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有彩色に染まる朝  作者: つむぎ
第2章 雛と学校
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7-2.唯一の存在(雛視点-第2章-)

 私たちは病院を退院し、ゆいとくんの家での暮らしが始まった。それと同時に私とゆいとくんの学校生活も始まった。どちらも病院では味わえなかった新鮮な体験ばかりで、私は毎日心を躍らせている。


 ある日、ゆいとくんが友達との勉強会に参加することになった。ゆいとくんに私も誘われたけど、さすがに友達同士の輪に入っていくわけにはいかない。なので惜しいが誘いを断った。


 その日は一人でゆいとくん宅に帰ることになった。後ろに誰もいなくて嫌に軽い自転車、友達同士で帰る生徒達等、帰り道の要素全てが私に寂しさを感じさせる。


 家に着いて玄関の扉を開けた。


「ただいま…」


 居間や廊下は閑散としている。普段過ごしている家とは思えない空間だった。ゆっくりと階段を上って自室へと入る。


 この家ってこんなに静かくて冷たい場所だったっけ?

 そっか、いつもはゆいとくんが一緒にいるんだったね。


 ゆいとくんがいない時間がこれほどまでに寂しくて辛いものだとは思わなかった。まあでも、今日だけの辛抱! 気長に待とう。


 自室だと気が暗くなってしまう。ゆいとくんの部屋で前にやったゲームでもして気分を晴らそう。


 時間は夜の八時半頃。家の外から誰かの話し声が聞こえてくる。窓から顔を出して声のする方へと顔を向けると、そこには見慣れた顔があった。

 私はすかさず手を振った。私に気づいたゆいとくんも手を振り返す。


 よかった、やっとゆいとくん帰ってきてくれた。


 ゆいとくんに勉強会での出来事を尋ねてみた。どうやら勉強会なのに肝心の勉強をあまりしていないようだ。ここはお姉さんとしてゆいとくんに勉強を教えてあげよう。

 そんなこんなで私はゆいとくんに勉強を教えることになった。ゆいとくんは真面目に聞いて飲み込みが早くてどんどんと成長していく。本当に教えがいがあるってものだ。


 こんなゆいとくんとの何気ない時間がずっと続けばいいのに。

 今のこのお家は暖かいな。



 翌日、学校の授業を全て終えて放課後を迎えた。今日もゆいとくんは勉強会に参加するみたいだ。私は今日も一人で帰ることになった。ゆいとくんの友達の言う話によると、これからテストまでの間の毎日勉強会を開くそうだ。


 これから毎日一人で帰らないとなんだ…これから寂しくなるな。


 今日もゆいとくんの部屋に行き、ゲームをして帰りを待つ。夜の八時半頃になるとまた外から話し声が聞こえてくる。


 ゆいとくんが部屋に帰ってきた。今日も勉強会の出来事について尋ねてみる。そしたら案の定、あまり勉強をできていないようだった。昨日に続き、夜の勉強会を開催することにした。



 ここ最近、ゆいとくんとの時間が少なくなっている気がする。ゆいとくんは学校では友達と連んでいることが多く、ほとんど話せていない。人がいる前でゆいとくんに話しかけてしまうと、私の物理的な性質上迷惑がかかる。その為、私からの会話はなるべく自粛している。

 でも…学校でひとりぼっちみたいになるのはやっぱり寂しい。誰かと話したい。私も普通(・・)の学校生活を送ってみたい。最近はそんな感情がいつもに増して溢れ出すようになった。


 定期試験までは放課後も友達との勉強会でどこかへ行ってしまう。家に帰ってくるのは大体夜の八時半頃だ。


 これ以上、ゆいとくんとの時間が減ってしまうのは嫌だ。



 ある日の授業中、私は横からゆいとくんの肩をつついて話しかけた。話の内容が他愛ないものだったせいか、ゆいとくんは私を物珍しそうに見る。だけどゆいとくんは嫌な顔ひとつせず、むしろ話に食いついてきた。


