第65話 ドラゴン・スレイヤー
「ふふふ、ここがいいのかしら」
「ああ~! ちょっ」
「ほらほら、ここがいいんでしょ? ちゃんと、言ってごらん? ほら、あなた、やめちゃいますよ?」
「ああ、いいよ」
「だめだめ、そんなんじゃ、ちゃんと『姫さま、ここがいいのです』とおっしゃてくださらないと、やめてしまいますよ?」
「ああ~姫さま! そこです! そこがいいです!」
魔大陸から帰ってきてからうちの奥様方が、その、なんか情緒不安定? てか性格変わった? てか本性でてきた?
みたいな感じだ。
レイラはさすがあの母にしてこの娘あり、というか、最近の情事は上記のような雰囲気で進められている。
まぁ皆に心配かけたので俺のことはいいように使ってくれてかまわない。
ほんと、俺って度量が広いというか、姫さまのおかげで新しいチャンネルが開きそうといいますか……。
◇◇◇
「お~い、降りて来い」
夜霧は外に出るとすぐパタパタ飛んでしまう。
まだ幼いので、そんな高く飛ぶわけではないんだが、手の届かない場所まで上がられると呼ぶしかない。
降りてきた夜霧はうれしそうに俺にくっつく。
「ここにおかしゃん来る?」
「どうだろうな、まぁクロの……おかしゃんの御神体を置くから、一緒に手を合わせような」
「うん」
俺と夜霧とマリーは今、黒龍神社の建設現場の近くにきて、建設風景を見学してる。
最初、雷龍、水龍神社のそばがいいかな、と思っていたのだが、ヒカリとシズクに大反対されたので少し離れたとこに建立することになった。
「あのねぇ、龍一くん、本当は水龍の神社とも、もう少し離して欲しかったくらいだよ」
「で、ありんす。新しいのはせめて、ここから見えないとこにしてくんなまし」
と言うわけで色々後宮の敷地内を散策して夜霧がここがいい、と決めた場所がちょっと鬱蒼とした林の中だった。
ここはマリーの住んでる館に近いからちょうどいいかな。
後宮に立てられてる、側室の建物はほぼ和風で統一されてるがマリーのはレンガ造りでちょっと洋風だ。
今は夜霧がマリーになついているので夜霧とナハトが世話になっている。
「よかったのですよ、ここなら夜霧ちゃんも、ウチから歩いてお散歩がてら毎日これるのです」
「そう言ってくれて助かってるよ」
そんな午後の一幕に慌てて俺に駆け寄ってくる侍女がいた。
俺付きのサナだが今日はサンが一緒で、彼女は確か二の丸でなにか他の作業をしてたはずだ。
「二の丸様、すぐに本丸にお越し下さい」
「なにか、あったのか?」
「龍帝様が及びでございます」
「じゃあ、急がなきゃな。すまんな、二人とも」
「いいのですよ。お急ぎ下さいですす」
じゃ、と言ってサナについていったら、夜霧も付いてきた。
「夜霧、マリーのところへ戻りなさい」
「おとしゃんと、行く」
「あ~もう、しょうがないな、じゃマリーも来てくれ、龍帝様に謁見してる間、夜霧を頼む」
「了解なのですよ」
と三人で本丸に向かった。
本丸の龍帝の執務室に通されると龍帝の姿はなく、侍従長がいた。
「実はですね、ただ今、ドラゴンスレイヤーというお方がいらしてまして、その相手を二の丸様にさせよ、と。仰せつかっております」
は?
