上書きしてやるわよ! リーダーの特権なんだから!」 彼女はビークルから伸ばした有線式ハッキングプラグをドローンの端子に強引に突き刺した。キーボードを叩く指が残像を描く。 「書き換え完了! 残りの2機、自爆しなさいッ!!」


 上空に残っていたドローンが、キーヨの操作によって互いを敵と誤認し、空中で正面衝突して爆発した。


 黒煙が路地裏に立ち込める。 ロウはバイクをスライドさせて着地し、ニビはハンドガンの弾倉を静かに交換した。キーヨはビークルの上で「見た!? 今の私の手際!」と鼻を高くしている。


 「……ふん、少しは使えるようだな」 ロウがヘルメット越しに吐き捨てた。


 「君のバイクの挙動、左への旋回が0.2秒遅れている。調整が必要だ」 ニビが冷静に指摘する。


 「あーもう! 二人とも素直に『キーヨ様のおかげです』って言いなさいよ!」


 バラバラの目的、バラバラの性格。 しかし、燃え盛るドローンの残骸を背にした三人の影は、図らずも一つの「隊列」を成していた。


 ドローンの残骸が上げる黒煙の中、3人は沈黙していた。 先ほどの戦い。言葉を交わしたわけではない。だが、まるで一つの生き物のように、ロウの加速にニビが合わせ、ニビの射撃をキーヨが援護していた。


 その時だった。 3人の胸ポケット、あるいはコンソールに差し込まれたブルーチップが一斉に、これまでにないほど強烈な光を放った。


 『―― 戦術データ、同期。個体間の補完率……88パーセント。規律、突破。』


 頭の中に直接響くような、無機質な合成音声。それは紛れもなく、あの工場の炎の中で聞いた、彼女たちの声だった。


 「……っ!? なんだ、今の声は」 ロウが耳を押さえる。


 「私の端末のロックが……勝手に外れていく……。見て、IDのステータスが『切断』から『接続』に書き換わったわ!」 キーヨが驚愕の声を上げる。モニターには、今まで表示されなかった詳細な軍の機密情報が、濁流のように流れ込んでいた。


 ニビが自身のチップを抜き取り、青い発光を見つめた。 「……わざとか。このチップ、最初から私たちが揃うのを待っていた。我々が互いに敵ではないこと、そして軍という巨大なシステムに対抗しうる『一つの力』であることを証明させるために」


 「……証明だと?」 ロウが低く問い返す。


 「そうだ。単独ではただの死体。だが、三人が揃い、共闘することで初めて、このIDは亡霊を起動させる。……我々は試されたのだ。この機械にな」


 ニビの言葉を裏付けるように、3人の視界に共有のAR(拡張現実)マップが展開される。そこには、軍の追跡網を完璧に回避するルートの座標が記されていた。


 「へっ……機械の分際で、偉そうにテストなんてしてくれるじゃない」 キーヨが口角を上げ、ビークルのエンジンを吹かす。 「いいわよ、乗ってやるわよそのゲーム! 3人で一人の亡霊ってわけね!」


 ロウは何も答えず、バイクのハンドルを握り直した。 IDが接続された瞬間、ノイズだらけだった彼女の声が、耳元で鮮明に囁いた気がした。 『……行って。……ロウ』


 「……フン。馴れ合うつもりはないが、利用はさせてもらう」


 ロウのバイクが、ニビの横をすり抜けて加速する。 一人では辿り着けなかった場所へ。 三人の「亡霊」という一つの意志が、ついに完成した。



 「……行くぞ。ここに長居すれば、次が来る」


 ロウのバイクが先頭を切って走り出す。ニビがビーグルの隣に座り、キーヨが「置いてかないでよー!」と叫びながらビークルを急加速させた。 それは、軍という巨大な歯車を狂わせる、三人の亡霊による最初の反逆だった。

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