第73話 黒龍神社
「は、はじめまして! スイです。よろしくお願いします!」
いいぞ、スイ。初めての人にもちゃんと挨拶できたな。
……いや、初めてじゃないけどな。
皆、赤ん坊のお前を知ってるんだけど。
「え? この娘が? ……スイ?」
とレイリ。
「え、と、龍邦たちと同じ位の、幼児、でしたよね?」
とはレイラ。
「それで、なんで異世界の君はそんなにボサボサなんですよ?」
とはマリー
「まぁまぁ、とりあえず、二の丸に戻ろう」
◇◇◇
俺たちは水龍神社の境内で発見され、すぐさま、女性陣がワラワラと寄ってきた。
二の丸に戻り、俺はとりあえず、ひとっ風呂浴びて髪やら髭を整えた。
皆の前でスイが十
この間の雷龍・ヒカリの時は一か月程で戻ってきたが、俺の体内感覚だと二十年くらいだったし、神様、ほんと俺を弄ぶのやめて。
だが、まぁ俺は連れ去られたおかげで平静を取り戻すことができた。
シズクに感謝すると共に、皆には心配かけたことを謝罪した。
その後、”龍の巫女”龍乃十条レイが俺に会いにきた。
「私は忠告はしたと思います。が、お元気になられたようで良かったです」
「はぁ、かたじけないです」
「二の丸様は少しスキが多いように思います。くれぐれもより、より一層のご注意を」
「肝に銘じておきます」
それで黒龍神社がとっくに出来てたと言うので見に行った。
ついでにご神体にしようと思ってたクロの髪を入れた箱を持って行った。
「それが……」
龍乃十条レイは一瞬、顔をしかめたが、咎めはしなかった。
真新しい神社に行くと、マリーと夜霧、そしてまだ小さな黒竜ナハトが境内で遊んでいた。
「ここで遊んでいたのか」
「おとしゃん!」
「異世界の君」
二人が寄ってきて、夜霧が俺に抱きついてくる。
「ほら、おかぁしゃん、持ってきたぞ」
「お~~」
「ここの神社、いや、ここのおうちに入れてあげような」
「うん!」
俺とスイは神社の本殿の中に入り、一番奥の神台にクロの髪を入れた箱を置く。
「じゃあ、夜霧、一緒に祈ろう」
「うん!」
俺たちはその箱に向かってパンパンと手を叩き、目を閉じ、手を合わせる。
夜霧も俺を見よう見まねで同じような動作をする。
「え~と、なんだ、おかあさん、俺たちを見守っててください、お願いします」
「おなないします」
「もちろん、いつでも見ているよ!」
は?
見上げると、いた。
「……クロ?」
「おかっしゃん!!」
夜霧が走って抱きつく。
「夜霧! 大きくなったね。!」
夜霧を愛おしそうに抱くクロは、前に見た大人ヴァージョンと違い、今回は15,6歳に見える。
なぜか黒いセーラー服だった。
どういう趣味だよ。
「お兄ちゃん、久しぶり!」
「お前、ここに現れてもいいのか? その、龍神様同士の不可侵条約的なものは……」
「お兄ちゃんが私の髪、ここのご神体にしてくれたでしょ? おかげでこうして来ることができたよ!」
クロが夜霧を抱っこしながら微笑む。
「あとね、一杯お祈りしてくれたでしょ?、お兄ちゃんも夜霧もサキも。だから、来れた」
「……神聖てやつか……」
「不可侵条約ってか、私の髪をここに持ち込むことが出来た時点でね、炎龍の了解を得たようなもんなんだよ」
後ろで龍乃十条レイがため息をつく。
「やはり、こういうことになりましたか……」
俺は振り返って尋ねる。
「やはりって、こうなることが予測できてたんですか?」
「まぁ……多分、こういうことになるかと……」
「まぁまぁ、神様、なのですね? さすが異世界の君なのですよ!」
マリーもびっくりしてる。
まぁ当然だろうな。いきなり神様登場! だからな。
「初めましてマリー、いつも夜霧と遊んでくれてありがとう、夜霧がいつも話してくれたんだ、これからもよろしくね」
「よ、よろしく、お願いしますです!」
