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八、伊藤

 夏休みに入る前、伊藤と喧嘩をした。理由は小説家になりたいと話したら笑われたから。


「お前みたいな凡人には無理」


そんなことをズバリと言われ、心が折れてしまった。


(小説家になりたいだなんて言わなきゃよかった)


 そう思いながらも、どこかで伊藤なら応援してくれると期待していた自分が恥ずかしかった。本も読まないし、一作も書きもせず、そんな宣言をしたことを後悔していた。

 しかし、伊藤への怒りも、自分に対する憤りも、幽霊の小説を読む間に消えていた。

 僕はあんなふうに書けない。書く努力もしていないから、伊藤の言葉は、今となっては「そりゃそうだ」と思う。 

 才能と努力と全ての経験値が足りていない。


(書くのなんて面倒くせぇ)


 小説家になりたいなんて夢は投げ捨てればいい。すごく簡単で一般的なことだ。

 でもーー何もしないまま終わって良いのだろうか。

 机に向かってぼんやりしていると、ふと後ろに気配を感じた。


「こんばんわ」


 気づくと時刻は午前0時を回っていた。

 振り返ると昨日の幽霊が立っている。やっぱり白装束で、黒縁眼鏡をかけ、トートバッグを持っている。


「また持ってきましたよ」


 にこやかな表情で、またクリアファイルを手渡した。前より厚みがある。大作かもしれない。


「あのさ」


 僕は顔を上げた。


「なんでこんなことをするの?」


 何故、毎晩僕のもとを訪れ、小説を渡すなんて。


「助けたい人がいるからです」


「それは誰? こんなことしなくても、僕ができることならするよ?」


 これは回りくどすぎやしないだろうか。


「いいから、読んでみてください」


 幽霊は涼し気な顔で僕を見下ろしていた。


「私も生前は小説家になりたかったんです。だから楽しんでいますしーー詳しいことは金曜の深夜になったら話しますよ」


 含み笑いに、僕は頷いていた。

 また金縛りをかけられたくないというのは建前で、どこかで読まないといけないと思っていた。ここで読まずに逃げたら、僕は自分の作品を書けない気がしていた。だから、僕は押し黙るしかなかった。


「今回は少し長いですから、休み休み読んでくださいね」


 そう言われ、僕はページをめくる。


 題名は『エゴノキ』だった。

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