第17話 デストラップ! 七転びまくり
「【七転び八起き】の不運はいま何回目?」
「え~っと確か次で7回目……」
私の問いかけにセリスさんは顔を青ざめる。
「もしかしてアレはトラップですの?」
「そういうこと」
私はバックパックから伸縮式の竹竿を取り出して、お宝の山を突いた。
すると――
――シュポン!
急に床に穴が空いた。
綺麗な円形の穴で、まるで虫の口みたいだった。
開閉は一瞬のことですぐに穴は閉じる。
目を離していたら穴が開いたことすら気がつかないだろう。
「ひぎぃ! なんという巧妙で卑劣な罠! あやうく引っかかるところでしたわ」
「いわゆる疑似餌トラップだね。お宝に目がくらんだ冒険者を罠に引っかけるの」
「罠があるのはわかりましたが、お宝は目の前ですのよ。見過ごすのですか?」
「いいや、いただくよ。今回のクエストはお宝回収が目的だからね」
私は竹竿を回収して、先端に仕掛けを取り付ける。名付けて――
「マジックハンドー」
「マジックハンド!? まさかその竿、マジックアイテムの一種ですか!?」
「違う違う。原始的な仕掛けだよ。故郷のレンジャーさんに作り方を教えてもらったんだ」
ギミックは簡単だ。
先端にかぎ爪とザルをつけて、ひもを引っ張ることで爪を動かして遠くのモノを掴む。ザルは落下防止用だ。
私は再び竹竿を伸ばして、金銀財宝をひと掴み。
穴のトラップが発動しても意味はない。
金のネックレスを爪に引っかけ、ザルに金貨や宝石を乗せてお宝を回収した。
「これで任務完了っと」
「素晴らしいですわ! さすがイノさん。トレジャーハンターとしても一流ですのね」
「あはは。ほとんどのお宝はお残しのままだけどね」
けれど、今の私たちに必要なのは実績だ。
手ぶらで帰るより、たとえ少しでも財宝を持ち帰った。その事実が大事なのだ。
私とセリスさんはお宝をバックパックにしまうと、元来た道を戻ることにした。
「過去にこのダンジョンに挑んだ冒険者も同じような手でお宝を回収したんだ。人に知られないように、毎日コツコツとお宝をかすめ取った」
「だから人に秘密にしていたのですか。毒が充満していそうな名前で呼んだり、難攻不落のダンジョンと吹聴したのも人を近づけさせないためですか?」
「おそらくね。危険なトラップがあることに代わりはないから警告の意味もあったんでしょう。仲間を失ったことがトラウマになった人がいたのかも」
ギルドに帰ったら【腐毒の沼穴】の危険度を精査し直す必要があるだろう。
ダンジョンに眠るお宝を手に入れるのは冒険者の特権だ。
それをとやかく言うつもりはないが、ダンジョンの噂を利用して悪人や盗賊が根城にする可能性もある。
そうなったら最悪だ。トラップにモンスターに盗賊のトリプルアタックを食らったら、並の冒険者では太刀打ちできない。
お宝を求めてやってきたのにお宝を落とす羽目になる。ミイラ取りがミイラになる、というやつだ。
「ミイラ取りがミイラになる……」
「どうかしまして?」
「ちょっと気になることがあって」
「またですの? これ以上いったい何があると言うのです」
「お宝の位置だよ。どうしてあんな無造作に道の真ん中に置いてあったんだろう」
「冒険者をトラップにハメるためでしょう。物陰に隠されていたら見つけてもらえませんから誰かが置いたのですわ」
そうだ。そもそもお宝は自然発生しないものだ。
マジックアイテムが眠る古代遺跡やお宝好きのモンスターが住むダンジョンならまだしも、天然の洞窟から金貨や宝石が見つかるはずもない。
考えられるのは隠れ潜んでいた盗賊がお宝を残した可能性だ。
冒険者の遺品が道ばたに転がっていた、という可能性もなくはない。
だとしても、一カ所に宝の山が築かれるのはおかしい。
セリスさんの言うように誰かが宝を置いたのだ。
どうして? 何のために? それは――
ゴゴゴゴゴ…………。
「地鳴り……?」
考え事に集中していて気がついた。
歩いていたら気がつかなかっただろう、些細な地面の揺れ。
私の推測が正しければ――――
――――ボコン!
空気が抜けるような音が鳴り、突然足下の床一面に大穴が空く。
「イノさんっ!」
セリスさんはとっさに私を突き飛ばそうとして――――