表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/20

第1話 突然の解雇通告。いわゆる追放ものですね

新連載です。中編ですのでお気軽にお読み頂けると幸いです。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「え……?」



 青い甲冑を着た金髪オールバックの戦士――

 バーバリックが放った言葉に驚き、私は思わず彼の顔を見つめ返してしまう。


 バーバリック・デズモント。

 私が所属する冒険者パーティーのリーダーだ。


 私たちがいる酒場は山間にある寒村の小さな宿屋、その1階部分にあたる。

 村にはダンジョン目当ての冒険者しか立ち寄らず、他のメンバーは2階で眠っている。

 この酒場に私たち以外の客はいない。だからバーバリックの声はよく響いた。



「夜中に呼び出すから何かと思えば、解雇通告をするためだったの」



 私は飲みかけのエールをテーブルに置き、努めて冷静な口調で事実を確認した。

 黒くて長い髪を揺らし、同じく真っ黒な両目でバーバリックを見つめて訊ねる。



「私が女だから追放するの? 冒険の邪魔だって?」


「そんなこたぁ関係ねぇ。オレが求めてるのは即戦力になる優秀な人材なの。無敵のバーバリックさまにふさわしい仲間は他にいんだよ!」



 バーバリックの酒焼けしたダミ声が、狭くて薄暗い酒場に響く。



【マッパー】……ダンジョンの構造を羊皮紙に記録して地図を作る測量の仕事をしていた私は、彼に雇われてメンバーに加わった。

 バーバリックは効率と実績を重視しており、リスクを顧みず高難易度のクエストを次々とこなしている。

 その実力が冒険者ギルドに認められて、先日ゴールドクラスのライセンスを貰った。



 私は地図を書くしか能がなく何かと迷惑をかけた。

 そりが合わないところもあったけど、これまで上手くやってきた。

 そのつもりだったんだけど……。



「理解が及ばない。どうしてこのタイミングで? ゴールドライセンスを貰って、より難易度の高いダンジョンを攻略できるようになったばかりなんだよ? 今まで以上にマッピングは重要になる」


「ゴチャゴチャとうるせぇ! コイツがあるからおまえは用済みなんだよ」



 バーバリックはそう言うと、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。



「それは前に攻略した古代遺跡で見つけた魔法の地図……」


「そうだ。持って歩くだけで自動的にダンジョンをマッピングしてくれる、マジで使えるアイテムさ。コイツさえあれば、イノ……おまえのようなお荷物はいらねぇんだよ!」


「お荷物……か。バーバリック、キミは私をそんな風に見ていたんだね」


「そりゃあそうだろう。おまえを雇ったとき、オレはまだ底辺にいた。金もなければコネもねぇ。だから仕方なく、てめぇみたいな無能の女を雇っていたのさ」



 バーバリックはそう言うと、魔法の地図、氷属性の魔力が宿ったマジックソード、聖なる加護が宿ったタリスマン、使っても減らない魔法の水筒をテーブルに並べた。



「それが見ろ! 今じゃあオレも無数のマジックアイテム持ちだ!」



 バーバリックは最後に、魔法防御効果のある青い甲冑を拳でドンと叩いた。

 まるで自分を大きく見せるように。



「冒険者ライセンスもゴールドになった。ダンジョン攻略が上手くいったのも、オレの【カリスマ】スキルのおかげだ。そうだろう?」



 パーティーメンバー全員の戦闘力を向上させるバフスキル【カリスマ】。

 それがバーバリックが生まれながらに持つ、ユニークスキルだ。


 ユニークスキルは神が人に与える恩恵とされ、個人差が大きい。

 経験を積めば覚えられる一般的なスキルとは違い、限定的かつ強力な効果をもつ。

 バーバリックの【カリスマ】がいい例だろう。


 彼自身の戦闘力も高く、パーティーの中で唯一【ソードマン】と呼ばれる上級職になった。

 実際、パーティーが大躍進したのもバーバリックのおかげだ。

 彼がいなければダンジョンに潜む強敵モンスターに勝てなかっただろう。


 それに比べて私は……。



「せめて戦闘に役立つスキルを持ってたら他に使い道はあったが……なんだっけ? イノ、おまえが持ってるユニークスキルの名前は?」


「【万歩計】……」


「ギャハハっ! それだそれ! 【万歩計】! 毎日の歩数がカウントされるんだっけか。そんなもん、クソを拭く役にも立たねぇ」


「モノは使いようだよ。歩数と歩幅を組み合わせて計算すればダンジョンの広さを把握できるんだ」


「はいはい。そういう小難しいのはいいから。言ったろ? 魔法の地図があるからおまえは用済みだって」



 バーバリックは野犬を追い払うように、しっしと手を振る。



「ま、これも時代の流れってやつ? 別に悪いとは思ってねぇよ。おまえも金で雇われた身だ。いつかこうなることはわかってただろ?」


「……そうだね。私にはマッピングと荷物持ち、それと囮役くらいしかやれることがなかったから」


「よくわかってんじゃん」



 モンスターのヘイトを集めて攻撃を防ぐ盾役なら、すでに優秀なメンバーがいる。

 ここ最近の私の仕事は、安全地帯に身を隠して様子をうかがうことだけだった。



「つーわけで今までご苦労さん。明日から来なくていいから。宿代も払ってねぇから、今のうちに荷物をまとめて出ていきな」


「そうさせてもらうよ」



 こんな真夜中に追い出すとは。たちの悪い嫌がらせだ。

 バーバリックの言動から察するに、追放の意思を変えるつもりはないだろう。

 他のメンバーを起こすのも忍びない。騒ぎになる前に村を出よう。



「おっと! 忘れ物だ」



 私が席を立ち上がると、バーバリックは床に数枚の羊皮紙をバラまいた。



「おまえが今まで書いてきたダンジョンの地図は返してやるよ。退職金代わりに持っていきな」


「……っ! なんてことを」



 私は慌てて床に膝をついて地図を拾い集める。

 そんな私をバーバリックは上から見下ろしていた。



「はぁ~、やだねぇ。これだから根暗なオタクちゃんは。地図のことになると目の色を変えやがる。そういうキモいところも無理だった。攻略済みのダンジョンマップなんて何の価値もねぇのによ」


「嫌われてると思ってたけど、そこまでだったとはね。生きている間は二度とキミの前には顔を出さないよ」


「ケッ! そういうスカしたところも大嫌いだったぜ。女はやっぱ色気と愛嬌がねぇとな! これで清々した。とっとと失せな!」



 バーバリックは哄笑を浮かべて私に背を向けた。


 別れ際に身ぐるみを剥がされなかっただけマシと思おう。

 私は手早く荷物をまとめると、拾った地図をバックパックに詰めて酒場を後にした。


※誤字脱字を修正しました(23/08/28)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 私は慌てて床に膝をついて地図を拾い集める。 そんな“俺”をバーバリックは上から見下ろしていた。 “俺”になってますよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