「まぁ、たまにこういう腕ためしの者がここには訪れるのですよ」
「いやいや、俺は武芸からっきしなんですけど?」
「ああ、大丈夫です。その者たちの相手は火竜が行いますので、二の丸様はこちらに書かれた台詞をその者に向かって喋っていただけるだけでけっこうです」
「はぁ……それくらいならば、まぁ」
「二の丸様に危険が及ぶようなことは一切ございませんのでご安心下さい」
「はぁ……けど大丈夫なんですか? その挑戦者的な人。流血沙汰は見たくないですよ?」
「その辺もご安心下さい。多少のケガはさせてしまうかもしれませんが、安全に配慮しておりますし、竜も彼等のレベルに合うようなものを用意しております」
「ふぅ~ん」
「ま、一種のお祭りのようなもの、とお考えいただければ」
「はぁ、わかりました」
「では、こちらに」
俺は侍従長の後に従った。ついでにマリーと夜霧もついてきたが問題なさそうだ。
「くふふ、夜霧ちゃん、イベントなのですよぉ~」
「いべんと?」
「そぉ~です! 血脇き、肉躍るイベントなのですよ!」
後ろでマリーが不気味なことを言っている。
◇◇◇
連れて行かれたのは中央区にある闘技場だった。
昔、オカッパ達と視察、と言う名の市内観光してた時に見た、けっこう大きな建物だ。
侍従長に連れられて、貴賓室に入るとウチの女房衆がいた。
皆ワクワクと挑戦者の品評会をしていた。
俺が貴賓室に入った瞬間、おおきなアナウンスがなった。
「皆さま! ご覧ください! ただ今、次期龍帝とおなりになられる、異世界の君、二の丸様こと龍ノ宮龍一様が、今! 今貴賓室にお入りになりました!」
うぉぉぉぉぉぉぉ!!! ドンドンドン!!
と会場が割れんばかりの激しい歓声が聞こえる。
侍従長が俺の横で耳打ちする。
「観客に手を振ってください」
俺は言われた通り、片手をあげる。
するとまた大歓声だ。
わけわからんな。
「ではこちらを」
と原稿を渡される。
(挑戦者を指差し、高らかに言う)
「龍の試練を受けし者よ、よく来たな! 我はこの国の時期龍帝である! まずは名を名乗れ!」
なんのお芝居だよ、これ……。
闘技場の中心には茶褐色の上半身を晒し、半ズボンの屈強そうな若者が大きな剣を構えている。
他に神官服の女性、狩人ぽい恰好の男性がいる。
三人組のパーティーだ。
「次期龍帝よ! 俺は龍の試練を受けるため、トール大陸からきた、ドラゴンスレイヤー・ガステンだ! 本当は龍帝を相手にしたいとこだがな! いざ尋常に勝負!!」
「……え~と?」
(高らかに笑いながら答える)
「フハハハハ! 貴様ごとき、我が相手にするまでもない! まずはコイツが相手だ! いでよ ! サラマンダー!!」
俺がそう言うと闘技場に派手な煙が上がり、火竜が現れた。
「……今回は三種中型火竜か、大丈夫か、あの挑戦者?」
席のハジの方でオカッパがなんかブツブツ言ってる。
「なにぃ!!!」
「ガステン! 注意して!」
「援護するぜ!」
三人は火竜を取り囲むように展開する。いいのか? それで?
火竜は落ち着いて様子を見ている。
「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」
ガステンが突っ込む。火竜に刃を突き刺すが、カチィイイイン!! といい音がして弾かれた。
「くっ、コイツ強いぞ!」
「ガステン、任せろ!!」
狩人が弓を火竜の顔に向かって三連射した。
目でも狙ったのだろうか? しかし火竜に手で弾かれた。
「ガステン! コイツの弱点は目だ! 今、目を狙ったら嫌がったぞ!」
いや目を攻撃されるのは誰でもいやなんじゃないか?
「っふふふ、なるほどぉ! ルナ! 俺に強化魔術を!」
「わかったわ! ガステン!」
ルナと呼ばれた神官服がなにやら杖を持って呪文を唱えるとガステンの身体が強化されたのだろうか?青く光った。
「今のうちに火竜に攻撃されたらヤバイよね、あいつら」
「そんなお約束破りはいけないのですよ、異世界の君」
「そうよ、兄さま、久しぶりなんだからこういうのはじっくり楽しまないと」
「相手に全部、力を出させ、受けきってから、ぶちのめすのが風車の理論ですよ、あなた」
「龍一、プロレスは楽しまなくちゃ」
え? プロレス? 今だれか、プロレスって言わなかった?
なにこれ? 見世物なの???
どこまで誰が本気でやってるんだ?
