表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

三、改稿はトートバッグの中

 次の夜。僕は机に向かっていた。

 時刻はまもなく、深夜0時を迎える。

 机に向かってはいたけれど、何もできずにいる。

 昼間に小説の書き方について動画やネットを漁ってみた。付け焼き刃でもいいから、そこで得た知識を使って例の物語に描写を書き足そうとした。でも、手は一向に動かなかった。

 そのうちに、あれは現実ではなく、自己嫌悪から見た夢ではないかと思うようになっている。


(本当に出るだろうか)


 今夜も幽霊は来るだろうか。

 スマホの表示が0時00分を示す。僕は室内を見渡した。


「いないじゃないか」


 そう呟いて、すぐ。


「いますよ」


 頭の上から声が降ってきた。


「ひっ!」


 思わず悲鳴を上げた僕の頭上から、ゆっくりと男の幽霊が降りてきた。ニヤニヤと笑いながら床に降り立ち、


「こんばんわ」


と、挨拶をする。昨日と同じ白装束だけどトートバッグを抱えている。


「昨晩ぶりですね。お元気ですか?」


「本当にきた」


「私は約束を守る幽霊ですから」


「じゃあ、書いてきたの?」


「もちろん、書いてきましたよ」


 答えた後、幽霊はベッドに腰掛け、しげしげと僕を見た。


「石川くんは、書いてないですね」


 僕が書き直していないことは、どうやら見抜かれていたらしい。


「書いてない」


「正直なのはよろしいですが、約束を守ってほしいですねぇ」


 そう言いつつ、怒った様子も見せずにトートバッグからクリアファイルを差し出した。


「これを読んでみてください」


 僕は受け取ると、ファイルの中からA4の紙を取り出す。どうやら、幽霊が書いてきた小説のようだ。幽霊がどうやってPCに打ちこんで印刷したのかは謎だけど、相手は幽霊だ。もはや掘り下げる気にもならない。


「もし面白かったら。私の頼みを聞いていただけますか?」


 幽霊はあっけらかんと訊ねた。


「やだよ」


「ケチですね」


「ケチじゃない。幽霊の頼みなんてきいたら命奪われそうで怖いよ」


「石川くんにはそんなことしないです。何の怨みもないですから。頼みの内容を聞いてもらうだけでいいんです。しかも、このお話が面白かったら」


「面白かったらでいいの?」


「もちろん」


 表紙には『居酒屋風喫茶カフェ』とある。


(居酒屋なの? 喫茶店なの? カフェなの?)


 僕は眉を寄せつつページをめくった。


 そこには物語が綴られていた。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