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第19話 地味スキルでピンチを乗り越えろ。逆転の目はすでに揃っていた



 ()()()()()()



 デモンピードの腹部にある気孔から紫色の煙が吐き出される。



「マスクで顔を防いで! 毒だ!」


「本当に厄介なモンスターですのね!」



 私とセリスさんは予め準備していた防煙効果のあるマスクを装着する。

 腐毒の沼穴というダンジョン名だからと防毒対策を講じていたのが、ここにきて役に立った。



「ギシャアアアアア!」



 威嚇の叫びを上げながらこちらに迫るデモンピード。

 周囲の壁で待機していたダンジョンピードたちも、耳障りな金切り声を上げて動き出す。

 夜な夜な聞こえていたという地鳴りの正体はこれか!



「どどどどどどどうしたら!?」


「セリスさん、私を信じてその命を預けて!」


「いつでも覚悟完了しておりますわ!」


「いいお返事だ!」



 私はそこで懐からホイッスルを取り出した。



「ぜんたーい、進め!」




 ピッ――――!



 私はホイッスルを鳴らして、セリスさんに【誘導(ガイダンス)】と【整列(フォールイン)】スキルをかける。

 目を見る、音を出すなど、スキル発動には暗示をかけるための()()()()が必要だ。

 バーバリックには効かなかったが、やはりセリスさんは根が素直な人のようだ。



「もうすぐ帰りの馬車が出ますよー。急いで集合場所に向かってくださーい」


「ああっ! 足が勝手に動きますわ! これって催眠系スキルですの!? わたくしにエッチことをする気ですわね!? エロ聖典みたいに! エロ聖典みたいに!」


「しないよ。っていうかエロ聖典ってなにさ。ほら行くよ!」



 パニック状態のセリスさんを無理矢理走らせて、一目散に出口――デモンピードの背後にある暗闇を目指す。



「でえぇぇぇ!? どうして前に突っ込むんですか!?」


「後ろが壁だからだよ」



 部屋はすり鉢状になっていて手で登ることは不可能。

 死中に活を求めるなら、暗闇の向こうにある巣穴の奥を目指さなくてはならない。



「だからって無策で突っ込むなど!」


「私を信じてって言ったでしょ」



 私は消えかかったランタンに向かって残りの火炎瓶をすべて放り投げた。

 床に広がっていた油に引火して、一気に炎上する。



「ピギィィィ!」



 セリスさんの叫び声みたいな悲鳴を上げて、ザコムカデは炎でひるんだ。

 突破口が開き、デモンピードに肉薄する。



「シャアアァァ!」



 やはりボスだけあって炎にはひるまない。



 ――――ガチガチガチ!



 デモンピードは毒性のある牙を鳴らし、私たちの首元に食らいつこうとする。

 狙いはやっぱりセリスさんだった。



「また囮役ですの!?」


「大丈夫! 私もあなたを信じてる!」



 迫るデモンピードの牙。そのとき――



 ――――ズガン!



 デモンピードの足下に亀裂が入って相手は体勢を崩した。



「やっぱり発動した! 【七転び八起き】の()()()!」



 デモンピードが混乱している今がチャンス!

 私はデモンピードの大口に向かって、水の減らない水筒を投げ入れた。



 ――――プシュゥゥゥ!



 移動中によく振っておいたので勢いよく水が吹き出る。

 デモンピードの体内を水が満たす。


 相手がひるんだ隙に、酸性の水たまりに向かう。

 私は革のグローブを使って手を突っ込むと――――――



「これでトドメ!」



 溶けかけていたマジックソードを掴んで、デモンピードに投げつけた。



 ――――ザクッ!



「ピギャアアアアァァァァ!」



 マジックソードは見事、デモンピードの甲殻を貫いた。

 次の瞬間――――



 ――――パキパキパキッ!



 氷属性のマジックソードの効果が発動して、デモンピードは氷漬けになった。

 巨体が倒れて、氷の彫像が粉々になる。



「見たか! 三度必殺の【投擲(スローイング)】スキル!」



 他のムカデは炎でこちらに近づけない。ボスがやられたのもあるだろう。

 戦意を失って方々に散っていった。



「ちょっとイノさん! 策があるなら事前に相談してくださいまし!」


「ごめんごめん。時間がなくて」



 激怒してるセリスさんに向かって私はウインクを浮かべる。



「セリスさんなら私の期待に応えてくれると思ってたよ。私たち、最高のパートナーだね」


「トゥンク……」



 セリスさんは頬を赤らめて。



「そんな言葉じゃ騙されませんわ! パートナーだと思うならもっと大事に扱ってください!」


「やっぱりダメだったか」



 我ながらないな、とは思っていた。



「それじゃあこのまま出口を目指そうか」


「出口なんてあるのですか? ここモンスターの巣穴なんですよね」


「もちろん出口はあるよ。私の記憶が確かなら……」



 私は脳内に記憶していたダンジョンマップを参考に出口を探す。

 大穴の位置と山のように詰まれたお宝の位置座標から考えて、それほど遠くにはないはず。

 私はブツブツと呟きながら狭くて暗く、そして妙に生暖かい通路を歩く。



「右に24歩、それから前に2歩。壁に手をついたあと天井を叩く」


「なんだか呪文のようですわね」


「あった!」



 天井を叩いたら穴が開いた。まるで虫の口みたいな円形の穴だ。

 調べると膜のようになっており、重みを感じると自動的に開閉するらしい。

 脱皮したデスピードの皮膚を使っているんだろう。

 さすがはトラップの名士。エサを得るための創意工夫が見られる。



「これはいい罠だー。地図に花丸でチェックをつけておこう」


「なに感心してるんですか。早く出ましょう」


「そうだね」



 私が先行して安全を確保しながら穴を這い出る。

 私の予想通り、穴があったのは宝の山の近くにある曲がり角だった。



「もう少しだよ頑張って」



 セリスさんに手を貸して穴から引き上げると――



「待ちやがれ…………!」



 暗闇の奥に潜んでいた()()()()()()が穴から這い出てきた。

次回でお話は一段落。バーバリックとの因縁に決着がつきます。



ここまでお読みいただきありがとうございます。読者さまの☆やブックマークが創作の後押しになります。少しでも面白い、先が気になると思われたら、応援よろしくお願いいたします。

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