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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Christmas Carol

雪が降っていた



雪は好きだ

打撲痕だらけの躰を隠してくれるからだ


僕は口いっぱいに溜まっていた血を白い雪に吐き出すと、声無く笑った

血の絡まった息が熱を含んでいるのが自分でも解った



先程、街の若者を何人か殺した


彼らは僕のような家無しを虫のようにいたぶり、遊びとして殺す


今夜もそれで仲間が数人殺された

我慢の限界だった


あんな生き物は一匹でも多く殺さなくてはいけない

感情的にも倫理的にも、そう強く感じた


僕自身も助からないような傷を負わされたが、悔いは無い

無論死ぬ事など嬉しくなかったが、結局どう生きた所で僕には既に助かる道など無かった

ただ、最後にやりたい事が一つだけあった


雪を染める僕のあかい足跡の向かう先には教会がある

僕のよろけた歩みの終着地は、まさにそれだった



泥の中を這うような永い時間の果て、僕はかろうじて教会に辿り着いた


扉を開けようかと思った矢先、扉は住人によって自ら開かれる

一人の老人が姿を見せた


彼は険しい顔で僕を見ると、口を開く

「その血は自分の物だけではないな」


「ここはお前のような者が来る所では無い」


それはそうだろう

完全に僕もその意見に同意だった


僕はナイフを抜き放つと逆手でそれを持ち、全力で老人の顔に突き立てた

そして間髪入れず、刺さったナイフの柄を思い切り殴り飛ばした

老人は後ろに勢い良く倒れ、二度と動かなかった


教会の中に駆け込む

そして僕はよろめきながらも、取り憑かれたかのような機敏さで次々に燭台を倒し始めた


率直に言って「自分の躰にまだこんな力が残されていたのか」と驚いたが、もう死ぬ事を強く確信したからか、総ての痛みが今や消え去っていた


空気が乾燥していたため、瞬く間に教会は火の海となった



「メリークリスマス!!」


「メリークリスマス!!!」


仰向けに倒れた僕は、それでも嗤っていた

恐らく人生で一番嗤ったに違いなかったが、両の眼からは止め処なく涙が溢れていた



そして気が付けば、僕は激しく咳き込み続けていた

ついに終わりが来たのかも知れなかった


ふと僕が視線を天井から横に向けると、その先には女の子が居た


身なりからするに教会で保護されていた孤児だろうか

その子供は確実なものとして自らに迫りつつある死の恐怖に、歩く事も出来ず震えていた


───そこまで近い距離ではないな

これが人生最後の行いなのだと僕は感じた



一歩一歩、虫が這い寄るように僕は子供へ近付いた


これはまさに無駄な行いだし、何の精算にもならない

しかし自分が生まれて初めて行う正義である確信はあった


僕は炎から守るように彼女に覆い被さった

程なくして焼け崩れた天井の柱が落下し、僕の背中をいた



「神よ!」


「もし本当に居るのなら、この炎を消してみせろ!!」


教会全体が崩落する

炎が僕を包んだ

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