第5話 鉄の島
「なんだか、すごいことになっちゃいましたね……俺たちが前線なんて……」
「まぁな。上の思惑も気になるところだが……考えたところで、どうにかなるわけでもない。腹をくくれ」
司令官執務室を出た後、俺とケネスは基地内の食堂前にあるテラス席にいた。
「冷たいなぁ。さっきは『司令、こいつは優秀な男です。前線なんてもってのほかだ。命令を取り下げさせるためならば、俺は……』って泣いてくれたじゃないですか」
「どこのパラレルワールドから来たんだ、お前は。俺たちのケネスを返せ」
「てへり」
なぜそこで「てへぺろ」なんだ。
……しかも、下手。圧倒的だ。
ウインクは出来てないどころか、変に顔が歪んでるし、なにより舌を出しすぎ。
…………ゾンビ犬みたいだ。
「オーキッド少尉、何でゾンビ犬の真似なんてしてるんですか?」
俺とケネスが話す背後から、モコナ伍長が笑いながら歩いてきた。
モコナ伍長、容赦ないな……。
だが……「ゾンビ犬の真似」って……。
……そうか……案外、本当にゾンビ犬の真似をしていた可能性も……いや……ケネスの顔を見る限り違うな。ショック受けてる。
「はいっ、キョウヤ少尉はコーヒー砂糖多め。オーキッド少尉は野菜ジュースですよね」
「――あ。悪いな、ありがとう」
「いつも気が利くなぁ。突然の呼び出しの上あんな話のせいで、のどカラカラだったよ」
ケネスが、両手で持った野菜ジュースをストローでうまそうに飲む。
お子様め。
「くぅ~~……っ……生き返ったぁ……っ!」
おっさんめ。おっさん子供め。
「……先輩。今、お子様かよって思ってましたよね? 甘々コーヒーの先輩には言われたくないですよ。俺は野菜ジュースなんで。大人な飲み物なんで」
「いや……おっさん子供に昇格したところだった」
「おっさん子供…っ! ……って何……?」
「だいたい、お前のも野菜ジュース(加糖)だろ」
「先輩、おっさん子供って……いや、(加糖)だろうが野菜ですから。体を思える大人ですから」
「どっちもどっち、だと思いますけど」
モコナ伍長はそう言うと、ケネスと同じように両手で持った容器から、いつものりんごジュースをストローで吸い上げた。
「………………」
「………………」
「………………」
お子様飲み物な俺たちは、しばらく無言でのどを潤していたが、
「それにしても、私たちの配属先があの【ウィクトーリア】だなんて思いませんでした」
どこから出したのか、ドーナツを頬張るモコナ伍長が言う。
[ムーンバード]級、重航空巡洋艦【ウィクトーリア】。
前線部隊の中でも、最精鋭と名高い艦だ。
海上、飛行運用はもちろん、現行艦では珍しく潜水航行にも優れた万能艦。
本来ならば、テストパイロット上がりが配属されるようなところじゃない。
あの新型といい、ますます不可解な話だ。
「だよねぇ。まわりが強いのは心強いけど、当然他の部隊より危険な戦場に送られるんだろうし……。強い部隊って、生存確率高いのか低いのか、どっちなんだろうね」
答えたケネスに、二つ目のドーナツにかぶりついたモコナ伍長が頷く。
……もうひとつあったんだ。
「それに……艦上勤務となると、"地面"ともしばらくお別れだしなぁ」
ケネスが椅子から垂らした足でパタパタ地面を鳴らす。
天真爛漫幼女か。
「どのみち鉄の上だぞ? たいして変わらないだろ」
「出たッ……! 陸生まれ発言! ひぃぃぃ……ッ」
ケネスが凍えるような仕草でブルブルと震える。
モコナ伍長まで、笑いながら同じポーズをとっている。
「やめろ、それ。何が『ひぃぃぃ』だ」
「だって『土の上、以外は地面とは言わない』ってやつでしょ? ひぃ、ですよ」
「そこまでは言ってないだろ。たいして変わらないって言っただけだ」
「……先輩、それがもうすでに陸生まれ発想なんですよぉ」
「えぇぇ……」
俺はかつて、「R-4」……「G・ディバイディング」と呼ばれていた大陸の海域にある、小さな島に生まれた。
たしかに陸生まれだが……特権意識を持った「大陸」生まれの奴らと同じように扱われるのは癪だな……。
――ある日、宇宙から地球外生命体の母艦が降ってきた。
何十万というその艦隊が落ちたことによって、各地では大津波が発生。
地球上のほとんどの都市が呑まれ、人命はもちろん、あらゆるものが失われた。
その後、急激な海水面の上昇によって地球上の陸地のほとんどが消失し、生き残った人々はわずかな陸地を頼りに、新たな生活を始めた。
それがおよそ二百年前と言われている。
降ってきた異星人共は各地の海底に巨大なコロニーを造り、対して地球人類は当初こそ地下にその居場所を求めたものの、地下資源が出たこともあって地下は採掘用へと切り替え、代わりに、陸地周辺の海域に人工島「アイランド」を建造した。
俺が生まれた小さな島にも、規模は小さいが「アイランド」が三基、島を囲うように建造されていた。
今は、もうない。
「だいたい、お前こそ『アイランド』生まれっていっても、あの『A8』なんだろ? 陸生まれでも小さな島だった俺なんかより、よっぽど上級民じゃないか」
「アイランドA8」は、「R-1」海域に建造された中で比較的歴史の浅い「アイランド」だ。
人口増加にともない、大陸に近い海域に建造されたもので、他の「アイランド」に比べ軍事施設より居住エリアがメインになっている。金持ちも多い。
「……にじみ出てますか? 俺の品の良さ」
野菜ジュース(加糖)のストローをくわえたケネスが、髪をかき上げる。
「ああ、プンプンな」
「え、なんかヤだな、それ」
「そうか? ……じゃあ……プンっプンな」
「増してる」
笑いながら鼻をつまむモコナ伍長に、ケネスが飛び上がりながらキーキー騒ぐ。
両腕を上げ、がに股にした脚を空中で交互にバタバタさせ……どうなってるんだ、あの動き。
妙な新型に、不可解な人選と配属先。
ようやく掴んだ「前線行き」の機会は、とても手放しで喜べるものではなくなったが……こういうのも悪くはない。かもな。
AS「夕焼け色のサンタクロース」に合わせて公開しましたー \(´・∞・` )
そうなんです、ウィクトーリアにはキョウヤたちが乗っていたんですー ”(´・∞・` )時系列的に「夕焼け色の――」のほうが先のお話になっております
本編でもいずれ、「鉱山地帯」でのお話を書く予定です(´・∞・` )いつになるんだぁっ




