第98話 親善大使
俺はゆるやかな日常を平和に過ごしていたわけだがある日呼ばれたわけよ。
龍帝陛下に。
「貴様には半年後に海外に行ってもらう」
まぁ~このおっさんはいつも唐突だわ。
「海外、ですか?」
「うむ、四条」
「はっ陛下」
ピシっとスーツを着こなした姿勢の良い片眼鏡のダンディな人が前に出てきて龍帝に一礼し、俺に挨拶する。
「二の丸様、私、時乃四条実美侯爵であります。外交省の副大臣をしております。お見知りおきを」
「はい、よろしくお願いします」
さて、この侯爵さんが長々と分厚い資料を元に説明してくれた話をしよう。
◇◇◇
龍帝国は数百年前に突然外交熱が高まった次期がある。
ブラウ大陸内では他の国とはそこそこの付き合いがあるのだが、その付き合いの幅を海外に求めたのだ。
どうも龍帝に航海好きがいたらしい。
海竜を従え船団を作り、あちこちに使節団を送ったり自身も出向いたりしたが結果はあまり良いものではなく、中には戦争寸前までいった国もあったらしい。
帝国としては侵略が目的ではなく、あくまで友好的に物資や人的な交流をしたかっただけなので結局、険悪な関係になってしまった国とはことごく縁を切ったり、切られたりした。
……まぁ、突然海の向こうから 海竜を引き連れてきて ~龍の国から来ました。外交しましょう~ などと言われても怖いだけだよな、と俺も思う。
歴史で習っただけだが日本だって幕末時開国までは一筋縄ではなかったと記憶している。
ところがだ、なんと付き合っても良い、という奇特な国が一つだけあった。
それがエルドビー共和国だ。
エルフ、ドワーフ、獣人、その他少数の亜人の国やら集落やらが集まった国、というより連邦的な存在だ。
代表は持ち回りでどれかの人種が固定して長年収まるようにはなってないらしい。
このエルドビー共和国の西方向隣に鬼族の国がある。
これは強大な国でちょくちょく周辺国に悪さをするらしい。
それはもともとバラバラに暮らしてた種族が一致団結して共和国を作ってしまうくらいに悩ましい問題だったらしい。
でだ、そんな悪さが普段よりちょっと度が過ぎるくらいの悪さをしている時にちょうど、帝国の龍帝を加えた使節団がこの共和国に訪問中であっさり鬼軍団を撃退してしまった。
それはそれはもう感謝されたらしい。
その後はとんとん拍子に交渉は進んだ。
通商条約はもちろん、人的交流などなど、だ。
特筆すべきはなんと共和国、西側領地を御譲りするので是非そこを植民地として使って欲しい、と懇願された点だ。
領地をあげます。
なんなら資金も援助します。
もちろん労働力も提供します。
だから住んで下さい、お願いします。
なんなら植民地軍を置いてくださったらどうだろう?
もちろんその為の協力も惜しみません。
だから鬼が来たらあなた方の戦力で追い払ってね。
と言うことらしい。
毒を持って毒を制すみたいな?
なんだか虫のいい話だが時の龍帝はあっさり了承した。
そこから植民事業、及び植民地軍の設立となったが、これが一筋縄では行かなかった。
提供して貰った土地はもともと人が生活しておらず、ただの荒れ地だから行きたがる人がいない。
魅力的な場所はもう当然ながら現地人が占領している。
なのでとりあず移住計画は保留することとした。
次に現地軍なのだがこれも設立するにあたり、移住計画以上に困難を極めた。
まず共和国周辺の国の大反対にあった。
そんな恐ろしい軍隊を駐留させるならもう共和国とは取引をしない、などの反発を受けたからだ。
周辺国としてはただでさえ迷惑でやっかいな鬼の国があるのにさらに龍の国から軍隊が来るなどもっての他、ということらしい。
皮肉なことに帝国軍が鬼の軍をあっさり撃退してしまったことが逆に周辺国に恐怖をもたらしてしまった。
だが共和国としても龍の帝国に約束してしまった以上、今更反故にも出来ない。
そこで審議を重ねに重ねて、妥協に妥協した案が『中型以上の竜を持ち込まない。龍人が十人を超えない軍隊』というものだった。
その他にも色々と制約を受けた。
龍帝国はこれを渋々了承。
帝国はこの共和国用に新たにほぼ亜人で編成された三個軍団を作り、二個軍団を駐留させ、三年ごとに一個軍団を交代しながら共和国に駐留することとなった。
共和国も交代時期を周辺国に公表し、心配なら交代するところを監視しても良い、と宣言したが、やはり龍の帝国が恐ろしいのだろう。
監視団が編成されてきたことは今まで一度もない。
そんなわけで共和国との付き合いは二百年以上に及ぶ、親密なものになった。
通商船団や駐留軍が行き来するなかでぼつぼつ帝国人の中にも共和国に住んでもいいかな、という者も現れ、帝国もそれに対し、補助金などを出すなどし、今では領地にはいくつか町や村が出来、それなりに植民地らしくなってきている。
貿易に関してはドワーフが作る工芸品や武器、エルフの作る自然素材の物や薬剤、獣人族などの栽培する作物など、意外と多岐に渡る。
こちらからはお得意の竜素材や加工品だ。
人的交流は向こうからも時々親善の使節団などが来るらしいし、逆に帝国に移住する者も少なくはない、ということだ。
「実は共和国にエルダール地方という大森林がございまして、そこの高貴なるエルフのお方が龍之宮学園にご留学されましてな、そのとき陛下に見初められてご側室になられた、という逸話もございます」
「はぁ、そうだったんですね」
「ん、ん! 昔のことだ」
「そんなことはございませんよ陛下、大事なことです。それでその時お生まれになった長女の方が帝国貴族に嫁がれまして、その後お生まれになった長男の方が現在のエルドビー共和国の代表となられております」
「と、言うことは……」
「二の丸様の義理の兄君、ということになりますな」
「確か、エルフのご側室はお子が巣立ったからお城を出てどこぞの森でスローライフ中と伺いましたが……」
「スローライフ? はわかりませんが故郷のエルダールの森にお戻りになったと聞いております。実はそのご側室がエルダールにお戻りになったからご長男が共和国の代表をお引き受けになった、とも伺っております」
「アイツはまだ乳離れができておらんだけだ!」
……マザコン……なのかな?
