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有彩色に染まる朝  作者: つむぎ
第1章 不思議な女の子
5/30

5.孤独の日

 雛さんがいなくなって2日が経つも、あれから雛さんが姿を現すことはなかった。次の日にはひょっこり帰ってくるだろうと事態を楽観視した僕が馬鹿だった。いや、せざるを得なかったのだ。

 長い夢でも見ていたのだろうか。だとしたら最高の夢だったな。雛さんとの入院生活は毎日が楽しくて、僕の世界は色づいて見えていた。雛さんがいない今、僕の世界はモノクロと化していた。


 部屋に籠っていても仕方がないので、病院内を散策することにした。目的はもちろん、あの日常を取り戻すことだ。


 適当に院内を歩いていると、こどもの広場が見えてきた。小学生くらいの子供数人が広場を走り回っている。こどもの広場の前で足を止め、あたりを見渡す。ふと目に留まったのは、宝探しイベントのときの段ボール製宝箱だった。あの宝箱は今では子供たちのおもちゃ入れとして再利用されているようだ。


「あら大浦さん。こんなところで何してるの?」


 この話し方は看護士さんだ。振り返るとお菓子の箱を両手で持った看護士さんがいた。


「こんにちは。暇なので散歩してます」


「そうですか。散歩はいいですけど、前のように外には出ないでくださいね」


 そう言って看護師さんはこどもの広場に足を進めた。


「みなさん、3時のおやつの時間ですよ」


 広場で遊んでいた子供たちがおもちゃを置き、一斉に看護師さんの周りに集まる。


「今日のおやつはなにー?」


「うめぇ棒ひとり3本ですよ」


 お菓子の箱の中を後ろから覗いてみると、大量のうめぇ棒が入っていた。それもあのカニカマ味が大半を占めている。恐らく宝探しイベントの景品の残り物だろう。


「えー。昨日のチョコクッキーがいい!」


「カニカマ味ばっかじゃん。これ不味いから嫌!」


 どうやら子供たちには不評のようだ。看護師さんは少し困った顔をしていた。


「今日はこれで我慢するけど、明日のおやつはプリンにしろよ!」


 口の悪い子供の一言から、子供たちはうめぇ棒を箱から取り始めた。


 これがこの病院の日常なのだろう。穏やかで暖かくて見ていて心地が良い。だが僕には何かが足りない気がした。



 ここに雛さんを感じない。



 そういえば屋上で雛さんと一緒に作った雪だるまはどうなったのだろうか。この数日間、ずっと晴れ続きだった。さすがに溶けてるか。いや、でももしかしたら。


 次の目的地を屋上に決定した。看護師さんの注意は...よし、聞かなかったことにしよう。


 屋上の扉の前まで足を進めた。扉を開けると雪が積もって辺り一面白銀の世界が広がっている。あの日と同じだ。


 僕はまず雪だるまのユキくんとだるまちゃんを探した。


「確かこの辺りに」


 雪だるまを置いた場所は、雪が積もって山のようになっていた。僕は雪をかき分けて雪だるまを探す。

 真っ白な山の中から星型のオレンジ色の物体が顔を出した。その辺りを更にかき分ける。するとボタンが2つ、小さな石が複数個現れた。間違いない。雛さんが作っただるまちゃんだ。形も一切崩れていない。だるまちゃんの隣には僕の作ったユキくんの姿もあった。こっちも以前の状態のままだった。


「よかった…」


 雪だるまの存在を確認でき、安堵の息をつく。

 

 屋上の他の場所も散策してみることにした。少し歩いていると、前方のベンチに座っている2人のおばさんの会話が耳に入ってくる。


「今日不思議なことが起こったのよ」


「何? また幽霊でも見たの?」


「見てはないけど、もしかしたら幽霊の仕業かもしれないわ」


「今日の朝食に使うはずだった星型の人参が全て無くなってたのよ。急だったもんだから大変だったわ」


「それが幽霊の仕業だったら変わった幽霊も居たもんだね」


 この人たち見覚えがある。確か調理のおばさんたちだ。つい変わった話をしていたものだから、止まって耳を傾けてしまった。


 僕は気になる気持ちをグッと押しとどめ、止まった足を再び前へと進めた。


「まさかそんな幽霊がいるわけ」


 ぶらぶらと歩いていると、用具倉庫の隣に不思議な光景があった。雪だるまが10個ほど並べて作られていたのだ。


 用具倉庫の隣を覗いてみた。


 いた。犯人が。幽霊じゃないけど、犯人であろう人物がそこにいた。

 大量の星型の人参が入ったボウル。見覚えのある女性の後ろ姿。そして鼻が星型の人参で作られた雪だるまのだるまちゃん。



 雛さんだ。

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