第75話 エルフの血が入ってます。
そんなわけで俺はまた例の、お貴族様・ご令嬢巡りを再開した。
まぁ今回で一区切りなのでちょっと肩の荷が下りるな。
そう思うと少し精神的にらくちんだ。
今回のお相手は教育・文化などを主な生業としている龍ノ六条家だ。
そんなお家柄か、一族には教師だの学者だの絵描きだの音楽家などの芸術家だの、といった人物が多く輩出されているらしい。
南区の居館でも領地の居館にも本館とは別に図書館や音楽ホールやアトリエ・美術館などがあったりしてた。
「元乃一条先生に似てますね。」
「はぁ? ……ああ……親戚、ですから。」
龍乃六条家・長女、龍乃六条シノエ。21歳
エルフの血を引き、長い耳と美しい金髪が特徴的だ。
眼鏡を掛けて、切れ長の目はとても理知的に見える。
お城で皇女達や俺に家庭教師をしてる女性とは親戚なので雰囲気がなんとなく似ている。
美人でスラっとしてスタイルも良く、しかし、会話が続かない。
無口キャラ? とかじゃなく聞いたことには答えてくれる。
しかし向こうから話しかけてくることはない。
食事中も親に「ほらお注ぎしろ」とか
「気が利かぬ娘ですみません」とか言われてた。
あんまり俺に興味がないのだろうか?
龍之宮の六条居館でもそうだし龍之六条家領地に来てからもそうだ。
道中の竜車のなかでも、まぁ、気まずい。
むしろ親と会話してる時の方が多い。
カナエの下条家の爺さんの例から以後の公爵さん達は最初の挨拶くらいで「後はお二人でどうぞ~」パターンだった。
しかし今回はずっと必ず両親のどちらかがいる。
「この子は体を動かすのはからきしですが、昔から本はね、よく読むんですよ」
「不愛想ですがね、勉強はできるんですよ」
「料理とかは、まぁ不器用なんで、おいおい、覚えればいいかと、まぁ、こういうのは本人のやる気と申しましょうか……」
「子どもの時はもうちょっと元気な子でね、苦労したこともあるんですよ、ははは」
などなど本人の口からよりも親からの方がシノエの情報をバシバシだしてくる。
本人の目の前で。
本人は、無表情でそれを肯定も否定もせず聞き流す感じだ。
やりにくいよ!
◇◇◇
龍乃六条家領地は龍ノ宮市がある山脈の東側に位置する。
東龍之宮市を中心とし、帝国東沿岸に沿って縦に細長い領地だ。
故にのんびりとした長い砂浜やら厳しいリアス式海岸などもあり、見どころも多い。
場所によって採れる海産物にも違いがあり、方々でもてなされた食事はどれもこれも美味しかった。
龍之宮市やお城にも卸しているらしいが、やはり本場で新鮮な物を口にするのは全然鮮度が違う。
毎度、ご当地ご自慢の温泉にも入り、満足満足、のはずなんだが、やはりイマイチ盛り上がらない。
サキはじめ俺付きの侍従・侍女た達も無表情だが彼等は適度にギャグを入れてくれるので一緒にいて気疲れをすることもない。
俺にとって一番心安いのはオカッパ連中だけどね。
結局最後まで朝から晩まで親付きのお付き合いだっったので皆が期待するようなエロイベントもない。
このままでは本当にただの観光旅行になっちまう。
いつもいつも、だが、初対面で会う女性が今まであったパターンに当てはまらなくて苦労する。
いや、人それぞれ違う、というのはわかる。
それでもな、こっちは経験値が低いんだ、もうちょっとすり寄ってくれてもいいんじゃないのか?
そこで俺は侍女連中に相談する。
「サナ、どう思う?」
「おとなしくていいんじゃないですか?」
こいつ、そのまんまだな。
サキが侍女グループから抜けてから今ではサナが一応リーダーしてるが、どうもコイツ、やる気がないんだよな。
頼んだことはソツなくこなすんだけど。
「サヤは?」
「二の丸様落とすには少し、元気と色気と胸が足りないと思うにゃ」
「……サンは?」
「え~どうでもいいですぅ~、どうせ変えろって言っても聞いてくれないですよ? 彼女本家の娘だし。私だったらいつでも夜伽の準備できてます!」
そこへ青野兄弟がクギを差す。
「二の丸様、サンに聞かないで下さい。コイツ、サキ姉みたいに二の丸様狙ってますから。」
「狙ってるとか、うざいんですけど。」
「いいからサンは服着な。二の丸様、明日のご予定ですが向こうの予定をキャンセルして頂いて、シノエ様にご案内お願いしてはいかがでしょうか?」
サナが提案してくれる。
ま、そうしてくれるのが一番、二人っきりになれそうだな。
「しかし、あの親が了解するかな?」
「まぁ、それは交渉次第だと思いますが、こちらかの要請を無下には断らないと思います。」
サナが断言する。
その横でさっきからカードで遊んでたオカッパ達が口をはさむ。
「私らはどうする?」
「今回も美味しいもの沢山食べれて幸せでござるが、ちと刺激が足りないでござる。」
「二の丸様・襲撃イベントもないしね。」
「そうそう襲撃されてたまるか! ま、オカッパ達はいつも通りでいいんじゃね?」
「じゃあサナ、そういうことで調整頼むよ。いいかな?」
「お任せください」
さてさて、明日はどうなることやら。
◇◇◇
こちらの提案に、親の方は意外とすんなりオーケーがでた。
「二の丸様がそうおっしゃるのであれば私どもも御意向に従います。」
と、まるで待ってました、やっと言ってくれたか、という雰囲気だったそうだ。
? わけがわからん?
それで今日はシノエさんのご提案により、東龍之宮市の龍乃六条家居館を案内してもらってる。
建物自体は今まで見てきた貴族達の居館より、かなり質素だがその中身がすごかった。
南区の居館もそれなりだったが、図書館、美術館、コンサートホール、植物園、生体研究所などが広大な敷地内にあり、とても一日で見て回れる規模ではない。
その中でもシノエは図書館と美術館が好きだ、というので午前中は図書館を見物させてもらい、植物園の東屋で昼食をとった。
「二の丸様はもう、私のとこには、いらっしゃらないかと思ってました」
唐突にシノエが切り出す。
「いやいや、お待たせして申し訳なく思っております。私の方でも色々ありまして……」
「私は御覧通り、地味ですし」
「いやいや、えと、お綺麗ですよ? 本日の御召し物も素敵です」
(いいですか、あなた。お会いする女性はとにかく褒めなさい。着てるもの、アクセサリー、髪型、なんでもいいからとにかく褒めなさい)
レイラよ、我が妻よ、あなたの教えが今、役に立とうとしています。
だが、シノエさんにジトっとした目で見られた。
そしてそのまま無言になり、その後、会話も弾むことはなかった。
やはりとって付けたような褒め言葉は役に立ちませんでした。
奥さん、申し訳ございません。
俺はまだまだ未熟でした。