その後、俺たちは夜霧とクロを残して境内に戻った。
マリーはナハトの相手をしていた。
それを眺めながら俺は龍乃十条レイとベンチに腰掛け、話をしていた。
「龍之河レイ、は炎龍の、”龍の巫女”なんですよね?」
俺は前から疑問に思ってたことを聞いてみる。
「今、このお城には雷龍、はもうここに来てませんが、水龍、黒龍、といますが、あいつらはこの国では、どういう位置になるんですか?」
「そうですね……」
龍の巫女の話によると、炎龍様以外の龍神様はお客様なんだそうだ。
龍之河レイが契約しているおかげでこの国はなにか災害がおこれば炎龍が助けてくれるが他の神様が何かしてくれることはまずない。
彼女達は俺がいるからこの地にいるだけで、俺に興味がなくなったら出てくかもしれないし、ここにどまるかもしれないし、それは神様の気分しだいだそうだ。
ただ、他の龍神も含めて、だが、龍人のことは自分達の甥っ子、とか姪っ子くらいには気にかけている存在でもあるらしい。
この国には七大龍神を祀る神社もあるしな。
しかし見守るくらいがせいぜいで、例えこの国が滅びようが龍人が全員死に絶えようが、なにか行動を起こすことはないだろう、神様とは本来そういいうものだ、と言われた。
「ただ、神様になにかして欲しいのならその代償が必要です。私のように”龍の巫女”になり契約するか、何か捧げるか……」
「そう、なんですね……。他の龍神様ってどんななんです?」
「さぁ……私は二の丸様がここにいらっしゃるまで、炎龍様しか知りませんでしたかねぇ……」
チラリ、と意味ありげな目で見られた。
「たは、ははは~」
俺は誤魔化し笑いしかできなかった。
そうだよね~、死にかけでずいぶん龍神様の御世話になりましたねぇ~。
……なんて相槌を本職で頑張っている人に言えるほど俺の心臓は強くない。
「あの時も、二の丸様の御命に係わる時、ご神託を受けたのは私なんですよ? 少しは感謝してください」
プイっと横を向かれた。
「え? あ、そうだったんですか? でもあの時、いらっしゃいませんでしたよね?」
「ええ、ご神託を受けた後、私は倒れ込んでしまい、後のことは龍帝様と夫にお任せましたから」
「そうだったのですね、知らなかったこととは言え、失礼しました」
俺は素直に頭を下げる。
「そして龍神様に連れられて行って、そうやってご無事なのも二の丸様が今は龍の因子をお体に持つからなのですよ」
「え? そうなんですか?」
「”神隠し”は、聞いたことはありますか?」
「はぁ、なんとなく、元の世界でもそういう類の話はありますね」
「そうですか……。今回の二の丸様もやはり、神隠しの一種だと思われます」
「そう……なんですかねぇ?」
はぁ~、ため息をつきつつレイは続ける。
「お話によると連れ去られて何年も、何十年もいたのに帰って見ると数日しかたってない。典型的な神隠しですよ?」
言われてみればそうだな。
「普通、神隠しにあった者は現世に帰ってくることはありません。現世への帰還を果たしたものでも、様々で数日しかいなかったのに年老いてたり、数年後に子供のままの姿で発見されたりと」
「……」
「大抵の者は連れて行かれた世界が心地よく、その場を離れることがないそうです。二の丸様が、ご無事で本当に良かったです。見た目は同じように見えてもやはり、神と人は違う存在なのです」
「……再度、肝に銘じておきます……」
そんなこんなと話し込んでるうちに夜霧が建物からトボトボと出てきた。
「おかしゃん、行っちゃった」
そうか、消えたか、戻ったのか、ここに存在できる時間がなくなったか、これも神様のことだからわかんねぇな。
「また来るって! 良かったね、おとしゃん」
「そうか~、お父さんは、まぁ、いいけど、夜霧はうれしいな」
「うん!」
こうして、俺はまた、ここの日常に戻っていった。




