第1話 カモメとペンギン
――なあ、こんな話を知ってるか?
ある日、海辺の岩場に一羽のカモメが降り立った。
他に誰もいないその岩場はとても静かで、寄せる波すら穏やかに感じるほどだ。
このカモメは「変わり者」で、自分がどこまで高く飛べるか、そして、空の先に何があるのか知りたくて、毎日のように飛んでいた。
その日も、何度も限界高度に挑んだカモメは、疲労と寒さに震える体を癒すために日当たりのいい、この「いつもの場所」に来ていたのだった。
「今日も全然ダメだった。昨日と大して変わりゃしない」
疲れ切ったカモメの体は、羽繕いをする余裕もないほどだったが、しなければ明日の飛行に響くどころか、この後、巣に帰ることすらままならない。
仕方なく、鉛のように重い体を動かし羽繕いを始めると、突然、目の前の海から「何か」が飛び出してきた。
「ぶぁーーっ!! もぉぉう、無理だっ! 動けーん!」
海の中から飛び出してきた「何か」は、岩場にベチャンと倒れ込むと、ぐったりしたように動かなくなった。
体は動いていないが、あーだこーだと、しきりに何か言っている。
「な……何なんだ? あんた……」
カモメは目を白黒させながら、打ち揚げられた魚のような「何か」に訊ねた。
「ん? ……ああ、なんだ先客がいたのか。すまんな。どいてやりたいが、しばらく動けそうにない。もう少し待っててくれ」
「い、いや、別に俺の場所ってわけでもない。気にしないでくれ」
カモメがそう言うと、「何か」は視線だけを向けて興味深げにカモメを眺めた。
「お前さん、ずいぶんとボロボロじゃないか」
「あんただって」
カモメは、羽繕いを続けながらも「何か」を注意深く観察した。
よく見ると「何か」は、鳥のような姿をしている。
「はははっ! 違いない! 今回は少しばかり無理をし過ぎた」
「海の中なんかで、何をしてたんだ?」
「潜っていたに決まってるだろう。だが、ただ潜っていたわけじゃない。私はね……真の海の底が見たいんだよ」
「……えっ……」
話を聞いてみると、「何か」は「ペンギン」という鳥らしい。
ペンギンは、「真の海の底」を目指し、日々潜り続けているのだとカモメに言った。
カモメは、思わぬ同志との出会いに、自分が空の先を目指し日々飛び続けていること、そして自らの空への想いをペンギンに語って聞かせた。
仲間たちにすら語ったことのない話だ。
「そうか、そうか」
ペンギンは、寝転がったままカモメの話を真剣に、興味深そうに聞いている。
カモメは、うれしくて、羽を広げては身振り手振りで語り続けた。
「あ……すまない。つい話し込んでしまったみたいだ。こんなこと……誰かに話したのは初めてだったんだ」
気付いた時には、日が傾きかけていた。
カモメが恥ずかしそうに羽を畳むと、ペンギンが起き上がり、海を見ながら言った。
「お前さんは重力に、私は浮力に。私たちは、互いの『青』の境に引っ張られながら、それに抗い飛んでいるんだな」
「お互いの、『青』の境……」
カモメは、遠い水平線を見ながらペンギンの言葉を繰り返した。
「青の境」は、夕日で赤く染まっていたが、カモメの心には、どこまでも青く、そしてまだ見ぬ「青の先」の光景が浮かんでいた。
――なぁ。カモメは、「青の先」を見れたと思うかい?
『そんなの、知りませんっ!! キョウヤ少尉! 早く帰投してください!!』
オペレーターの声と、鳴り響く警告音。
一週間前、俺は「汎用戦闘人型機動兵器[シーガル]」、その新型試作機のテスト飛行をしていた。
短編版では割愛した、カモメとペンギンの会話を載せました ”(´・∞・` )
ペンギンは、でっかいゴーグルをおでこにつけてるイメージですw (´・∞・` )