 久しぶりに学校でゆいとくんと話せたな。やっぱり私はこの時間が一番好き。


 話が盛り上がって会話が白熱する。授業中であることを忘れ、ゆいとくんの声量が徐々に上がっていく。

 突如、教室前方から大きな怒鳴り声がした。


「おい大浦。お前ひとりで何こそこそ言ってんだ。うるさくするなら出ていけ」


 ゆいとくんが先生に怒られてしまった。

 私のせいだ。私が話しかけてしまったからゆいとくんが怒られてしまった。罪悪感に押しつぶされそうになる。


 この出来事以降、授業中に私からゆいとくんに話しかけることは無くなった。



 定期試験初日の夜、ゆいとくん自ら勉強を教えて欲しいと私に頼んできた。いつものように夜の勉強会を開く。部屋にはシャーペンを走らせる音のみが響いている。ゆいとくんは相変わらずの集中力で、私の教えたことを全て吸収していく。


 明日で定期試験は終わり。ということはこの勉強会も今日で最後になる。なんだか少し寂しくなるな。


「勉強会、これで最後だね」


 ゆいとくんはシャーペンを走らせる手を止めなかった。


「ゆいとくんは明日のこの時間、なにか予定あるの?」


 シャーペンを走らせる手を止め、私の方へと顔を向ける。


「明日はテストお疲れ様ってことであいつらと久々にゲーセンに行ってきます。もしかしたらかなり帰るの遅いかもです」


「そっか」


 明日の今頃は、また独りぼっちなんだ。



 一人きりで過ごしている時、私はあることが頭に浮かんだ。私の存在って意味があるものなのだろうか。私の存在はゆいとくん以外の人間から認識されない。ゆいとくんが一緒にいてくれるから私は私の存在に価値を見出せる。そう、ゆいとくんがいてくれるから。だけど逆はどうなのだろう。ゆいとくんにとって私は必要な存在なのだろうか。邪魔な存在だと思われていないだろうか。


 ひとりでいる時間が長ければ長いほどこのような不安が私に押し寄せ、私を負のどん底へと沈めてゆく。

 

 ゆいとくん、早く帰ってきて。


 ......はぁ...


 私は重いため息をついた。


 私の居場所って、どこにあるのだろう。



 カーテンの隙間から漏れ出す白い光と外で鳴くスズメの声から今の時間を把握する。


 もうそんな時間なんだ。


 私はベッドから体を起こし、床に足をつけてベッドに腰掛ける。


 廊下から誰かの足音が聞こえてくる。その足音は私の部屋の扉の前で消えた。ゆっくりと扉が開く。


「雛さーん、もう朝ですよ」


 ゆいとくんだ。どうやら私を起こしに来てくれたみたいだ。

 朝の挨拶と軽い会話を交わし、ゆいとくんは学校の準備をしに自室へと戻っていく。


 今日も学校か。学校に行っても私の居場所は...。

 部屋から出ようとするゆいとくんを引き留め、私はあることを伝えた。


「ゆいとくん。私、学校行くのやめとく」


 ゆいとくんは今日も放課後に友達とゲームセンターに寄って帰るそうだ。



 日が陰り始める頃、玄関の開く音が廊下に響いた。誰だ、まあ誰でもいいか。ゆいとくんではないことは分かっている。私は目を閉じて暗闇の世界へと戻っていった。


 コンコンとドアをノックする音が部屋に響く。


「雛さん、僕です。今帰りました」


 ゆいとくんだ。

 なんで? 今日は遅くなるんじゃなかったの?


 ベッドから起き上がり、声のする方へと歩みを進める。ドアの前で立ち止まり、ゆっくりとドアを開けた。


「ゆいとくんか、おかえり。今日は随分と早かったね」


 どうやら今日はゲームセンターへの寄り道は無かったようだ。久々にこんな時間から二人きりになれた。


 ゆいとくんの提案で久々に一緒にゲームをすることになった。やはりゆいとくんと一緒に過ごす時間は楽しい。この時間だけは私の中の暗闇を全て吹き飛ばしてくれる。


 ゲームを始めて小一時間程経った頃、廊下にインターホンの音が鳴り響いた。ゆいとくんは玄関に向かい、扉を開けて誰かと話している。私も階段の上からそっと玄関前を覗く。そこにはゆいとくんの友達の二人が立っていた。

 しばらくしてから友達のひとりの神原君が玄関に入り込んで階段を駆け上がってきた。私はあわてて自室に身を隠す。

 その後、ゆいとくんともうひとりの友達が部屋に入っていった。


 私は大体の事情を察し、自室から出ることなく今日という一日を終えた。

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