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有彩色に染まる朝  作者: つむぎ
第2章 雛と学校
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8.あなたと一緒なら

 アナログ時計が時を刻む音が部屋に響く。雛さんの一言によって部屋が静寂に包まれた。


 衝撃の発言により僕の思考が停止する。


「え、それってどういう」


「急に変なこと言ってごめんね。なんかね、私、最近変なんだ」


 雛さんはベッドから立ち上がり、部屋のカーテンを開けて部屋に陽光を入れる。光の領域が部屋を覆い、闇の領域が退いていく。


「ゆいとくんはこんな変な私を暖かく受け入れてくれた唯一の存在。私に存在する意味を与えてくれた人。ゆいとくんは私にとって太陽のような存在」


 そこまで言われるとちょっと照れるな。

 だが雛さんの真剣な表情からそんな感情は瞬く間に消え去る。


「でも最近おかしいんだ。ひとりでいる時間が増えるほど、黒い何かが私を覆いつくしていく」


 雛さんの温和な雰囲気が陰鬱へと移り変わったのが見て取れる。


「私はゆいとくんが大好き。優しくて、純粋で、友達思いで、そんなゆいとくんが私は好き。でも…ゆいとくんはどうなんだろう。私、邪魔な存在じゃないかな? 必要とされてるのかな? 一緒に居てもいいのかな?」


「私、それが心配で仕方がないんだ」


 太陽が雲に隠され、部屋の光の領域を闇の領域が覆い尽くす。


「雛さんが一緒にいてくれるだけで僕の世界は無彩色から有彩色へと変貌しました。僕は今の日々がとても楽しい、これは雛さんのおかげなんです。最近は試験や友達との付き合いであまり一緒に過ごせてなかったですけど、僕は雛さんと一緒に過ごす時間が楽しくて、心地よくて大好きです」


「僕も雛さんが大好きです! 僕には雛さんが必要なんです!だから邪魔な存在だとか、必要とされてないだとか言わないで下さい!」


「そっか、そうなんだね。うん、ありがと。その言葉が聞けただけで大満足だよ」


 太陽が再び顔を出し、部屋の闇の領域を光の領域へと上書きする。


 雛さんにいつもの和やかな雰囲気が戻った気がした。


「雛さん、今日は一緒にどこか出かけませんか?」


「今日って学校じゃないの?」


「今日くらいサボってもいいじゃないですか」


「それもそうだね」

 


 自宅から数十分歩いた所に森林公園がある。溶け残った雪に柔らかい日の光が差し込み、石張りの散歩道がキラキラと光を放つ。木々や植物が集まるところには霜柱が一面に立っており、なんとも幻想的な空間がそこには広がっていた。


「ゆいとくん、ここ歩くとバリバリ鳴って気持ちいいよ!」


 雛さんは霜柱を見てはしゃいでいる様子だった。


「何してるんですか、早くしないとおいていきますよ」


「ゆいとくん酷い! ちょっと待ってよー」


 僕たちは草木に囲まれた散歩道の先へと歩を進める。景色は凍えるように寒いが、歩くと日が出ていて案外暖かい。


 足並みを揃えて歩くこと数十分、散歩道の終点に辿り着いた。正面には大きな池があり、その奥には森林が広がっている。今の時期になるとよく池が凍結する。普段は池を泳いでいるカルガモも、今は凍った池の上を歩いていた。


「この景色、綺麗だね。寒いけど、そんなのどうでも良くなっちゃうくらい」


「あとカルガモさんがテクテク歩いてるの可愛いね」


「今日の晩御飯は鴨鍋かな...」


「ゆ、ゆいとくん!? だめだよ、あんなにかわいいのに。考え直そうよ!」


「冗談ですよ」


 冗談を真に受ける雛さんがなんとも可愛いらしい。


 僕は近くのベンチに腰を掛け、真っ青な冬空を見上げる。


「雛さんがいなかった一日、実は僕も結構寂しかったです」


 いきなり話し始めた僕に雛さんが驚いていた。


「その日だけは世界がモノクロに変貌したかのような感覚に見舞われました。やっぱり僕には雛さんが必要だ、以前の生活には戻れない、そう強く感じました」


 雛さんは優しい表情で僕を見つめている。


「寂しかったのは雛さんだけじゃないんです。僕もなんです」


「ゆいとくん...」


「だから、だからこれからも僕と末永く一緒にいてください」


「はい、喜んで」


 一寸の時間も経たぬ間に雛さんは返事をした。


 僕と雛さんは互いに手を取り合い、優しく抱き合った。抱き際にほのかに香ったシャンプーの匂いをこの先忘れることは無いだろう。


「今の告白みたいだね」


「ち、違いますよ。てか雛さん、今朝僕のこと大好きって言ってませんでしたか」


「うん、私は大好きだよ。そんなこと言ってゆいとくんも言ってたじゃん」


「あれはですね...」


 会話の内容に恥ずかしさを覚え、僕と雛さんはしばらく黙り込んだ。


 僕と雛さんは手をつないで、真っ青な冬空を見上げた。


「いつか、そんな関係になれる日が来るんでしょうか」


「そうだね、私が普通の人間(・・・・・)にでもなればそんな関係もあり得るかもね」



 広い冬空の下、森林に囲まれた自然あふれる場所にて、ひとりの少女の未来をこいねがうひとりの少年が存在した。そしてそこには、自身の未来を希う少女も存在した。



ー第2章 完ー

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