第64話 龍之河れい
俺は龍之中宮市に来ていた。
龍乃十条家、当主・龍乃十条レイ公爵に会いに来たのだ。
俺は龍乃七条の家から戻り、クロの神社設立協力を取り付けるため、龍都の中央区にある神社に彼女に面会を求めに行ったら神社の人が、今は用事で龍之中宮市にいて、ここにはいないので、後日お城に向かわせます、的なことを言われたけど、面倒くさいのでカナンに頼んで飛竜で来ちゃったわけだ。
「龍ちゃ~ん、また、こんな勝手して、怒られても知らないよ。けど私さ、龍ちゃんに頼まれたら断れないし、もう、本当にしょうがないなぁ~、龍ちゃんは私がいないとダメなんだから、龍ちゃんは。クーンも龍ちゃんを乗せて飛ぶのが嬉しいみたい。クーンって言うのはこの子の名前よ、ほら、可愛いでしょ? ほら、後宮に入る時にさ、一緒に連れて行っていいかなって、ほら、ね? 聞いたじゃん。ね。龍ちゃんたら間髪いれずにさ、笑ちゃうよね、ダメだ、なんて言っちゃってさ、あの時の龍ちゃん、ほんと、最高! それでさ、クーンもさ、今三時間くらいは休みなしでさ、飛べるんだよ、すごいでしょ! だからさ、龍ちゃんに頼まれた時さ、ほら、私、龍ちゃんに頼まれたら断れないでしょ? だからさ、龍ちゃんに頼まれた時、クーンがいいかなって、それでね……」
カナンは俺を前に載せて、お城から龍之中宮市に着くまで、ず~と後ろから俺の耳元でひっきりなしにしゃべっていた。
俺が攫われさえしなければ、コイツもこんなんじゃなかったのに……。
しかし時々正気になる時もあって、
「龍ちゃん! この間渡した、その、私の書いたアレ、アレ捨てといてくれない、かなぁ~。あ~、なんであんなことしちゃったんだろ、恥ずかしい、恥ずかしすぎる……」
みたいになるんだけど、すぐにまた、スイッチが入って情緒不安定になる。
しかし、俺はクロでメンヘラの耐性がついたので、まぁまぁ平静でいられた。
きっとクロとのことがなかったら、これも精神的につらかったろうなぁ……。
もちろん帰ってきてからもらったカナンの書いた七箱に及ぶ封書はちゃんととっておいてある。
◇◇◇
「我が半身、魅力的な私に会いたくなるのはわかるが、我々が出会うには、まだ、早い……」
レイカがおなじみの変なポーズで俺に一言そう言い、イモを落として去って行った。
カナンには神社側の飛竜場にいてもらった。
俺は境内で箒で掃除してる巫女さんに来訪を告げ、案内してもらったところ、建物の入り口で部屋着だろうか、だらしない恰好のレイカにばったりであった。
彼女はイモを咥えて猫背で、廊下を通り過ぎるとこだったが、上記のような行動をとり、いなくなった。
巫女さんはレイカが見えてなかったのだろうか?
「二の丸様、こちらでございます」
と涼し気に俺を案内しようとする。
「え、とアレは……」
「こちらでございます」
俺の言葉を遮り、案内しようとする。
なるほど、レイカの厨二は神社のスタッフたちも頭痛の種なんだな、と俺は理解する。
畳の客間に通され、しばらく待つとここの当主・龍乃十条レイが来た。
「二の丸様、お待たせして申し訳ございません」
彼女はピシッと正座し、俺に一礼する。
「いえいえ、アポ……え~事前連絡もなく突然来てしまい、こちらこそ、すみません」
「それで本日はどの様なご用向きでございましょう?」
「実はですね……」
俺は後宮、もしくはお城の敷地内のどこかにクロの、黒龍の神社を建立したい旨を告げた。
「それは……理由をお伺いしても?」
「ガンドウ・ロゥワ大陸……魔大陸で、私は彼女に助けられまして、帰ったら彼女のために神社を作る、と約束したからです」
と言うと龍乃十条レイは深くため息をついた。
「それはそれは……困りましたね……」
「ここには、立派な本殿には炎龍さまが祀られていますが、それぞれ脇の方に他の六龍神が祀られているお社がありますよね。後宮には雷龍と水龍のお社がありますし、あんな感じで派手なのじゃなくてよろしいので……」
「あなたというお方は……わかりました。黒龍様の神社建立にご協力いたしましょう。黒龍様のお社を管理する者もウチからお出しします」
「あ、ありがとうございます! では早速……」
「お待ちください!」
俺が立ち上がろうとするのを龍乃十条レイが制する。
俺はその迫力に押され、座りなおす。
それを見届け、龍乃十条レイが改めて俺に話し出す。
「二の丸様にお話ししたい儀が、ございます」
「はぁ」
「では少々長くなりなすがご清聴お願いします。私は貴族達の手前便宜上、龍乃十条レイと名乗っていますが、私には真名があり、それが”龍之河れい”です」
「それって……」
「はい、私で十二代になりますが正統な”龍河れい”の後継者になります」
「国母の?」
十二代、て……ことは百年に一度交代するのかな?
