第85話 秘書増員申請書
俺にはお側衆と言う三人のちゃらけた連中がいる。
一応俺のボディーガード兼、相談役兼、雑用兼etc……な役だがぶっちゃけ”何でも屋”だ。
本職のボディガードは近衛から三名来ていて彼らの部下も数十名単位でいるらしい。
で、そのお側衆、通称”オカッパ小隊”だが今の俺のお側衆は三人だけじゃない。
数年前、正確にはシノエが後宮入りしてから次の年くらいだったろうか、その日俺は執務室で仕事中だったんだが、休日で休みだったはずのオカッパこと篠田マナ中尉が(こいつは一応軍より出向中という立場なので階級はそのままだ)扉を勢い良く開け、意気揚々と入ってきた。
「オカッパ、入る時はノックくらいしろっていつも言ってるだろ」
「スマンスマン、二の丸様、そんなことより実はな、急ぎ聞いて欲しいことがあるのだ!」
「なんだ、ついに結婚でもするのか?」
「バカを言え、そんな相手がいるか! 二の丸様が責任取って私の面倒を見ろ! むしろ側室にしてくれ!」
「アホか! なんだっけ? 近衛の、俺付きの」
俺は横で書類整理を手伝ってもらってるいるサムライに話をむける。
「剣下条中尉でござるな?」
「そうそう、その中尉さんと仲がいいって話はどうした?」
「ムキー! その話はするな! あっちにはちゃんとした婚約者がいたって話たろ!」
「え? そうだったの?」
「あ~、二の丸様には言ってなかってでござるかな?」
「あんまり可哀そうだったからねぇ」
クロダも相槌をうつ。
まぁまぁいつもの三バカな話だ。
俺を含めて四バカだな。
「そんな話はどぉ~でもいぃ~~!!」
ついにオカッパが大声で叫んだ。
「うるさいな、一体なんの用だよ、お前今日休みだろ? 帰って酒でも飲んでろよ」
「人を酒乱みたいに言うな! とりあえずこれが書類、おい! 入ってこい!」
オカッパが雑に書類を俺の机に放りだし、扉の外へ声をかける。
俺はその放り出された書類に目を通す。
「え~なになに、『二の丸様 秘書増員申請書』?」
俺が書類の題字の意味を読み込めないでいるうちにぞろぞろと男女十名ほどが執務室に入ってきた。
うち何名かは龍都防衛軍の制服を着ている。
「知ってるか? 二の丸様、一応我々は公式には二の丸様の秘書扱いになっているんだ。はっきり言って激務だ。大変だ。それでな、数年前からその申請書をな、出してるんだが却下されては書き直し申請し直して、却下されては書き直して申請してを繰り返し、やっと、やっと今日元老院に認められた、て訳だ!」
「な、長かったでござるなぁ~……」
「そうそう、提出受付期限に間に合わせるため、何度徹夜したことか……」
「やっとこれで僕らも楽になれるねぇ~」
三バカがしみじみしてやがる。
「いやいや、待て待て、聞いてないぞ、こんなの!」
「人手が増えていいだろ? 私らも休みができて万々歳だ」
「ちょっとぉ~、龍乃影くぅ~ん、君、知ってたでしょ?」
俺は自分のナナメ前の机で仕事中の侍従長に話を振る。
「はぁ、一応私は彼らの上司なので……」
と彼はポカ~ンとした表情で答える。
「ちょっと、庄司君? 教えてくれなきゃ困るよ?」
龍乃影君はハっとした表情をするが動揺を隠せずに言う。
「あ、いや、すみません、二の丸様。確かにその申請書も存じておりますし、目を通して判を押しましたが、まさか……通るとは思わず、お耳に入れることではないかと……いや、まさかこんな申請が通るとは、驚きです」
俺は申請書をパラパラとめくり、認可の判を確認する。
二の丸人事部だの本丸人事部だの皇室本部人事部だのの認可印の一番最初に二ノ丸秘書課の認可印が押されている。
勿論最後は元老院の印だ。
「ホラ! 各自自己紹介しろ!」
オカッパが俺がとまどっている間に勝手に事を進める。
「ハッ! 二の丸様、お初にお目にかかります! 自分は龍都防衛大隊所属! 空中偵察班 坂井レナ軍曹であります!」
「同じく空中偵察班 野宮アキ曹長であります! 末永くよろしくお願いします!」
キリっとした小柄な美人二人が直立不動で自己紹介する。
声がデカイよ。
「この二人はな、部署は違うが私の後輩でな、龍都防衛大隊でも偵察班にだけ許された飛竜乗りで腕は確かだ。美人で気立てもいいし、側室にもちょうどいい」
