第67話 ミライ
タマキ、ランゼも後宮入りし、後宮は賑やかになってきた。
雷龍ヒカリの娘はミライ、水龍シズクの娘はスイと名付けてる。
彼女たちは乳母を拒み、自分達の社で育てているが神様なので、俺と赤子の前以外ではめったに姿を現さない。
なので、境内で赤子が一人でいるところを、通りすがりの人や巫女さんたちに目撃されてるらしい。
まぁ、ちょっとしたホラーだが、事情を知ってるとなんとも言えないな。
カナエのお腹は順調に大きくなり、直に出産だ。
タマキは、まぁ予想通り、後宮入りした途端、レイラのところに入りびたりだ。
やることはやってるけど。
カナンも無事妊娠し、精神も落ち着いてきた。
ランゼは後宮入りしてからは以前の、俺を襲うような乱暴な行為はしなくなった。
アレは彼女なりの照れ隠しもあったらしく、こちらが誘導してあげた方が心地よいらしく、今は寝室では可愛いくらいだ。
今のところは、な。
それでカナエが妊娠を境に、またオカッパ達と俺の朝練を元の近衛の人に戻してたんだが、その職を奪い、今は大佐殿が鬼教官として俺たちをしごいている。
チャイナ服でな。
はい、そんなある日のことでした。
俺はある日、突然、また別の大陸にいたのでした。
え~~~~!!!!
◇◇◇
ことの発端はこうだ。
もう少しでクロの神社ができますよ、て時だ。
雷龍・ヒカリに龍紋を調整してもらってだな、近くで娘のミライが寝ていてだな。
「う~ん、もう何も調整しなくても龍紋を使えるはずなんだけどねぇ~」
なんてヒカリが言っててさ、なぜかそのまま、お得意の昼の情事へと発展したんだよ。
で、俺、一瞬寝ちゃったんだな。
多分、体感で二、三十分だと思うんだけど、目が覚めたら全然知らないとこなんだよ。
とにかく暑いな、て感じだよ。
暑くて目が覚めたくらいだよ。
龍ノ宮市は今こんな気候じゃないはずなんだよ。
見渡すとなんというか、上も下もレンガ作りで、装飾が南国風のリゾート? みたいな?
ほら天幕ベッド、ての? あんなので寝かされてたらしいな。
てか、どこだよ、ここ?
「あ、目が覚めた」
レースの天幕の向こうで少女? の声がした。
「気分はどう? 父様?」
カーテンのスキマから顔をだし、俺の様子を伺ってくる。
十代初め、くらいだろうか、マリーよりは幼そうな、青い髪をした少女だ。
胸にサラシを巻き、腰にはフンドシのような腰巻をし、他は肌が露出してる、なんとも露出過多なスタイルで腕には赤ん坊を抱いている。
て、え?
この娘、今、父様、て言った? とうさま?
「あ、もらした」
そう言って、その少女は赤ん坊を俺の横に寝かせ、オムツを替えだす。
「父様さ、混乱するかもしれないけど、一週間くらい寝っぱなしだったんだよ? その間にさ、私、こんなに母様に成長させられてさ、大きくなった次の日には弟が生まれててさ、お姉ちゃん、なんだから面倒みてねって……本当、嫌になるよね」
手際よく、赤ん坊のオムツを替え、少女はまた、その赤ん坊を抱きながら言う。
「え? 母様? 弟?」
「察しが悪いなぁ、私は龍一父様とヒカリ母様の娘、ミライです」
え~~~~~~!!!!!!!
