第4話 SL03―010C
司令官執務室。
俺たち三人は司令の机に向かい、並んで立っていた。
お偉いさんの机って、何であんなに無駄にデカいんだろうか。
「キョウヤ少尉、今度は一体何をやったんですか……?」
「………………」
「思い当たるフシが多過ぎるって顔だなぁ……。でも、俺たちまで呼び出されるなんて……」
そうだ。ケネスの言うように、どれがバレたのか、まったくわからない。
……ただ、たしかに、この二人まで呼ばれるのは妙だ。
「ご苦労。楽にしろ」
執務室に入って来た司令の言葉に敬礼を解いた俺たちだったが、司令は椅子には座らず、俺たちの前を通り過ぎ窓のほうへと向かった。
……どれがバレたんだ……。
「……ふぅ……」
司令が静かに、それでいて深い、ため息をつく。
めずらしい。
いや、初手からこんなのは今までなかった。
新しいパターンか。
……本当に、どれがバレたんだ……。
「お前たちに転属命令が下った」
…………?
「…ぁ…え……っ、司令……『お前たち』とは、我々三名ということでしょうか……?」
「そうだ」
ケネスの狼狽えた声に、振り返った司令が短く答えた。
こんな時期に転属?
「司令、ここのテストチームは廃止ということですか?」
「いや、ここには新たに別のチームが配属される」
「……つまり、テストチームを置く基地を増やすと?」
試作機のテストチームは現在、ここ「アイランドA5」の他、四つの基地で稼働している。
たしかに忙しい時もあるが、いつもじゃない。
チームを増やす必要なんてあるのか?
「テストチームの数は、現状のままだ。そうそう試作機ばかりポンポンつくられてたまるか」
「司令、お話が見えません。ならば俺たちはどこへ?」
「……【エリア-T】だ」
前線?
ケネスとモコナ伍長が、目に見えて動揺している。
「待ってください。俺はともかく、なぜこの二人まで」
まさか、俺のせいか? 冗談じゃない、もしそうならどんな手を使っても止めてやる。
「……ふぅ。たしかにお前は何度も前線への転属願いを出してたみたいだがな」
「……え……キョウヤ少尉……?」
モコナ伍長が声を漏らし、俺を見る。
「おまけに問題行動ばかり起こして、なんとか前線に行きたかったようだが……そんなやつは向こうでも願い下げだ、馬鹿者が」
……え? そうなの?
「お前の転属願いはもともと『問題行動有り』で本国で止まっていたが、前線に人が足らなくなった時にお前の腕だけは評価されてな。一度、各前線基地・部隊に打診が回った。答えはそろって『ただでさえ余裕がないのに、馬鹿の後始末までは出来ない』だとさ」
そ……そうなんだ。
「……な、なら、今回はなぜ?」
「上の連中は、オーキッド少尉をご指名だ」
ケネス?
「お…わ、私ですか!?」
「新型の試作機を実戦配備するにあたって、上はオーキッド少尉を指名してきた。ベオトーブ少尉は腕だけは見込まれ、そのサポート。スノウ伍長はベオトーブ少尉の手綱を引く役目だ」
「で、でも前線なんて……」
「司令、どうしてもケネスでなければいけませんか? こいつは間違いなく優秀ですが、命のやり取りに向いているとは思えません」
「先輩……」
こいつは優し過ぎる。
敵はともかく、味方の死が積み重なる前線では、すり減り過ぎて無くなってしまうかもしれない。
「これは参謀本部からの命令だ」
……従うのみ、か。
「ならば、せめてモコナ伍長だけでも。俺は前線に立てさえすれば、他はちゃんとやれます。伍長の役目は必要ない」
「先輩、俺のことも、もうすこし粘ってくださいよぉ……」
「戦場では、俺がカバーしてやる」
新型のパイロットとして、上がケネスをご指名なら、こっちは望み薄だ。
だが、あくまで俺の「お守り役」なら、モコナ伍長の役目は替えが利くはずだ。
「うむ……」
「わ……私もいけますっ! 問題ありません!」
「お、おい……モコナ伍長」
「キョウヤ少尉は、他所にいったらきっと腫れ物扱いです! だれも、オペレーターになんか付いてくれませんよ!」
いやいや、さすがに任務なんだから、誰かしらは付くってば。
腫れ物って。ちょっと、そんな……。
「わかってるのか? [シーガル]乗りに比べれば安全だが、前線には変わりない。……守ってやれる保証はないぞ」
「覚悟はしてます。それに大体、参謀本部の命令ですよね? そう簡単にどうこうできるものじゃないんじゃないですか?」
「司令なら、できますよね?」
「できるな」
「えっ!?」
「できる……が、かなり無茶はする。本人の希望があるなら、その必要はあるまい」
司令が、あご髭を撫でながらモコナ伍長に片目をつむってみせた。
「あ、ありがとうございます!」
「司令っ!」
「なんなら、お前の前線行きごと白紙にしてやってもいいんだぞ?」
……ぐっ。
「冗談だ。今回の件は正直、私でもどうにもならん」
……司令でも?
「どういうことです?」
「さあな。参謀本部から、とはなってはいるが、その実、かなり上のほうからの力がかかっているようだ。文字通り、有無を言わさずというやつだ」
「……その新型がらみ、というわけですか?」
「だろうな」
軍需産業と、政治家どもの思惑か。
「……それで、その新型とやらは?」
「こいつだ」
司令がモニターに機体データを出す。
「SL03-010C【シュヴェールト】。『R-3』でテストをしていた機体だ」
……「陸」で?
「……基本は【ガネット】のままだな。03系ってことは、強襲型だろうが……ん? これは……」
「……これ、複座型ですね」
ケネスが言うように、新型は複座型だった。
ただ――
[シーガル]で複座型なんて見たことがない。
「その通りだ。メインパイロットは、ベオトーブ少尉。オーキッド少尉は武装統制を担当する」
「待ってください。先ほどのお話では、指名されたのはケネスで、俺はサポートのはずでは……」
「そうだ。詳しいことは私にもわからん。『機密』だそうだ」
……つまり、新型の肝は武装にあるってことか。
だが……なぜ、ケネスなんだ?
「先輩の操縦なら、俺も前線でやっていけそうな気がしてきましたよ……! やられる時は一緒ですしね!」
「お前と心中は御免だ。俺だけ脱出する。やられる時は俺のほうが先に気付くだろうしな」
「先輩っ!? 一緒に墜ちましょうよぉ」
複座型も悪くはない。自分を守ることが、こいつを守ることに直結する。
それぞれで飛ぶよりは、ずっと守りやすいだろう。
大丈夫だ。俺が死なせない。
こういう型式番号って熱いんですけど、何気に考えるのが大変(´・∞・`;)
複座にしたのは、なんとあのキャラが乗るからなのです! \(´・∞・` )
「ケネスじゃないのか?」(´・∞ ・ `)
え…ええ……まぁ……(´・∞・`;)おふっ