「オカッパ、申しわけありませんが新たな側室は募集しておりません……」
「そうか、そっちも申請しておくか?」
「あのなぁ~」
「先輩! 話が違うっす!」
俺が呆れていると小柄美人が血相を変えて叫んだ。
「そうです! 異世界の君の側室になれるかもしれないって言うから引き受けたのに!」
「なれるかもしれない、て言ったろ? それはなれないかもしれないも含む」
「そんなぁ~」
「ひどいっす! 騙したっすね!」
「まぁ落ち着け二人とも、簡単に諦めるな、お側にいたらチャンスがあるかもしれない。機会は自分で掴むものだ! それにな、二の丸様は女にだらしない! がんばれ!」
「そうですね、先輩! 自分頑張ります!」
「自分も口説くっす! 口説きまくるっす!」
あ、頭が痛い……
「ははは、その調子だ、ホラ、次!」
「自分は龍都防衛軍 情報部 鏑木浩二少尉であります」
こいつはインテリちっくな細めがねだな。
「自分は龍都防衛師団! 第三歩兵中隊 河野慎太郎軍曹であります!」
あ~見るからにガチムチ。
ランゼの部下にいそうだな。
「彼等も私の後輩でな、なにかと役にたつぞ!」
「ハっ! 篠田中尉! お呼び頂き、光栄であります!」
「この筋肉ダルマは替えはが効くが特にな、こっちの鏑木少尉は優秀で引き抜くのに苦労したぞ」
「先輩! ひどいっす!」
「うるさい黙れ」
「……っス」
「あ~次の者どもは拙者が声を掛けた者どものでござって、実は実家の道場の門下で……」
もそもそとサムライがやる気なさそうにオカッパの後を引き継ぐ。
こちらもゴツイ体つきの刀を腰に下げた羽織袴の男どもが声を張り上げる。
「押忍! 某! 真斬烈神流、免許皆伝! 松河たかし! 押忍!」
「押忍! 某! 同じく免許皆伝 竹林和彦、押忍!」
「押忍! 某! 同じく免許皆伝 梅木新太郎、押忍!」
「我ら!」
「三人!」
「揃って!」
なんだ、なんだ?
いきなり刀を抜いて高々とあげたと思ったらそれらを交差させて……
「真斬烈神流三羽ガラス、旋風の松竹梅! 押忍!」
……おいおい……どこの学芸会だよ……ん?
「ちょっと待てサムライ、お前の親は街中で屋台を引いてたって……」
「はぁ、実家は祖父の代より剣道場をしておるのですが、人気があった祖父が引退し、厳しすぎる父の代で門下生がゴッソリいなくなり申して仕方なく……」
「そうでござる! それなのにその不肖の兄はよりにもよって我が道場の商売敵でもある竜聖一刀流の門戸を叩いた裏切り者でござる! 博打狂いの畜生でござる!」
と、サムライがもぞもぞと答えていると三羽ガラスの隣にいた、なかなか眼光鋭いキリっとしたこちらも羽織袴のハチマキをした女性が声をあげる。
「え~と、君は?」
「は! 某! 真斬烈神流師範! 高野サツキ! 出来の悪い兄になり代わり、二の丸様の御世話をさせて頂く所存! よろしくお願いするでござる!」
「サムライの妹か、なるほど、似てないな。サムライ……いや、君の兄上はそれなりに良くやってくれてるよ」
「お気遣いはご無用にござる。この極悪な兄は軍でも博打の貸し借りで嫌われて友と呼べるものもなく、誰にも頼れず恥知らずにも我が実家に今回の人選をお願いしにきたくらいの体たらく!」
ここでクロダがパンパンと手を叩く。
「はいはい、兄妹の諍いはそれくらいにして僕の推薦者を紹介しますよ、どうぞ、自己紹介を」
クロダに促されて黒いローブを羽織った女性が頭を下げる。
「お目にかかることができて光栄です、二の丸様。私は富崎ユカリと申します。田舎の漁師町にある魔術組合の支部で働いておりましたところを黒田さんにお声をかけて頂き参上いたしました。よろしくお願いいたします」
「ほう、普段はどんなお仕事を?」
「そうですね……薬を調合したり、天気や人の運勢を占ったり、要望があれば害獣よけの結界を張ったり、と細々とした仕事です。精力剤なんかも得意ですよ、ふふふ」
と、流し目で微笑む姿はなかなかに色っぽい。
妖艶な雰囲気はいかにも魔女って感じだ。
そして精力剤も気になる。
「ふふふ、いつでもおっしゃって下さい。二の丸様のために特別なのをご用意いたしますよ、ふふふ」
こ、こいつ心でも読んだか!?
