第84話 来火と焔火
「本当に行くのか?」
「ええ、あなたもわかっていたはずよ、この日がくるのを」
「でも……もう少し、後かと……」
「後でも一緒よ。あの子達の為にも早い方がいいわ。……龍一が他の子と同じようにウチの子たちを可愛がって、大事にしてくれているのは、本当にうれしいし、ありがたいのだけれど……」
カナエはわざと私達の子、ではなくウチの子、と表現したのだと感じる。
「せめて中等部に入るくらいにはならないか?」
「ならないわ。お願い、聞き分けてちょうだい?」
俺の願いをピシャリと遮断したカナエは駄々っ子を嗜めるように軽く俺を抱きかかえた、が、すぐに離れる。
「お入りなさい」
カナエが部屋の外に声をかけると音もなく静かに襖が開き、兄と弟が入ってきた。
兄が来火・弟が焔火だ。
「父上、短い間でしたが、お世話頂き、ありがとうございました。来火は父上にやさしくして頂いたこと、向こうにいっても決して忘れません」
「父上、その、焔火のことも忘れないでください」
二人の幼い兄弟は背筋をピンと伸ばし俺に向かって一礼する。
もうだめだった。
「らいかぁ~、えんかぁ~!」
俺は泣きながら二人に抱きついた。
「ひ、一月に一回は顔を見せに来いよ! 体に気を付けるんだぞ! 変なもの食うなよ、お母さまの言うことを良く聞いて……」
俺の涙と鼻水が服についてしまっても来火は身じろぎもせず俺をやさしく抱き返し答える。
「父上、ご安心下さい。焔火のことは自分がしっかりと面倒をみます。そのうえできちんと龍乃下条家の当主になるべく精進したいと思います」
「ぢぢうえぇ~、焔火も立派な近衛になっで、ぢぢうえと、ははヴえを、お守りいだじばすぅ~」
焔火も俺に釣られたのか涙ぐんでる。
「な……」
「泣くな焔火! 父母がご心配なさる! 男なら顔をあげろ、そんな根性じゃ立派な近衛になぞなれんぞ!」
カナエが言うよりも早く、来火がピシャリと焔火をたしなめる。
焔火は言われてハっとした表情ですぐ涙を拭い、キっとした表情をする。
「よく言いました、来火。我々貴族は常に御国のため、国民のために考え、行動せねばなりません。焔火、今後は甘えている時間などないと思いなさい。精進あるのみ、です」
もはや俺の感情の入る余地はなかった。
親子の情などはこの先必要ないのだ、ということを見せつけられた気がした。
血税により生きる我々がいかに今後国と国民のために必要とされる人物となるのか、という覚悟を見せられた。
「異世界人だから価値観が違う」
と言うことでもないだろう。
これは一般家庭で育った俺の感覚と貴族・皇族として育った感覚の違いなのだろう。
俺がいつまでもメソメソしてたら彼等の覚悟に泥を塗ることになるのかもしれない。
俺も親として、彼等に毅然とした態度で臨まないといけない。
……と、頭ではわかっている。
昨晩レイラにもくどくどと説明を受けた。
理屈はわかっていても感情は別だ。
来火も焔火も生まれた時のことを思い出す。
よくもこんなに立派に育ってくれたものだ、もっと、もっと親子で色々としたかった……。
◇◇◇
そもそも国きっての一流の貴族たちがしょぼくれた冴えない異世界人の俺に自慢の娘たち(?)を我先に差し出すのは子が欲しい、それだけだ。
異世界人との間にできた子ならさぞ龍紋も多かろうと、ただその一点だけだ。
それがために異世界人召喚に長年にわたり皇室に知恵を貸し、金を貸し、人材を貸してきたわけである。
その見返りとして、側室の子はその貴族のもの、となり強力な龍紋を持つ子を迎え入れ、家を継がせる、契約になっている。
なので子が出来た時はすぐにでも、皇室の手垢が付く前にこちらによこせ、と催促があったらしい。
カナエの子の場合は立派な近衛となるべく、物心つく前から英才教育を施したかったらしい。
それをカナエが拒み、実家をなんとか説得し、今までお城の後宮で育ててくれた。
俺と共にいさせてくれた。
が、もうさすがに拒みきれなくなってきたので焔火がこの度、初等部に上がるのを機にまずは南区にある、龍乃下条家の屋敷に三人で移り住み、いずれは龍乃下条の拠点でもある、東龍町へ移るそうだ。
カナエが付いて行くのは勿論母親としてだが、近衛の極端な思想を植え付けて欲しくない、という監視のためでもある。
「安心してください。一月に一度の登城はさすがに無理ですが、必ず節目、節目には子供らを連れてお目にかかりたいと思っております」
カナエが佇まいを正し、俺に言う。
「……カナエ……」
「離れていても私はあなたの、側室です。絶えずあなたのことを想って過ごしたい、と思います」
そう言い頭を下げると子供たちを同じように頭を下げ、三人は後宮を後にした。
◇◇◇
側室第一陣の最後に龍乃六条家からシノエが後宮入りしてから十年が過ぎた。
皆それぞれご丁寧に二人ずつ子をもうけた。
カナエと同じように龍乃一条家へカナン、龍乃二条家へランゼがそれぞれ子を連れ実家に戻った。
タマキは
「あ、大丈夫、大丈夫。実家の父母に任せておけば。都会より自然の中の方があの子たちも喜ぶっしょ!」
と子だけを実家に戻し、相変わらずレイラにべったりだ。
シノエも子だけを実家に戻した。
彼女は子育てには興味がなく、もっぱら乳母が子達の面倒を見ていて、本人は同人活動? とやらに夢中で多分子らも母親より俺に懐いていたぐらいだ。
それでも時々母親らしいこともするので子供たちは意外にも母親のこともちゃんと好きらしいが俺からすればシノエの子の接し方はペット的というか、いいとこ取りの様な気がしなくもないてちょっと不満はある。
それでシノエの子は今では龍乃六条家で大事に育てられている。
あ、そうそうシノエがきてから二年後には龍乃十条家からはレイカが後宮入りした。
厨二病はだいぶ収まってきてるがオタク気質は変わらない。
彼女とも寝床を共にしてるが未だ子を成す気配はない。
まぁ、こういったものは授かりものだし……と思うことにする。
ヤツのとこに行くと大抵大体ジャージで、なにか食べながら本を読んでる。
ヤツの家屋はどんどん本が溜まり、書庫が増えていく。
困ったもんだ。
そんなものだから当初シノエと意気投合してたが、すぐに「方向性の違いが……」と会わなくなったらしい。
……やれやれ。
お待たせしました。
やっと主人公視点のお話となります。