「おまえ、ミライ? ミライなのか!? え? え? なんでこんないデカく……ちょっと抱かせろ!」
俺はミライを抱いて高い高いした。
「うわっ、重っ、やっぱ夜霧より全然重いな!」
「ちょ、父様やめて、恥ずかしっ!」
「うはっ可愛いな、やっぱ……ミライはなぁ、ヒカリが全然抱かせてくれなくてな! 俺が抱っこすると抱き方が悪い! とか言ってすぐ取り上げられちゃってさ……あ~、けど小っちゃいお前をもっと抱きたかったな……」
「父様、降ろしてってば!!」
バチッと電気が走り、俺は思わずミライから手を離した。
「いてっ!」
「ごめんね、父様がしつこいから……」
ちょっと顔を赤くして照れながらミライが言う。
そうか、お年頃か……幼少期のミライも見たかったけど、それはもう叶わないんだな……。
いや、待て、それよりも。
「お前、龍紋が出せるのか?」
「もちろん、まだ額の一つしか出せないけど」
あ~、まっ、そうか、そっか……。
いやいやいや、色々ミライのことも知りたいがっ
「てか、ここはどこなんだ? 見慣れない場所だが?」
「ここはトール大陸ってとこらしいよ? 私も詳しくは知らない」
え~!? また違う大陸かよ……。
「母様の領地だってさ。父様知ってる?」
「いや、すまんな、俺はブラウ大陸とガンドウ・ロゥワ大陸しか知らないんだ」
「そっか……ま、いいけど」
「それで、この建物は?」
「母様の神殿らしいよ。信者の人たちが世話してくれるから、まぁ、不便はないんだけど……」
「それで、ヒカリ……母様はどこだ?」
「さあ? 二日ほど見てないよ? 父様が目を覚ましたら、弟の名前を付けてもらえってさ」
ん? この赤ん坊か……男の子か……。
雷龍の場合は、まぁ雷はピカッて光るから、ヒカリ、ていう、なんとも安直な発想だし、ミライはライリュウの”ライ”をもじっただけだしな。
すまん、ネーミングセンスのない父で。
え~と男だから……。
「まぁ、やっぱ……雷電だな」
「ライデン! いい名前だね! 君、ライデンだってさ!」
いきなり俺の背中にヒカリが現れた。
「おまっ、どこ行ってたんだよ! てか、ミライを勝手にこんなに大きくしやがって! ちゃんと娘が成長する姿が見たかったのに! てか、二日も年端もいかない娘に赤ん坊の世話押し付けやがって、そう言うの、俺の元の世界じゃヤングケアラーて言ってだな!」
と俺が矢継ぎ早に文句を言うと、抱きついて押し倒しキスをされた。
「どうどう、落ち着いて龍一くん、ミライのことはごめんね、ちょっとやり過ぎちゃったかな、とは思うんだけど、もうしないから許してね。こんだけ成長させちゃうと、今更赤ちゃんに戻すわけにもいかないしさ。あと、この世界じゃ、このくらいの子が赤ん坊の世話をするのは当たりまえなんだよ? 君の元いた世界とは違うんだ。だからあまり目くじらを立てないで欲しいな。もちろんライデンの世話はミライだけじゃなく、僕の信者の子たちも交代でしてくれてるはずだから、ね、落ち着いて?」
ヒカリはやさしく、駄々っ子に言い聞かせる様に、俺を優しく包み、頭を撫でながら言い聞かせる。
……見た目はともかく、一歳程度の子供が赤ん坊の面倒見ないだろ、この世界でも。
俺は抱きつかれながら質問を続ける。
「なんでこんなとこに連れてきた?」
「こんなトコはひどいな、ホラ、龍一くんさ、側室ちゃん達のウチにいったり、領地を観光してたりするだろ? アレがちょっと、うらやましくってさ、僕のとこも見て欲しくてさ、ちゃんとおもてなしするよ? あとは、ホラ、水いらずでしばらく二人っきりで過ごしたいなって」
ヒカリは耳もとで囁くように弁解する。
「それはわかった、色々思うとこはあるが、受け入れよう。それで最後に弟の件を」
「僕らはね、君に抱かれてからいつでも赤ちゃん、産むことができたんだ。神様だからね。ただ、ホラ、炎の龍人の奥さんに遠慮して彼女が出産してからでって思ってたからさ。ヒカリが生まれてからも抱いてくれただろ? 弟も実はいつでも生むことができたんだけどさ、折角だからもう一人は僕のとこで産みたいかなって、こっちに来たついでに、ね?」
「はぁ~、ね? じゃ、ね~よ。向こうは心配するだろ?」
「大丈夫、シズクとね、決めたんだ。彼女が上手く説明してくれるんじゃないかな?炎龍も反対しなかったし。だからね、帰ったら、今度はシズクのとこに行ってあげてね?」
「わかったよ……ここじゃ親子四人、水入らず、ってことだな」
「父様、私とライデンのことはいいよ、信者の人が手伝ってくれるし。その代わり精一杯、母様とイチャイチャしててよ」
「ヒカリ! 君っていい子! 母様うれしい!!」
ミライがジトっとした目で、抱き合ってる俺らを見る。
「……いや、あんまり、関わり合いたくないんですけど……」
こんな知らない土地で、こんな微妙な雰囲気で、楽しい家族団らん、できるのか?