「はぁ、なんだかこんがらがってきますね」
「ですが大事なことですのでお忘れなきよう、お願いします」
それで今年帝国軍の入れ替えがあるから一緒に同行して共和国内の帝国領地、帝国軍を視察、ついでに共和国内もよくよく親善大使として視察してこい。
期限は一年とする。
まぁこれが辞令である。
ちょっと楽しみなわけよ、海外旅行。
◇◇◇
ということで俺の関係者を二の丸の五十畳敷きに集めた。
「え~連れて行く人選は任された。もし同行したい、という希望者があればウチの侍従長に言ってくれ」
皆がザワザワする中、スイが挙手をする。
「それは希望者は全員連れて行ってもらえるのですか?」
「それはわからんな、船で行くわけだし、ある程度制限はされるだろうな。一応上限を確認してみて希望者が多かったらこちらで厳選するしかないな」
またザワザワする。
まぁ突然のことだしな。
「じゃ、良く考えておいてくれ、解散」
解散を宣言したが、すぐ退室する者もいれば雑談に興じる者もいるなかで俺の両足に纏わりついてくる者がいる。
「お父様、エリーは連れて行ってくださいますよね」
「お父様、サリーは当然お供しますわ」
「お前たちは学校があるだろう、ダメだ」
「異世界の君! ごめんなさいですよ! エリー! サリー! あなた達のお父様は三条家にいるでしょ! ちゃんと二の丸様とお呼びくださいよ!」
「でもお母さま」
「お父様はお父様ですし」
「ほらほら、こっちへ行くです! 異世界の君! 失礼しますよ!」
いやでもお母さまも異世界の君と……私はいいのですよ! ……とやり取りしつつマリーが双子を連れ去った。彼女もすっかり母親だな。
◇◇◇
「お疲れですね」
「いや、ちょっと楽しみだよ、お前やレイリのお兄さんにも会えるしな」
俺はその後レイラの部屋でくつろぎながら視察の話をした。
「私はお会いしたことがないんですよ、そう言えば」
「そうなのか?」
「ええ、異母兄があちらへお渡りになったのは私が生まれる前でしたしね」
「ふ~ん」
「幼い頃、異母姉にもお会いしたことがあるそうですがあまり記憶にもないんですよね」
「そうなんだ?」
「それで今回のご視察の件ですが、私もお供します」
「うん……えっ?」
「私は向こうからいらした親善大使や視察団の方たちともご挨拶させて頂いたこともございますし、なにかとお役にたてるかと思います」
「でも……しかし」
正直、鬼の軍団がすぐ隣にいる様な外国に奥さんを連れて行きたくはない。
……例え奥さんの方が俺よりお強いだろうが、だ。
「親善のご視察に訪れるのでしょう? 夫婦で訪れた方が向こうも微笑ましく思われるでしょうし、余計な緊張感を産むこともないでしょう」
「う~~ん」
「いいですか? 二の丸様としての大きな公務はきっとこれが最後、となるでしょう」
「どういうことだ?」
「父は引退するつもりだ、ということです」
「……それってつまり……」
「うふふ、いよいよあなたが龍帝になられる、ということですね」
うわっ、ついにそれがきちゃうのか……。
……やだな。
今回はいよいよ物語が動き……だそうとして……いるのか?
架空のウソ歴史を妄想してる時がメチャクチャ楽しいです。
そして龍一は親善大使を全うして龍帝になることができるのか!?
さらに不動のレイラがついに動くとは、この作者の目を持ってしても見抜けなかったわっ!
龍帝の側室エルフの長女も色々設定を練り込んだんですが本筋にはあまり関わらないのでちょこっと後書きに載せておきます。
◇◇◇
龍之宮・エル・ファリーナ
ドラゴニア女学園 卒業
母の影響で森林をこよなく愛する。
少しだがエルフの精霊術も持ってるが行使することはできず、精霊を認識するだけ。
母親に似て美しく、聡明ではあるのだが、龍紋は一つしかなく、龍体にも真体にもなれない龍人としては落ちこぼれ。
そのため皇族であるにも関わらず貴族たちには見向きもされない存在で縁談の一つもなかった。
が、とあることをきっかけに辺境の小さな領地を持つ男爵に見初められてそこへ嫁ぐことになる。
平凡な男性ではあったが決め手になったのは男爵の領地に奥深い、エルフ的にいい感じの森があったことらしい。
龍帝や皇室に大反対された(身分が合わない)がその時行き詰っていた、ある政策を男爵が解決してみせて無理やり婚姻の了承を取り付け、二人は一緒になった。
(男爵が解決したように見せたがもちろん裏でファリーナが画策したことだった)
現在、子供たちは家を出て北生龍市の学校に通っていて本人は森の中に小さな別荘を建ててもらい静かに暮らしている。




