第77話 過不足のない日々
これで第1部完です。
う~、頭痛い~。
今、何時よ?
確か~、異世界の君を~、ウチの図書館に案内して……。
そうだ、昼から飲んじゃったんだ……。
大学入ってから1,2回くらいしか飲んだことないのに。
てか、ここどこよ、私の部屋じゃないし。
メガネ、メガネ……。
てか、服着てないし、やべぇな。
!!
「い、異世界の君!!」
なぜ? 異世界の君が私の隣で寝てる!?
やった?
やっちゃった!?
あ~、なんか股間がジンジンしてる~。
あ~、くっそ! 覚えてねぇ~~!
大事な! 大事な初めてだったのに!!
どれだけのネタを逃してしまったんだ!!
もっっったいねぇ~~~~!
と、とにかく起こさないと!
事の詳細を聞かねば!
「い、異世界の君! ちょ、ちょっと異世界の君! 起きて!!」
◇◇◇
「やべぇ、とか、らめぇ、とか、ひぎぃ、とか言ってたぞ」
時間にして夜の九時ころだろうか?
シノエに叩き起こされた。
そこでやったかやってないかと必死な顔で問われ、その時の詳細を話せ、とか言いうので覚えてる限りのことを話した。
シノエさんは何やらメモっていた。
なにがそんなに彼女を必死にさせるのか?
「再現してください!」
というのでこれまた覚えている限りのことを、というか一発やったら、気持ちいいのでもう一度、と終わったらまたせがまれた。
俺はくたくたなので、とりあえず腹が減ってたから何か食べないかと提案した。
「そうですね、……お昼しか食べてませんでした、よね?」
「そうだよ、もう何かお腹に入れないと体力がもたんよ」
「では食堂に行きましょうか? なにか用意させましょう」
「ああそうしてくれ、それにしても……」
「なにか?」
「君は俺にはあまり興味がないのかと思ったよ」
そう言うとシノエは真っ赤になった。
「は、早くいきましょう、その前に汗を流して下さいね」
言うが早いか手早く着替え、部屋を出て行った。
俺ものそのそと着替え、とりあえず風呂に行くことにした。
風呂から上がりさっぱりして、食堂に行くと龍乃六条家両親がいた。
夫婦はなぜか上機嫌で酒を勧められた。
シノエはまた、だんまり娘に戻っていたが、明らかに表情が柔らかくなっていた。
最初からそういう態度でいてくれれば俺も悩まずにいたのに。
しかしこれでとりあえずミッションコンプリートだな。
やれやれだ。
食事を終え、部屋に戻ろうとすると、当然のようにシノエが付いてきた。
その晩は二人で過ごした。
「異世界の君のことは、どのようにお呼びしてたら、いいですか?」
「龍一でも二の丸様、でも好きに呼んでいいけど異世界の君はやめてくれ」
「やっぱり嫌、ですか?」
「それはもう呼ぶ人がいるので出来れば違う呼び名で」
「チっ」
え? 今、舌打ちされた?
「では”龍一さん”でいいですか?」
「あ~、それはまだいない、かな?」
「良かった」
いい笑顔だった。
あれ? 舌打ちは俺の勘違いだろうか?
◇◇◇
その後、シノエも無事、後宮入りした。
これで後宮には現在
龍之下条家からカナエ
龍乃一条家からカナン
龍乃二条家からランゼ
龍乃三条家からマリー
龍乃六条家からシノエ
龍乃八条家からタマキ
龍乃影家からサキ
神社
雷龍・ヒカリ(長期不在)
水龍・シズク
黒竜・クロ(たまに現れる)
二の丸御殿
レイラ
レイリ
なんともまぁ、増えたもんだ。
俺、頑張った、頑張ったよね?
