第81話 魔女ソニア
南デライダ大陸
ここは樹海の多い大陸だ。
大陸下半分はジャングルなどの密林でとにかく緑が多いのが特徴だ。
北側にはエルフが、それ以外には亜人や獣人が多く住む。
そんな地に魔女ソニアが降り立ったのは今から数百年も前のことだ。
ソニアは旅をしている。
色々な場所に行った。
色々な人にあった。
優しい人もいたし自分勝手な人もいた。
可愛そうな人、暴力的な人、金持ちな人、貧乏な人、幸福な人、哀れな人……。
色々な人にあった。
命を狙われることもあったし、助けを請われることもあった。
彼女は感情がないので脅されても平気だし、媚を売られても同情をすることもない。
世界を見て回った。
色々なことがあったが彼女はそのどれもをただ眺めるだけの存在だった。
喜ぶことも
怒ることも
哀れむことも
楽しいことも
彼女には無縁だった。
ただ新しい思い出が増えるだけだった。
百年前に訪れた地で知人の子孫に会い、二百年前に訪れた都市は廃墟となり、三百年前に訪れた山地では地形が変わっていた。
時々旅のお供がいた。
だが彼、あるいは彼女は途中でいなくなる。
生涯の伴侶を見つけ、理想の地に根を下ろす。
やりがいのある仕事をみつけ、取り組む。
能力を請われ、有力者に仕える。
離れる理由はそれぞれだ。
ソニアも旅だけをしていたわけでもない。
彼女を愛してくれる男性も現れたし、子を産んだこともある。
彼らが生きてる間はその地で暮らしもした。
しかし、伴侶も子も先に天寿を全うするとその思い出だけを持ち、彼女はまた旅立つ。
今もどこかでソニアの子孫が生きてるかもしれないし、死に絶えてるかもしれない。
が、彼女は気にしない。
人の生はなるようにしかならない。
この四、五百年は時々キルエス教を名乗る教会の者が接触してくる。
教会は好きではない。
彼等にはブラウ大陸で散々嫌な目にあわされた。
二度と関わりたくない、と思っている。
だから色々な大陸に行くがブラウ大陸とガンドウ・ロゥワ大陸は避けていた。
適当にあしらいつつ旅をしてたが全く教徒などいなかった地にもポツポツと彼らの教会が建ってきた。
煩わしくなり彼女はもう旅をするのはしばらくやめることにした。
そこで引きこもるつもりで南デライダ大陸の未開の奥地に行くことに決めた。
ついでに名前もソニアからソアラに変えた。
名前はあまり思い入れもないのでチョコチョコ変えてる。
ソニアの前はなんだったか、彼女自身もおぼろげだ。
そして彼女は全くの未開の森を見つけ、そこに根を下ろした。
暫くは一人を満喫出来ていたが時々人をこの森で見かけるようになった。
うかつにも何人かと接触した。
ソアラの住居のそばにいつの間にやら道が出来ていて辿ってみた。
すると森を出て、しばらく行った場所に小さな集落があった。
ソアラは仕方なく、さらに森の奥で暮らすこととした。
最初に何人かと接触したことが原因だろうか、いつの間にかソアラの森と言う名前になったことを知ったのはずいぶん後だ。
そして今から十年前、ソアラはこの森の中で捨てられた幼児を拾ったのだった。
◇◇◇
一行は南デライダ大陸を旅した。
基本的に魔女ソアラはクリフ以外の人間には関わらない。
野営する時もテントを出して彼女はクリフと寝る。
最初冒険者たちは変な顔をしていたが、だんだん慣れて行ったのか、そういうものかと、このグループは形成されていった。
一行は馬車で移動するがソアラは基本的に空飛ぶ絨毯に乗って日傘を差して馬車の後方を漂いながら移動する。
色々な町や村を渡り、山を越え、河を渡りしているうちに2年ほど掛けて大陸を巡り、南デライダ最北部の都市ウドウまで来た。
この都市に到着して教会に連れて行かれた。
一行は他の町や都市に行った時もそうだが教会がある時は必ず立ち寄り、色々情報やら物資やらを仕入れていた。
そういった時、大抵クリフとソアラは外を勝手にうろついて街中を見物してたりするのだが今回は二人とも教会の建物に入れられた。
と、言うのも今回で冒険者と神父はお別れすることになるからこれからどうしよう、という話合いをしたい、と神父からの提案があったからだ。
クリフが教会に入る以上、ソアラも同行せざるを得ない。
神父は森の魔女に合うことが第一の目的だったがそれ以外にもこの大陸での布教活動という使命があった。
冒険者たちはその護衛である。
この二年の旅で大陸にもいくつかの新しい教会を建てることもできた。
一応の目的を果たしたので冒険者たちとはこのデライダ大陸の教会の本拠地でお別れだ。
たっぷりと報奨金をもらい、彼らはまた、次の飯のタネを探しに出向くのであろう。
「クリフきゅん、どうする?」
「私達と一緒にいきませんか?」
教会の一室で報奨金をもらいホクホクの冒険者たちがクリフを誘う。
そこに神父が待ったをかける。
「クリフ君も、ですが皆さん、少々私どものお話を聞いていただけませんか?」
一同を見渡し、神父が話しかける。
そして部屋の扉を開け、ある人物を招き入れる。
お供の者を引き連れて部屋に入って来たのは純白の神々しい衣装をまとった、美しい女性である。
一目で位の高い人物だと分かる。
「皆さま、初めまして、当代の聖女、マリア・コーウェンです」
冒険者たちが驚愕しつつ、一斉に立ち上がり、首を垂れる。
クリフも慌てて皆の真似をするがソニアだけは無表情で彼女を見つめる。
そんなソニアに聖女は瞳を向け、一礼してから話かける。
「お初にお目にかかります、森の魔女様。まさか私の代でお会いできることになるとは、これはまさしく神のお導きでありましょう、さ、皆さんどうぞお座りください」
「聖女様は普段はブラウ大陸の聖都にてお勤めされておりますが今回、わざわざ皆さまにお会いになるためにこのウドウ市までいらしてくださいました」
神父が説明する。
皆の動揺をご機嫌で聖女は見ている。
ソアラはクリフが厄介事に巻き込まれないといいが、とそのことしか頭になかった。




