― 邂逅する亡霊たち ―
第7セクター、闇市。 違法なジャンクパーツの匂いと、行き場のない難民の湿った熱気が澱む路地裏。
ロウのバイク、GT-03は、濡れた石畳を切り裂くようなスキール音を立てて急停止した。後輪の分割機構が「ガキィン」と鳴り、三輪の安定姿勢で車体を支える。 胸ポケットのチップが、かつてないほど激しく熱を帯び、脈動していた。
「……ここか」
ロウがヘルメットのシールドを跳ね上げた、その時だった。
暗い路地の奥から、規則正しい、重々しい足音が近づいてきた。 そこにいたのは、ATでも車両でもない。 身長195センチ。煤けた軍服を完璧に着こなし、眼鏡の奥で冷徹な瞳を光らせる男――青野・ニビが、生身のまま悠然と姿を現したのだ。
彼は、まるで演習場を歩くかのような隙のない足取りでロウの前に立ち止まると、その巨躯に見合う大型のハンドガンを無造作に下げたまま、静かに口を開いた。
「……探したぞ。私のチップが示したの座標は、ここだ」
「……何者だ、お前は」
ロウがバイクのハンドルを握る手に力を込めた瞬間、頭上から場違いな駆動音と、金属が擦れ合う悲鳴のような音が降ってきた。
「ちょっとどいてどいてー! ブレーキが効かないんだからぁぁっ!!」
路地の角から猛スピードで突っ込んできたのは、無数の配線が剥き出しになった小型の作業用ビークルだった。 操縦席で必死にレバーをガチャガチャと動かしているのは、オーバーオール姿の少女、チャン・キーヨだ。ビークルは激しく火花を散らしながらスピンし、ニビのすぐ傍のゴミ山に突っ込んでようやく止まった。
「……っつー……。もう、この子のサーボモーター、ガタがきてるんだから!」
キーヨは煙を吹くビークルから飛び出すと、煤だらけの顔を上げてロウとニビを交互に指差した。
「あんたたちね! 私のチップに勝手に通信入れてきたのは! 誰か知らないけど、このチップは私が『預かった』んだから、横取りしようなんて思わないことね!」
一触即発の緊張感を漂わせるロウ。 彫刻のように動じず、二人を見下ろすニビ。 腰に手を当て、不敵に(そして必死に)まくしたてるキーヨ。
「……なるほど。軍の爆撃を生き延びた『エラー』は、私だけではなかったということか」
ニビが冷静に眼鏡のブリッジを押し上げた。 ロウはバイクのエンジンをふかしたまま、低く呟く。
「……群れるつもりはない。邪魔をするなら、まとめて撥ね飛ばすだけだ」
「なによその言い草! 私がリーダーとして状況を整理してあげようってのに!」
ネオンの明滅の下、三つの異なる「亡霊」の影が石畳に伸びる。 共通点はただ一つ。彼らのチップが、互いを「不可欠なパーツ」として認識し、共鳴を止めないことだった。