でも、まだあと七人もいるのか……。
「父様、泣いてる?」
「……スイ、ほら焼けたぞ、食うか?」
「うん、焼き芋だいすき!」
俺は相変わらず隙をみては城内の人気のない場所を選んでソロキャンをしている。
一人になりたいっていうのもあるがキャンプに付き合ってくれる人もいない。
一度それぞれ女房衆に声を掛けたことはある。
ちゃんと俺だって気をつかって誘ってはいるのだ。
だが皆、お嬢様育ちなのでこの良さがわからない。
なんでちゃんとした部屋もあるし、ふかふかの布団もあるのにわざわざ外で食事して寝泊まりしなくちゃならないの? という反応だな。
子供を抱えてる身のヤツは特にそうだ。
ま、いいんだけど。
だけどスイだけは時々付き合ってくれる。
山小屋で二人で暮らしてたからな。
今の豪華な暮らしも悪くはないが、こういう営みが落ち着くと言う。
「ここの暮らしはどうだ?」
月明かりの下、焚火のパチパチとなる音をBGMに親子っぽい、何気ない会話をする。
「う~ん、そうだね~、良くも悪くもないよ」
「そうか」
「あ、でも前より母様と会える時間が多いから、それがうれしい!」
「なんだ、やっぱり、あの山小屋の時も母さんに会っていたのか?」
「うん、気づいてた? ごめんね」
「いや、お母さんはお前のことを大事にしてたからな、なんとなく、な」
「そっか、母様はね、よくあの滝つぼの深いとこにいたんだよ」
「なるほどな、それであの滝つぼに何度も潜ってたわけか、よく飽きないな、と思ってたよ」
「あとは、月の綺麗な時は夜も会いに来てくれてさ、河原でおしゃべりしてたんだ、でも父様には黙っててって言うから……」
「ああ、いいよ、気を使わなくても。お前が元気に育ってくれればそれでいい」
焼き芋を食べたスイは近くにいたお付きの者とシズクのいる神社へと帰って行った。
俺は火が小さくなってきた焚火に薪を継ぎ足す。
「こんばんは、火にあたらせてもらっていいかな?」
後ろから声がした。
しばらく聞いていない、けれど忘れることのない声、だ。
「なんだ、戻ってきたのか。もう俺の前には姿を現さないかと思ったよ」
「やっぱりさ、子供たちのことも気になるし、さ」
「そうか、お前も親、なんだな」
「そう、なのかな。君にも会いたかったし、さ」
「ま、こっち来て火にあたれよ」
「いいの、かい?」
「ああ」
返事を返すと雷龍・ヒカリは俺の隣に来て座った。
「僕のこと、怒ってる?」
「どうだろう、今は、もう、どうでもいいかな?」
「また、ここにいても、いいかな?」
「お前の神社がちゃんとあるだろう? それにお前はミライとライデンの母親だ。いて悪いことはない」
「そっか、ありがとう」
「子供らは今、二の丸で世話してる。明日にでも雷龍神社で住めるようにしよう」
「ありがとう龍一くん」
「飲むか?」
「うん」
俺は用意していた酒をヒカリに注いでやる。
それから夜空の下、二人で黙って飲んだ。
◇◇◇
俺はこの国でなにか役職があるわけではない。
ただ城内の二の丸に住んでるから二の丸様なんて呼ばれてはいる。
その二の丸に住んで、日替わりで女房たちを抱く、というのが俺の役割、と言えば役割だ。
日中はなるべく体を動かしたり、本丸に行き、ゆくゆくは龍帝になった時、困らないように仕事を覚えている。
子供たちも大勢いるがなるべく一日に一回は誰かの顔を見るようにしている。
そして一週間に一度休む。
そんな毎日だ。
人によっては羨ましい日々に見えるかもしれない。
だけど俺はこのルーティンワークに飽きてきていた。
どこにも出かけられないし。
お貴族のお嬢様巡りもなくなったしな。
魔大陸を旅したのは良かったなぁ~。
大変だったけど、あ~ゆ~のは楽しかった。
なにをするにも自分で決めれて自由があった。
「ふふふ、お父様は何を考えてるんでしょうね~」
「龍邦様は本当にお元気でいいですね! 私の生まれてくる子も龍邦様と仲良くしてくださいね!」
うららかな午後の日差しを浴びながらレイラ・レイリとお腹の大きくなったタマキが縁側でお茶をしている。
タマキは後宮入りしてからレイラの都合が悪い日以外はほぼ二の丸に通っている。
レイラの子、龍邦はトテトテと良く動き回るがレイリの子、レイアは畳の上で寝っ転がってる俺にくっついてあまり動かない。
くっつくので構おうとすると怒られる。
小さくても女心は難しいものだ。
「レイア~、こっちおいで、甘いお菓子があるわよ~」
母親のレイリに呼ばれて俺の顔を見る。
「行っておいで、甘いんだってさ」
しかし動かず、じっと俺の顔を見る。
これはあれだな。
自分は動きたくないので取ってきて、のサインだな、やれやれ。
俺が立ち上がると俺につかまってついてくる。
なんだよ、自分で行けばいいんじゃん。
いつもと変わらない、女房たちと子たちのやりとり。
しばらくこんな何事もない日が続いていいことだ、と思う。
しかし、その反面、俺はこの未知の世界をまた探検したいと思っていた。
あ~、今日もいい天気だ……。




