3.憧れの世界
入院生活も今日で1週間が経過した。もうそんなに経ったのか、というのが正直な感想だ。雛さんと一緒の日々は毎日が彩に満ちていて退屈しない。本来苦でしかない入院生活がこんなにも楽しいと思えている。雛さんにはほんと、感謝しかないな。
長〜い検査が終わって部屋に戻ると、ベッドの上に大きな紙袋とメモ用紙が置かれていた。
なんだこれ?
「雛さん、これ何か知ってます?」
カーテンから雛さんが顔をだした。
「あ〜、さっき2人組の男の子が来て、その袋を置いて行ったよ」
「2人組の男の子?」
「えっとね、1人は青のチェック柄の服にピンクの眼鏡だった。もう1人は、何かのキャラクターのTシャツを着てたよ」
あ、わかった。あいつらだ!
「そいつら、多分僕の友達です」
「そうだったんだ。優しい友達だね」
どうやら友達がお見舞いに来てくれていたみたいだ。来るなら来るって連絡くれればいいのに。
紙袋の横に置かれているメモ用紙を開けた。
『LINE見ろ!!!!!!!!』
スマホを開けると、あいつらからすごい数のメッセージが来ていた。
......ごめん!
心の中であいつらに謝った。後でしっかり謝っておこう。
僕にはメールやLINEの通知を溜め込む癖があり、アイコンの右上に表示される通知数が常に3桁程になっている。その為、誰かからLINEが来ても気づかず、丸1日返信しないなんてこともざらにあるのだ。
紙袋の中を確認すると、今にも溢れんばかりの大量のお菓子が入っていた。って、こんなに食えるか!!
よし、後で雛さんに分けてあげよう。これで解決だ。
「あの2人って学校の友達?」
「そうですよ」
「いいな、学校か〜」
「学校ってそんなにいいですか? というか、雛さんも学校行ってたでしょ?」
雛さんの表情が少し曇った気がした。
「ううん、私、学校に行ったことないよ。小さい頃からずっと入院してて、病院の外に出たことがないの」
そうだったんだ......
僕は衝撃の告白に返す言葉が思い浮かばず、うなずきだけを返した。
「だから学校とか友達とかって憧れるの。夢なんだ、病院の外の世界って」
雛さんは窓の外のどこか遠いところを眺めながらそう言った。
「いつか一緒に行きましょう。僕が退院して、雛さんも退院したら」
「うん。退院したら......ね」
雛さんは浮かない顔をしていた。
「はい、この話はもうおしまい! そうだ、その紙袋の中って何が入ってたの?」
「え、ああ、大量のお菓子が入ってました」
ベッド横に置いていた紙袋を雛さんの手元に置いた。雛さんは紙袋の中を覗き込む。
「うわぁ、ほんとだ。お菓子がいっぱいだね」
「雛さんってお菓子食べます? よければ半分貰ってくれませんか?」
「え、いいの? やったー!!」
雛さんは子供のように喜んでいた。
「お菓子かー、最後に食べたのいつだったかな。病気で食べちゃダメ!って言われてたから、ずっと食べさせてもらえなかったんだ」
「今は食べて大丈夫なんですか?」
「今はそんなの気にしなくて大丈夫だよ」
紙袋からお菓子を半分程取り出し、雛さんに手渡した。
「ゆいとくん、ありがとう。これで楽しい楽しい入院生活が送れそうだよ!」
「お菓子のパワー凄いですね」
喜んでもらえたなら何よりだ。
コンコンと扉をノックする音が部屋に響く。もうあの時間か。
「大浦さん、準備できてますか?」
いつもの如く、看護師さんが僕を迎えに来た。
「はい、すぐに行きます」
僕は必要な書類や小物等を急いでまとめ、両手に抱える。
「雛さん、検査行ってきますね」
「うん、いってらっしゃい」
僕は部屋を出て、看護師さんのもとへと向かった。
「すみません、遅くなりました」
看護師さんがまた不思議そうな顔をしていた。
「あの、大浦さん」
「はい?」
「いつも部屋で誰と話しているのですか?」