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有彩色に染まる朝  作者: つむぎ
第2章 雛と学校
8/30

1.新たな日常

 長い入院生活を終え、僕たちは病院を退院した。病院を出たら車で迎えに来た親が待ってて感動の再会!?的なことは無く、電車やバスを乗り継いで自宅に帰ることになった。そして今、我が家の玄関の前に立っている。

 重い玄関の扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。


「ただいま」


 と言っても誰もいないんだけど。廊下や部屋は暗闇に包まれており、玄関付近のみがかろうじて目視できる程だ。


「お、おじゃましま~す」


 雛さんは廊下の奥やリビングの方をきょろきょろと見ながら、普段の半分以下の声量で言った。


「誰もいませんよ」


「お邪魔しまーすっ!!」


 今の時刻は正午過ぎ。両親は共働きなため、夜にならないと帰ってこないのだ。

 僕は雛さんと階段を上がり、ニ階の僕の部屋へと案内した。


「ここが僕の部屋です」


「へえー、ここがゆいとくんの部屋か。ほおー!」


「先に入っててください。お茶でも入れてきますね」


「はーい」


 雛さんは目をキラキラさせて僕の部屋に入っていった。ひとりにしても大丈夫だろうか...


 僕は一階へと降り、リビング兼台所の部屋に入った。入院前と何一つ変わってない。本当に帰ってきたんだな。


「ただいま」


 誰に言った訳でもなく、ただ何となく、この懐かしい光景にひとこと言いたくなったのだ。



 お茶を二人分入れ、自室へと戻った。


「雛さん、お茶入れてきましたよ」


「ゆいとくん、おかえり」


 なぜだろう。病室で雛さんと二人きりのときは何ともなかったのに。自室に女の子を連れ込んで、なんか悪いことをしているかのような気分だ。すごくドキドキする。


「とりあえず退院おめでとうですね」


「退院したのはゆいとくんでしょ」


 お茶の入ったプラスチック製のコップで乾杯をした。


「雛さん、僕の提案を受けてくれてありがとうございます」


「ううん、それはこちらこそだよ。あのまま病院に居ても、また独りぼっちの生活が待ってただけだった。ゆいとくん、私を病院から引っ張り出してくれてありがとうね」


「これからもよろしくお願いします」


「うん、よろしくね」


 雛さんは雛さんでこの決断に満足してくれているようだ。



「ゆいとくん、あれって制服?」


 雛さんが壁にかかっている制服を指さす。


「これですか。はい、僕の高校の制服です」


「かっこいい制服だね。学校っていつから行くの?」


「えっと確か明後日からだったと思います」


「ゆいとくん学校行くのか。いいなー」


 このとき病院で雛さんが学校について語っていたことが脳裏に浮かんだ。なら...


「雛さん、一緒に学校行ってみます?」


「え、いいの?」


「雛さん他の人から見えないんですし、僕と一緒に学校来ても大丈夫なんじゃないですか」


「やったー! ありがとう。持つべきものはやっぱりゆいとくんだ。そんな優しいゆいとくんには今度何でも一つお願いを聞いてあげよう」


 想像以上に喜んでくれたみたいだ。僕も雛さんとの学校生活が楽しみになってきたな。



 部屋で雛さんとゲームをして遊んでいると、下の階から扉が開く音がした。父か母が帰ってきたのだろう。


「お母さん帰ってきたんじゃない。私、挨拶しに行った方がいいかな?」


「そもそも雛さんは僕以外の人から見えないので話できないでしょ。あと仮に話せたとしてそれだけは絶対にやめてください。殺されます」


「どうして?」


「男子高校生の僕が家に女の子連れ込んで住まわせてるってかなりまずいじゃないですか」


「ゆいとくん、一応自覚はあったんだ」



 家族揃っての晩御飯を済ませ、自室へと戻った。ちなみに雛さんも僕の隣に座って晩御飯を楽しんでいた。僕のごはんやおかずの減りが異様に早かったのはなんでなんだろうなぁ...ほんと不思議だ。


「この部屋で私とゆいとくんが寝るのかー」


「雛さんの部屋は隣にありますよ」


「私はこの部屋でもいいよ」


 じゃあ一緒に寝ましょう!と言いたい気持ちをグッとこらえ...


「隣空き部屋なんで使ってください」


「えー、病室では同じ部屋で一緒に寝てたのに」


 また誤解を招くような言い方を。まあ間違いではないのだけど。


「隣に行ってください」


「そんな真顔で言わなくても。分かったよ、寝るときは隣行く」


 雛さんは不服な様子だった。


「そうだ、さっきのゲームの続きしよ。次は負けないよ」


「また綺麗に打ち負かせて見せます」


「ゆいとくん言うねー」


 ゲームコントローラーを手に取って、この後二人でゲームを楽しんだ。


 こうして入院生活のときとはまた違う、新たな日常を手に入れた。

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