いやいや……
「ん! ん! それでそちらのお隣の方は?」
俺は咳ばらいをし、強引に話を切り替えることにして富崎の隣にいる女性に声をかける。
この中では一番若そうに見えるが……ヘタしたらまだ学生じゃないのか?
「やれ、やれ、やっとワシの番か」
その少女がぼやくとクロダが慌ててフォローする。
「まぁまぁ、真打ちは一番最後に登場ということで、先生、一つ……お願いします」
「よかろ、ワシはな、本田イノリという。この黒田の坊主に頼まれてお城に来た。お城に入るのは実に三百年振りくらいかのぉ~。ま、よろしく頼むわ、かかか」
その見た目が一番若そうな少女がぶっきらぼうに挨拶を済ませ、笑うと他の者達がざわつきだした。
「あの名門本田家の!?」
「伝説の魔女じゃないか!」
「本物なのか? いや、そもそも本当に存在してたのか?」
「とっくに龍になって過ごしていると聞いたぞ!」
クロダがざわつく一同をなだめる。
「はいはい、皆さん、落ち着いて下さい。彼女達は僕の、そのぉ、魔術学園時代の知り合いでして富崎さんは僕の先輩ですし、本田さんは僕の師匠の師匠のそのまたいくつか上くらいの師匠くらいの関係でして、今回、直の師匠にお願いしたところなぜか彼女が来てしまい、まぁそういうわけです」
「かかかかか、二の丸様はなかなかいい男じゃがかなり複雑な星の下におる、これからも面倒ごとが多く舞い込むじゃろうが、なに、安心せい、そのうちのいくつかはワシがなんとかしてやろう」
俺は伝説の魔女とやらの物騒な物言いにビビリながら聞いてみる。
「ははは、いくつかじゃなく全部お願いすることはできませんかね?」
「ん~そういうわけにも……ま、おいおいなんとかなるじゃろうてさ、なんでも他人まかせではなく、自分の力量で解決することも大事じゃぞい?」
「……おっしゃる通りです」
まだまだ面倒ごととは離れられなさそうだ。
一通り各自の挨拶が終わったところで人選はこの後、改めて俺と龍乃影君で思案するとして一同には退出してもらった。
◇◇◇
その後、結局書類に不備があるわけでなし、問題なさそう、と判断し、龍乃影くんと相談して全員採用ということになった。
「しかし全員龍人なんだな。お前らなら獣人とか他の人種も混ぜてきそうなもんだが」
「最初一応目星をつけてた人を書類にいれてたでござるが却下されたでござる」
「龍人じゃなきゃだめだってさ」
「それに人数制限もされてしまって……ほんとは全部で三十人くらい予定してたんだが……」
冗談じゃない、十人でも多いのに。
そんな風に決着がついたんだが、これにはちょっとしたその後の話がある。
三バカことオカッパ小隊の話。
彼等が出てくると筆が乗ります。
キーを打つ手も軽くなる感じでついつい文字数が多くなってしまいました。