わけがわからないよ。
しかし
あれだな、こういうのは、ドラゴン退治的なものは元の世界じゃ、どうやったら最強ドラゴンを攻略できるか、みたいな人間目線で見てたが、こうしてドラゴン側に立つとあれだな、人間てのは弱っちいもんだな。
ガステンよ、お前ら、今、必死になって攻撃してるドラゴンさんは殺さないように手加減してくれてんだぞ、感謝しろよ。
「うふふ、やれやれ、ぶちのめせ、焼き尽くしてしまえ……」
ブツブツとなんか小声で呟いてるカナンがちょっと怖い。
と客席に目を移してる間に火竜のシッポに狩人が弾き飛ばされた。
「フーガ! ……畜生! しっぽを使うなんて汚いぞ!」
……竜と戦ってんだ、しっぽの攻撃くらい予測しとけよな!
挑戦者は遠距離攻撃手が抜けて劣勢だ。
あんまり役に立ってなかったがな。
あいつの弓攻撃はカチン、カチンと全部弾かれてたし。
「ルナ、フーガに回復魔術をっ! コイツは俺が食い止める!」
もちろん優しい火竜はセオリー通り、弱いヤツを仕留めに行く、なんてエグイ真似はせず、ガステンとやり合ってやる。
その間に倒れた狩人に向かって神官服がなにやらブツブツ言って杖を空に掲げると狩人の身体が白く光り、ヨロヨロと立ち上がる。
「ありがとうルナ、もう大丈夫だ。こうなったらもう、俺のとっておきを使うしかないな」
そう言うとガステンとカキン、カキンとやり合っている火竜に向かって、狩人は透明なガラスのような矢をつがえて放った。
火竜はガステンとやり合いながらもちゃんと目の端で捉えてたのだろう、また手で払おうとした瞬間、火竜の右半身が凍った。
「おお! 火竜に対して凍りつく矢を使ったのか!?」
俺が興奮して言うと
「まずいですね……」
と隣でレイラが言う。会場もなんかざわざわいている。
「今だ! とどめだっ! スラッシュウィンドゥ!!!」
ガステンが技名のような物を叫び、刀を振るうと刀身が光り、光の刃の様なものが火竜に向かって飛んでいった。
しかし、火竜はそれよりも前にカンカンカンカンと口から予備動作をしていて、その光の刃が当たる前に口から火炎を吐いた。
◇◇◇
「遠いところから来たのに残念だったね。はいこれ参加賞」
俺は彼等にノイの干し肉が詰まった袋を渡した。
黒焦げになった彼等はウチで治療してやった。
一週間ほど滞在したのち、彼等は帰った。
後ほど本丸の執務室で俺付きの侍従・青野君(弟)に聞くと
「けっこうヨソの大陸から龍の国がある、と聞いて腕試しに来るヤツがいるんスよ」
と教わった。
「相手にするのはいつも竜なのかい? 龍人や竜人はやらないのかい?」
サムライが答える。
「殺しちゃうでござるよ、ワザと負けてやる義理もござらんし、あの相手にする竜もちゃんと決まってござる」
「そうなの?」
「そうそう、人間相手に殺さないよう加減できる頭のいい竜じゃないとね」
とクロダ。
「来た挑戦者、片っ端から殺しちゃったら、ほら、外聞が悪いしさ」
「あれ挑戦するのに、ちゃんと金も貰ってござる。ただでは挑戦できないでござるよ」
「そうなの、商魂たくましいな……」
何でもかんでも受けてたらキリがないってことらしい。
滞在費・治療費まで取ってたみたいで、帝国もちゃっかりしてんな。
ちなみにこの手の挑戦者は大体ヨソの大陸から来た連中でブラウ大陸の人間なら、この仕組みも知ってるし、そんな無謀なことは金と時間の無駄だと分かってるから、挑戦する奴は皆無らしい。
だからヨソ者に一応、親切心でやめときな、て忠告するんだけど、それはホラ、金かけて、時間かけて遠くからきて、地元民にヤメロ言われても引くに引けない感じらしい。
来るのが功名上にかられた腕自慢だから、余計にそうなんだろう。
こちらとしては金も入るし、いい余興になるらしい。
ま、確かにあれは娯楽の一種だったな。