「はい、”龍の巫女”の継承者です。いずれ二の丸様は龍帝となられるお方ですし我らのことも知ることとなるでしょう」
◇◇◇
龍河れいは超帝国に異世界より召喚された”最後の勇者”である。
彼女は今は失われた超技術、超魔術により勇者に調整された。
いわば改造されたのである。
彼女はその体に龍の因子なるものを埋め込まれ”龍の巫女”として誕生した。
彼女は普通の人間だが一つだけ龍紋があり、それこそが”龍の巫女の龍紋”である。
それは段階的に練度が上がり、最初、小型の竜が扱える程度だったものが段々と大型の、より狂暴な竜が彼女の前にひれ伏し、従うようになる。
最終的には龍神を呼び出し、契約できるまでになった。
しかし、神との契約はただでは結ばれない。
彼女はその身、全てを花嫁となり、龍神に捧げなくてはならない。
その身も心も、魂でさえも。
初代龍人は六十二の子供を作った。
その妹は二人の子を作った。
しかし、その中に巫女の龍紋を持つ者は誰一人いなかった。
そしてその子達がまた子を造り、子孫は増えた
龍河れいの娘、その娘の娘、つまり彼女のひ孫レイナについに”龍の巫女の龍紋”をもつ者が現れた。
レイナは龍河れいに直接後継を任せられ、彼女の死後、”龍之河れい”を名乗りこの国の神事一切を執り行うこととなる。
その後”龍の巫女の龍紋”は必ず”龍之河れい”直系の者に現れるようになり、レイナと名付けられ、次の”龍之河れい”として育てられるようになる。
「以上が龍之河れいのお話です。私もこの名を継ぐ前はレイナを名乗っておりました。龍神様の妻であり、この身は全て龍神様に捧げていますが別に龍神様が何かされるわけではありません。あの方の妻は今でも国母様のなのでしょう……」
◇◇◇
ではなぜ、毎度毎度、炎龍と契約するかと言うとそれは護国のためだそうだ。
もし、この国に危機が訪れたら巫女は炎龍を従い、戦うことになる、そうだ。
「それで、その……黒龍の神社を建立する件と、どういうい関係が……?」
俺は率直な意見を聞く。
「神様は意外と嫉妬深いですよ」
龍之河れいはニッコリと笑い、そう言うが、なんか迫力があった。
「しかし、もう雷龍様も水龍様もいらっしゃいますし……なるようになるしかありませんね。願わくば私の代は平穏無事に終わって欲しいものです」
なんかもうフラグばりばり立ってるような気もするが……。
俺はただクロのために、あの、自分のテリトリーなのに誰も祈ってくれない、寂しがりで可哀そうなヤツのために祈ってやりたいだけなんだ。
魔大陸から帰ってきてから俺は二の丸にある小さな、日当たりのいい四畳半の部屋を俺の物にしてもらい、そこの床の間にクロの髪を入れた箱を置き、暇を見つけて祈ってる。
サキに教えたら時々花を生けたり、水や酒やクロの好きな干し肉なんかをやってるらしい。
夜霧も二の丸にいる時は俺のとなりで祈ってる。
「これ、おかしゃん!」
最初夜霧をその部屋に連れて行ったときはその箱を離さず困ったものだった。
部屋に持って帰ろうとしたので箱から数本髪を取り出し、お守り袋に入れてやった。
今ではそのお守りを肌身離さず持っている。
黒竜神社を立てるとあの娘も喜ぶことだろう。
俺が思っていたことはそれくらいの事なのだ。
俺は龍之河れいの言葉をもう一度噛み締める。
「神様は意外と嫉妬深いですよ」
……あんまり大事にならなきゃいいが……




