表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白紙のノート

作者: アニサキス

僕は彼女の字が好きだった。

白く細い手からは想像も出来ない程太く大胆な字に、何度も鉛筆が折れた跡を残した黒い線。

そのアンバランスさに惹かれたのだ。

初めて字を見たのは国語の授業。書いた詩を誰かと見せ合う授業で偶然僕の隣の席に居たのが彼女だった。

震える手でノートを手渡した彼女は「汚い字でごめんね」と笑った。確かにお世辞にも上手いとは言えない拙い字だが、びっしりと文字が並ぶ光景。そして引き伸ばされた消しゴムの跡が努力の証を示している。けども、肩を強ばらせて僕の目線を確認するその仕草に思わず「僕は好きだよ、この字」なんて柄にでもない臭い台詞を口に出してしまった。

彼女は驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑い感謝の言葉を述べた。

その日は僕にとっての特別な日で。

僕にとっての記念日で。


彼女にとっての命日だった。


あの日、彼女は休み時間に席を立った。珍しいと思いつつ僕はあの字に思いを馳せていた。しかし、彼女が戻ってくることは無かった。心配になるも教室はいつも通りに時が進んでいく。まるで彼女なんて初めからいなかったかのような扱いで進んでいく。だから僕は嫌気が差した。あんなにクラスの中心的な存在の彼女が居なくても平気なクラスメイトを心底軽蔑した。しかし僕が出来ることなんてなにもない、そう思いふと彼女の席を見る。誰も居ない席に陽の光が暖かく差し込んでいる。今日は雲一つもない良い天気だ、なんて呑気に伸びをした僕の視界に影が横切った。

それは彼女だった、彼女は笑いながら僕を見ていた、僕だけを見ていた、僕も彼女だけを見ていた。まるで二人だけの時間のようにゆっくりと時は流れていく。けども一瞬で彼女の姿は見えなくなった。

周りの目なんかどうでもよくて、僕は立ち上がって階段を駆け下りた。廊下の窓から身を投げ出したその先に、彼女はいた。

まるで絵画のようでとても綺麗だった。内蔵も皮膚も分からないぐらいに汚い筈なのに、ソレは神聖な存在のように思えた。そして、彼女の横に落ちたノートがひらりと風に揺られてページを捲っていく。


そのノートには、何も書いてなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