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第3話   キレが違う

「キョウヤ・ベオトーブ少尉。基地司令より出頭命令が出ている。同行しろ」



 基地に帰投して早々――

 機体を降りた俺に、凛々しい女性士官が告げた。


 

「先輩、がんばってください。では、俺はこれで…」

「ケネス・オーキッド少尉、貴様もだ。同行しろ」


「えっ…!? なぜっ!?」


「そりゃあ、俺たちチームだからな。『飛ぶる時も、墜つる時も』ってやつだろ」


「文法的に合ってるんですか? それ」


「知らん」


「いつまで無駄話をしている。いくぞ」


「はっ」

「はっ! し…失礼しました……! ……せ、先輩のせいですよ……?」



 凛々しい女性士官殿は、俺たちに鋭い視線を向けた後で振り返り、先頭を歩き始めた。

 きつくまとめた髪が、彼女の生真面目さを物語っている。



 基地司令補佐官、ジーナ・ラトレル大尉。



 俺とは、たいして年齢(とし)も変わらないはずだが、その優秀さと美貌で基地では知らない者はいない。



 そして――


 これは、俺の直感だが……司令と何かある。


 


「……大尉、最近、司令とはどうなんですか?」



 ケネスを置いて、ラトレル大尉に近づいた俺は、小声で訊ねた。


 いくらケネスでも、身内の、この手の話を共有するつもりはないからな。



「ど…『どう』……とは……? いつも通り、つつがなく日々の軍務を…」

「いやぁ、司令も独り身が長いでしょ? どうなのかなぁ、と」


「司令がお独りなことと、わ…私に何か関係が…っ?」

「私的には……大尉ならば申し分ないと、思ってるんですが……」


「本っ……! ……先ほどから、要領を得ない話だ。無駄話はそこまでにしろ」


「はっ。失礼致しましたっ」



 なるほど。


 司令にしては時間をかけている……ということだろうか。邪魔しちゃ悪いな。






「ベオトーブ少尉! 貴様、何を考えている! あやうく貴重な試作機を失うところだったのだぞ!!」



 大尉に「連行」され司令官執務室に通されたたちは、司令の有難い「薫陶」を賜っていた。

 なぜか、モコナ伍長も来ている。何で、いるんだ?



「はっ! 申し訳ありません! 以後、決してこのようなことの無きよう、猛省に猛省を重ね、己を律し訓練に励み、忠実に任務にあたる所存です!」


「おお、そうか。……ん? つい最近も似たような言葉を聞いたな……そぉうだ、思い出した。ついひと月前、どこかの馬鹿が試作機のテスト中にも関わらず、近くで起こった戦闘に無断で! 帰投命令を無視をしたあげく!! 乱入した時に聞いたなッ!!」



 司令……今日もノリツッコミが冴えてるな。



「その時の馬鹿は、いったい誰だったか……おおっ! そうだ…っ! 今まさに、目の前にいる馬鹿面にそっくりじゃないか!!」



 いつになく芝居がかった司令が、身体全体を使った大きな動きで声を張り上げている。

 

 なかなか動きが様になってる……腕を上げましたね、司令。



「嘘をつけ、この大馬鹿者(おおばかもん)がぁッ!! 貴様の謝罪など、兵学校のメシ以下だッ!!」



 ……見事だ。今日の司令はキレが違う……。

 


「はっ! 申し開きのしようもありませんっ!」


「……まったく。すこしは、こっちの身にもなれ、馬鹿者が。……行って良し」


「はっ! これより格納庫にて重ね重ねの愚行を恥じ、自機の整備を通じ己と向き合って参ります!」



 どっかりと椅子に座った司令が、ため息まじりに、「しっしっ」とジェスチャーする。


 




「先輩、さっきの『兵学校のメシ』って何なんですか?」



 司令執務室を出た俺とケネスは、とりあえず格納庫に向かう。

 すでに整備班もやってくれてるが、自機の整備に立ち会うのもパイロットの仕事だ。


 モコナ伍長も管制塔までの道のりはご一緒で、俺とケネスの後ろをついて来ていた。



「おいおい、せっかくの司令のノリツッコミが台無しだな。今日のは、すごかったのに」


「仕方ないじゃないですか。僕って士官学校のなので」


「なにが、『僕』だ。……『兵学校のメシ』ってのは、『マズい上に、毎度同じで飽き飽きする』って意味だろうよ」


「おー」


「『おー』は司令が、かわいそうだぞ」


「司令も、別に感心してほしくて言ってる訳じゃないと思いますけどね」



 わかってないなぁ。



「そういえば、キョウヤ少尉っ。司令が昔パイロットだったって噂、本当なんですか?」



 モコナ伍長が、前を歩いていた俺たちの間に身を乗り出すようにして聞くと、



「おぶ! ……えっ、そうなの? いやぁ……でもパイロットから基地司令なんて……」



 ケネスが一瞬体を強張らせながら、続いた。



 わかる。

 俺も今、ちょっとびっくりしたもん。



 モコナ伍長は、推進系がブースターしかないタイプというか……。

 普段がゆったりな分、たまに動きが突然でびっくりする。



 俺とケネスって、意外と根が繊細なタイプだから……。

 

 ほら……今だってケネスのやつ、まだちょっとドギマギして警戒してる。

 かわいそうな奴……。


 ……は、置いといて。



「本当だぞ。正確には『上級幹部のエリートコースに乗りながら、パイロットもやってた』って感じだけどな」



 司令は、あんな感じで実はすごい人だ。

 昔は「甘めの顔」してたしな。モテてた。


 ちなみに「エリートコースに乗りながら、[シーガル]にも乗ってた」と言おうと思ったが、うまいことを言おうとしたと勘繰られるのが嫌でとっさに変更した。

 

 うまくもないし。



「うーん……まさに『エリートコースと[シーガル]を股にかけ、基地司令までフルスロットル』って感じですね」



 ケネスが目をつむり、あごに手をやりながら言う。



 ……わからん。


 いや、わかる。わかるんだけど……。



 おそらくスタートは俺と同じ。

 そこから何とかうまく言おうとして、絡み合い過ぎてねじ切れている……。



 なにより――



 なぜそんなに、期待に満ちた表情ができるんだ……お前は……。


 こっちを見るな……。

 見…やめろっ。




「でも、司令って本当にキョウヤ少尉に甘いですよね。たしかに成果は挙げてますけど、前回に続いての今日ですから、さすがに今度はダメかと思いました」


 

 モコナ伍長が、くすくすと笑いながら言う。



「司令とは……長い付き合いだからな。拾ってもらった恩もあるが、拾った責任ってもんもある」


「なんでキメ顔なんですか……。司令が聞いたら怒りますよ?」



 あの人には、本当に感謝してもしきれない。


 けど……俺は、いつまでもこんな後方にいるつもりはない。



「だから俺は、万年少尉やってるんだよ」


「俺の方が、先に昇任しそうですもんねっ」


「甘いな、ケネス。俺とやってりゃ、"諸共もろとも"だぜ」


「か、勘弁してくださいよ、先輩っ」



 ――この二人とのチームも、案外居心地はいいけどな。




 それから三日後。


 俺たち三人は再び、司令官執務室に呼び出された。



こちらも短編版で割愛した、ジーナ大尉の登場です \(´・∞・` )

やはりミリタリーものにおいて、クーデレ美女はテッパンでしょう!(`・∞・´ *)ふんっ


クーデレ、イメージはあるんですけど書いたのは初めてで(´・∞・`;)何気に難しい…

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