第5話【バーバリック視点】パーティーは解散した
※追放した側 バーバリックの視点です
イノがバーバリックのパーティーを脱退したことは、他のメンバーにとって寝耳に水だった。
寒村の酒場に怒号が響き渡る。
「イノさんを勝手に追放するなんて。バーバリック、あんたの横暴は目に余る! 今日でパーティーを辞めさせてもらう!」
「おい、待てよ!」
男魔法使いは背を向けて宿を出て行ってしまった。
魔法使いに続こうと赤髪の女プリーストが席を立つ。
「馬車が来てるからあたしも行くね。乗り遅れたら彼と離ればなれになっちゃう」
「おまえもか! 補助役がいなくなったらピンチんとき、どう対処すりゃいいんだよ」
「しらないよ。ご自慢のマジックアイテムでも使ったら? じゃあね、無敵のバーバリックさん」
女プリーストは荷物を背負うと急いで宿屋を出て行った。
「クソオンナがっ! あいつの頭ん中はお花畑かよ。男の尻を追いかけやがった!」
バーバリックはいらだちを隠せず、女プリーストが座っていた椅子を蹴り倒す。
いつか嫁にでもしてやろうと思っていたが計算が狂ってしまった。
「まあいい。回復なんてポーションがあれば事足りる」
ゴールドライセンスは伊達ではない。
金と名声があれば女も寄ってくるだろう。
上手く利用すれば、田舎で悠々自適なスローライフを送れるはずだ。
だが、バーバリックは止まらない。
みんなから賞賛されるような最強の冒険者になる。それが彼の夢だからだ。
「そのためには必要なんだよ。もっと強いマジックアイテムが……」
バーバリックは宿屋に残った最後のパーティーメンバー、盾役を務める大柄の戦士ゴライアスに声をかける。
「ゴライアス。おまえはオレについてくるよな。今なら報酬山分けだ。おまえの田舎に家を建てられるぞ」
「お、おいらは……」
「次に狙うのは【腐毒の毒沼】だ。挑んだヤツが誰も帰ってこない超高難易度のダンジョンだが、ゴールドライセンスがあればクエストを受けられる」
バーバリックはゴライアスの返事を待たず、テーブルに置かれた魔法の地図を広げる。
「魔法の地図さえあれば難攻不落の迷宮もパパッと攻略可能だ。こいつは自動筆記機能だけじゃねぇ。3歩先の様子を予測して最適な順路を地図に映し出す【ナビゲート】のスキルが備わってる」
つまりは危険を事前に察知して回避できるわけだ。順路も自動で映し出されるので迷うことがない。
『最短最速』『バランス』『ノーリスク』という3通りのコースが選択可能だが、バーバリックは『最短最速』しか選ぶつもりはなかった。
「他のメンバーは日雇い冒険者を金で集める。ダンジョン近くに行けばなんとかなるだろ。メンバーが集まるまで、ゴライアス。おまえは盾でも磨いてろ。盾がなければおまえはただの木偶の坊なんだからな」
バーバリックが意気揚々と計画を話していると、ゴライアスは2メートル近い巨体を揺らして立ち上がった。
「おいら、やっぱり行かない」
「なんだと!? クズなおまえを拾ってここまで育ててやったのはオレだぞ。恩を仇で返すつもりか」
「おいら、バーバリックに育てられたおぼえない。食費は自分で働いて稼いだ」
「そういう話じゃねぇって! ほんとにてめぇは頭が悪いな! 根暗なイノと同じで、オレが声をかけなかったらギルドでくすぶってたって話だよ」
「おいら、頭は悪い。それは認める。だけど、イノさんを悪く言うのは許さない!」
――――バンッ!
ゴライアスは大きくゴツゴツとした手でテーブルを叩いた。
「イノさん、おいらの実力を認めてくれた。いつも頼りにしてるよって、頭を撫でてくれた」
「なんだぁ? 犬みたいに撫でてほしかったのか。言ってくれればそれくらいやったのによ。ほれほれ、お座り」
「おいら、犬じゃない!」
「おわっ!? 吠えるなよ。わかったから落ち着け、な? おまえに体当たりでもされたら骨が折れちまう」
「ふぅ…………」
じりじりと後ずさるバーバリック。
ゴライアスは深く息を吐くと、気持ちを落ち着けた。
「怒ったときに落ち着くやり方。これもイノさんが教えてくれた。おいら、あの人に多くのこと学んだ。みんなだってそうだ。とても感謝してる。そんなイノさんをバーバリックは勝手に追い出した」
「しかたねぇだろ。あいつがいるとパーティーの調子が乱れるつーか。いつもゴチャゴチャうるさくて戦いに集中できねぇんだよ」
バーバックは面倒くさそうにため息をついて耳の穴をほじくる。
「そのくせ戦闘じゃあ後ろに隠れてるだけだしな。荷物持ちならおまえもいる。魔法の地図もある。だからイノは用済みなんだよ」
「バーバリック、わかってない。前で戦うおいらたちが大きな荷物持ってたら邪魔。後ろにいる人が荷物を護るの、すごくいい。アイテムも投げて渡せる。おいら、それで何度か助けられた」
「でもよぉ……」
「もういい。おいら、村に帰る。イノさん、どこに行ったかわからない。お金はたくさん稼いだ。冒険者辞めて田舎で畑耕す」
ひょいっと大きな荷物を軽々と担ぐゴライアス。
そんなゴライアスにバーバリックは罵詈雑言を投げかける。
「逃げるのか臆病者! いいぜ、勝手にしな。てめぇのような根性なしは、どこに行っても通用しねぇがな!」
「……さよならだ」
バーバリックの言葉もゴライアスには響かない。
唯一残ったパーティーメンバーも宿屋を出て行った。
「くそがっ! どいつもこいつも使えねぇ!」
怒りの形相のバーバリックはテーブルを蹴り倒す。
触らぬ神に祟りなし。酒場の主人はすでに店から消えていた。
「いいぜぇ。だったらやってやろうじゃねぇか。てめぇらがいなくてもオレはやれんだよぉ!」
やはり仲間なんて当てにならない。
信用できるのは自分の実力と強力なマジックアイテムだけ。
バーバリックは誰もいない酒場で孤独に吠えた。
バーバリック視点は一旦ここまで。
次回はイノさん視点に戻ります。いよいよお仕事開始!
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